大司祭室にて
騎士や冒険者が見守る中、大司祭補佐が両膝をついて床に横たわる何か見つめる。
白い布をめくるとそこにいたのは変わり果てた大司祭の姿だった。
補佐「大司祭様・・・なんという・・・」
補佐は思わず手を口にやり、言葉が詰まってしまった。
団長「補佐殿。落ち着いて聞いてほしい。浮遊大陸で何があったか、説明する」
補佐は声の主である団長を見上げた。
団長「大司祭様は我々を騙していたのです」
補佐「団長殿は何を言っているのだ?」
団長「我々は今、外に広がる”夜”を大司祭様の命により、消すために浮遊大陸に行きました。
このことは大司祭様より補佐殿も聞いているはず」
補佐はゆっくり頷いた。
団長「浮遊大陸中枢にて、夜を除去する作業をするのだとばかり思っていましたが、大司祭様は夜が消えないようにしてしまったのです」
補佐「それは何かの間違いではないのか?」
団長「いえ。大司祭様自らの口で夜と昼が交互に訪れる世界にしたと言っていました。
これが”正常な”世界なんだと」
補佐「夜がある世界が正常?いったいどういう・・・!!」
補佐は素早く立ち上がると大司祭室のドアの前まで後退した。
補佐「団長。大司祭様を何か理由があって殺したんですね?そのためにこんなホラ話をでっちあげていると」
団長「そうではありません。それが事実なのです」
そう言うと団長は冒険者の方を見た。
戦士「団長の言う通りなんです。大司祭様が夜を消すのではなく、まさか夜のある世界にするのが目的だったなんて、今でも信じられませんが、浮遊大陸の人たちも夜が消えない世界になったと言っていたので、間違いないと思います」
補佐「口では何とでもいえる。そうだ、そこまで言うなら大司祭様を復活させて本人から聞き出そうではないですか」
鼻息荒く補佐は提案をした。
団長「信じてもらえないと思っていたので、最初からそのつもりで遺体を持ち帰ったのです。
上級司祭もここに召集して大司祭様の復活から見守ってもらえませんか?」
補佐は頷いた。拒否されると思っていた補佐として、この返答と提案は驚きしかなかった。
補佐「そこまで言うのであれば、そうしましょう・・・」
一呼吸おいて補佐は頭に嫌なことがよぎった。
そう、彼らの言葉が真実である可能性が極めて高いということだった。
拒否しないという選択肢を彼らが選んでいたことが根拠だった。
しばらくすると大聖堂の上級司祭が大司祭室に入ってきた。
補佐「これで大聖堂の上級司祭全員が揃いました。復活はこちらでやらせて頂く」
団長は頷いた。
上級復活魔法の詠唱が始まり、終わると大司祭の体が光に包まれた。
大司祭「う、う・・・ん」
大司祭は声にならない声を出すと、ゆっくりと起き上がった。
目の前には見慣れた補佐と上級司祭たち。その背後には騎士たちが立っていた。
大司祭「ここは?いったい?」
混乱する大司祭に補佐が優しい声でゆっくりと説明する。
補佐「大司祭様。ここは大聖堂の大司祭室です。復活魔法で復活なされたのですよ」
大司祭は事情を理解できた。そしてこれから何をされるのかも。
団長「さて、大司祭・・・様。あなたが浮遊大陸でやったことを補佐含め、上級司祭に説明してください。夜のある世界にしたと」
床から起き上がった大司祭を見下ろす団長の目は、かつてのような大司祭への尊敬の眼差しではなかった。