公布
大司祭補佐と騎士団長は王への報告を済ませ、広く周知する内容と方法について話がまとまった。
真実を知らせるわけにはいかない。この点について、王と見解が一致したのは不幸中の幸いだった。
これ以上面倒事を抱えては、頭がハゲてしまう。まぁ、ハゲるだけで済むならマシか。
補佐と団長は大聖堂に戻り、上級司祭に報告した内容を伝えるべく、招集をかけた。
集まった場所は大聖堂本館の離れにある建物。
かの浮遊大陸の技師を暗殺した現場であり、冒険者と重要な会議や報告会をする場所だった。
補佐「この度の事件について、王に報告し、公布する内容のすり合わせをしてきた。
これから諸君にもその内容を先に伝えておこうと思う」
団長と補佐の前には、20人ほどいる上級司祭たちが正方形に整列していた。
それらの顔を見回した補佐は話しを続けた。
補佐「公布する内容は次のようなものだ。
1、これより500年は昼と夜が交互に訪れる世界となる。
2、大聖堂と冒険者諸君は地下種とのいざこざ対策をすること。
3、大司祭は夜を排除しようと浮遊大陸に赴いたが、命を落とし、高齢もあって蘇生に失敗したこと。
最後に夜の除去に尽力し、亡くなった大司祭に感謝の意を表して今回の公布を終わりとする。
以上だ」
団長「夜の除去をしようとして亡くなったのあれば、本来なら王からの勲章授与がふさわしいが、大犯罪者であることを考慮して、これは取り下げとなった。
民衆からも勲章授与について意見が出るであろう。
その時は、大司祭様がそのような俗世間的なものを欲するはずがないと判断したと説明せよとのことだ」
皆静かなままだった。
これからの生活を考えれば当たり前だ。
公布内容にまで頭はまわらないだろう。
補佐「私が大司祭となるわけだが、補佐をこの中から選び、追って知らせる。
正式に王都から公布が届くまでは、役職はそのままとする」
団長「では続いて、夜対策についてだが・・・」
大聖堂では会議が続いていた。
そして1週間後、王都からの正式な使者が大聖堂と冒険者ギルドに到着し、公布文が配布された。
それぞれの建物の前に張り出され、大聖堂とギルドは今後を憂う人でごった返していた。
騎士を巡回警備に出してくれ、冒険者でダンジョンを見張れ。そんな内容ばかりであった。
そして大司祭に献花したいという声が大きくなり、大聖堂の正面玄関と大通りをつなぐ大通路の両脇に広がる広場に献花台が設置された。この献花台の存在は、真実を知る人にとって気分のいいものではなかった。
・・・さて、ここで公布が届く前まで時間を少し戻すとしよう。
大司祭からの伝言を聞いた翌日、大司祭補佐と団長は大司祭を埋葬した場所へ行き、遺体の消滅を確認した。
団長「これでひと段落しましたね」
補佐「まったく大変なことをしてくれたもんだ」
フゥと息をつくと、疲れた様子で補佐は返答する。
団長「さて冒険者には1週間後に連絡すると言いましたが、先に大司祭の伝言を浮遊大陸の人へ伝える必要がありそうですね」
補佐「今後の夜対策や移住計画を策定してからでも遅くないと思ったが?」
団長「どうでしょう。内容によっては手遅れになるかもしれません。早い方がよいかと。
情報の内容がわからない以上、さっさと情報を伝えることが重要と判断します」
補佐は少し考えると団長の意見に同意した。
補佐「では使いを出して呼びに行かせよう。確かにここで情報を温める理由もないな」
団長「ありがとうございます」
団長が頭を下げると、補佐はそれを止めた。
補佐「やめ給え。私が考えつかなかった意見はありがたい。私の一存では誤った判断となりかねんからな」
補佐は団長に礼を言うと、二人は冒険者の到着を待つために大聖堂の離れに移動していった。