王への報告1
大司祭補佐と騎士団長は上級司祭数名を伴い、王城へ向かっていた。
目的は今起きていることの説明と、ダンジョンと浮遊大陸での一連の出来事の説明である。
国としての機関もあるが、専ら住民のお悩み相談窓口は、街にある大聖堂の仕事だった。
相談内容によっては、大聖堂から国へ要望がなされ、対応が図られるという構図であり、そうでなければ王城へ行くことなど無い状態である。
王城へ向かう馬車の屋根には一本のポールが備え付けられており、大聖堂所属であることが判る旗が翻っていた。今回はそれだけでなく、大聖堂旗の下に黒い一本のリボンもくくりつけられ、旗と一緒にバダバタとなびいていた。重要人物の死を示すものであった。
王城入口の衛兵は、いつもいる大司祭がいないことで、なんとなく黒いリボンが誰を指すのかを察していた。
車寄せに馬車を止め、王城へ入るとすぐに案内役が玉座のある謁見の間に案内を始めた。
事前に王へ報告があると伝令を出していたため、対応はスムーズだった。
玉座のある謁見の間は幅30m奥行き50m高さ7m程という広さで、大勢が入ることを可能とした広さだった。外部からの侵入を防ぐために窓は無く、すべて白色の石造りとなっていた。
一番奥は周りより床が50cm高くなっており、そこに玉座が備え付けられていた。そして入口から玉座までは幅5mで金の刺繍のある赤い絨毯が敷かれていた。
玉座の背後の壁には、上品な白布があり、金糸で縁取りがされた葉のレリーフが刺繍され、同じく金糸で縁取りされた濃紺の菱形が散りばめられていた。
入口から中に通された大聖堂一行は、玉座手前のスペースまで進むと、衛兵に止められて待機していた。
少しすると玉座後ろの王専用ドアから王と側近が入室し、それと同時に待機していた面々は、顔を伏せ片膝をついた。
王「面をあげよ」
顔を上げた面々を見てから王は続けた。
王「大司祭がいないのは報告にあったとおり亡くなったからということか。して、ほかにも重要案件があり、直接報告したいとのことであったが、この”夜”についてだろうか?
そちらの希望通り、なるべく人払いはしてある。遠慮せず報告するがよい」
大司祭補佐「ありがとうございます。報告内容は仰られた通りでございます」
王「以前、大司祭と報告に来た時は、この夜は闇の宝珠を葬り去るための一過性のものであると言っておったな。だいぶ時間が経過したが、まだ終わらんのか?」
補佐「畏れながらご報告致します。夜の除去は失敗に終わりました。夜の除去の儀式における負荷で大司祭様は亡くなりました。そしてこの夜と昼のある世界が500年継続することも判明しました・・・」
王「なんだと?失敗した挙句に500年は昼と夜がある世界になるだと?
そうしたらダンジョンから地下種が出てくることは容易に予想できよう。
一時的な夜の訪問であるから闇の宝珠の持ち出しを許可したのだぞ?
これでは話が違うではないか。何としても夜を除去せよ。異論は認めぬ。直ちに取りかかれ」
王は最後には怒りを滲ませながら言葉を発していた。
王が直ちにやれ、異論は認めぬと言った時点で、これで謁見は終わりのはずだった。
王城側の人間は、これまでの経験から誰しもそう思っていた。
だが実際は違った。
この王様。愚王ではないことが救いです。