大聖堂の暗部
剣が振り下ろされ、床に伏した大司祭。
その大司祭は動かない。死んだようだ。
だが、確実に止めを刺すべく、団長はある騎士を用意していた。
それは僧侶系魔法を行使するために必要な神力値が低い騎士だった。
復活魔法の成功率は術者と死亡者の神力値、死亡者の生命力で決まる。
大司祭はセイジであり、まがりなりにも大司祭だ。神力値はとても高かった。
だが、高齢であるため、生命力は低い。
わざと神力値の低い人に復活魔法を詠唱させることで失敗率が上がるということだ。
団長「滅魂よ。こいつだ。やれ」
滅魂と呼ばれた騎士は、他の騎士をかき分け、死亡した大司祭の前に出てきた。
そして低位蘇生魔法を詠唱した。
蘇生魔法にはクラス5で使用する低位蘇生魔法と、最高クラスである7で使用できる上位蘇生魔法がある。
一度復活魔法による蘇生に失敗すると、低位蘇生魔法では復活できなくなる。
そのため上位蘇生魔法が必要となるのだが、上位蘇生魔法は低位蘇生魔法より成功率が元々高い魔法である。
普復活させたいのであれば、高位蘇生魔法を使用できない場合を除き、低位蘇生魔法は使わない。
団長「もし復活したら、直ちに殺せ」
周りにいる武器を持った騎士に団長が命令した。
魔法の詠唱が終わると、大司祭の体から魔力が抜けていった。
滅魂「無事、失敗しました」
団長は頷くと、口を開いた。
団長「よし、では次をやれ。今度は成功率が少々ある。そのときはわかっているな?」
団長が武器を持って立つ、周りの騎士の顔を見回しながら言った。
騎士は頷くと、攻撃姿勢を取った。
滅魂が高位蘇生魔法を詠唱し、少しして詠唱が終わり、大司祭の遺体がビクンと動いた。
大司祭「ん・・・ん」
言葉にならない言葉を発した大司祭を確認した騎士は、武器を大司祭の体に突き立てた。
大司祭「ぐっ!」
一言発して大司祭は息絶えた。
冒険者にとって顔を背けたくなる光景だった。
団長「やり直しか」
そう言うと滅魂を見た。
滅魂は団長の顔を見て頷き、低位蘇生魔法の詠唱を開始した。
またも蘇生は失敗したようで、大司祭の遺体から魔力が消えた。
団長「こいつも高齢で、生命力はそんなにないはずだ。神職なだけあって神力はありそうだが、それでも限界はあろう」
蘇生魔法は成功しても失敗しても、復活に必要な生命力を失うことになる。
さらには、高位の蘇生魔法でも蘇生に失敗すると、魂が失われ、もはや復活は出来なくなってしまう。
団長たちは、この蘇生にまつわるルールを逆手に取り、いつか誰かが大司祭を復活することがないように、ワザと蘇生魔法を失敗させていた。
そして、成功率の高い高位蘇生魔法を失敗できるように神力の低い詠唱者を用意したのだった。
これまでも大聖堂は、完全なる敵対者や存在を消し去りたい罪人には今回と同じような処理をしていた。
これは表には出ない所業であり、大聖堂の闇の部分でもあった。