王への報告3
今回の一連の事件を直接経験していない王城側の人間には、これは報告ではなく、必死の言い逃れの間違いではないかと思えるような状況だった。
王「神の使い?なんだそれは。それに蘇生できない状態とはどういうことだ?」
補佐「浮遊大陸人には常識らしいのですが、この世界を作った神から使いがやってきて、彼らの天球管理を補佐しているようなのです。
その神の使いが大司祭にはやってもらうことが終わったから死んでもらうということで・・・
我々の知らない即死魔法を大司祭にかけて殺したのです。
そしてその魔法はクラス7を超える魔法とのことで、我々のクラス7の蘇生魔法では蘇生できないと言っていました。そして現に蘇生には失敗しています・・・」
クラス7を超える魔法。またも衝撃の発言である。
王「そんな話を信じろというのか?」
補佐「信じていただく以外に、大司祭蘇生失敗を説明するすべがありません・・・」
またもしばしの沈黙が場を支配した。
王「夜の除去失敗を言い逃れるための説明と受け取っても、辻褄があってしまう状態だな」
その時補佐は手を挙げて近くにいた衛兵を呼びつけ、収納ボックスから1枚の紙きれを取り出して、それを渡した。
そして衛兵はその紙を王へ手渡した。
王「この文字は何だ?」
王は紙をピラピラと振ると玉座横に控える側近を見た。
側近の1人が駆け寄り、その紙を受け取る。
側近「これは・・・古代文字です。ただ、書かれている文字の意味まではわかりません」
王「古代文字というと、かつてこの世界で使われていたという文字か、ふむ。
古代文字が書かれている割に紙が新しい。最近誰かが書いたものということか」
さすがは王族、この世界の歴史は習熟していたため、理解が早かった。
だが、1つ気になる。この世界で使われていた文字?
補佐「大司祭が書いたものであります。それは500年のちに夜を除去する際に必要となる文字列だそうで、浮遊大陸の天球管理の責任者へ渡すよう伝言を受けました」
王「なるほど。この文字を使用する地上種は現在存在しない。読める人物もだが。
それを考慮すると、大司祭が浮遊大陸人だというのは本当のようだな。これは返そう」
そう言うと紙きれを持った側近は補佐に紙きれを返却した。
王「奴が浮遊大陸人であるなら、夜を発現させる理由がまったくないように思われるが、これも説明できるのか?」
補佐「はい。浮遊大陸にある書庫に今回の事件を引き起こすに至った原因の書物があるそうです。
その書庫に侵入するための手段も伝言を受けました。
この書物の存在を浮遊大陸側も知らないようで、彼らと一緒に書物を確認するようにとも言われています。
同時にこの夜がある世界が本来の世界であり、昼しかなかった世界は浮遊大陸人によって作られた世界だと告白を受けました」
夜のある世界が本来の世界。この発言は、衝撃的な内容だっただけに、王城側の衝撃は計り知れないものだった。
王「なるほど。その発言の真偽を浮遊大陸の書物で調べろというのが大司祭の遺言か」
補佐「そのとおりでございます」
王「先ほどの紙切れといい、どうやら夜の除去失敗の言い逃れではなく、これが真実のようだな」
死罪を覚悟した補佐としては、胸を撫でおろせる王の発言だった。
王「夜がある世界が本来の世界などとは世間には発表できんな。ましてや大司祭の行為が原因などと・・・なるほど。
それで最初に報告した住民向けの報告案ができたということか。
内容は側近たちと再考するとして、真実は伏せる方向でいくものとする。
今回の夜の除去失敗について、大聖堂側に責を問うのはやめておこう。
公布する内容と齟齬が出来てしまうからな。以上だ。
もう異論はないな?」
補佐「はい」
王が席を立って退出したあと、側近が大聖堂側に集まってきた。
側近「では別室で公布文の案を作成しましょう」
側近に促され、全員が別室で公布文作成に取り掛かった。
真実を伝えるのではなく、嘘を広めるために。
そしてこれは浮遊大陸側が作った嘘の世界を今度は地上側が不本意ながらも嘘で補強する形になった。