戦闘終結
勝負はあった。
アナウンスで戦闘中断が呼びかけられ、訓練場の中央には回復要因である僧侶たちが大量に転移魔法で送られてきた。
両陣営とも転移してきた僧侶に指示して前衛陣を回復させ、残りは獣人部隊の壊滅した後衛に向けて走っていった。
防衛長官「後衛が壊滅・・・攪乱要員にここまでかき回されるとはな」
腕を組み、力なく言う防衛長官を見て戦士が声を掛けた。
戦士「ダンジョンでも敵後衛を始末するのに有効な手なんですよ。
いつまでも後衛を自由にしておくとロクなことになりませんから。
運用していれば後衛の有用さは理解できていますよね?」
至極当然のことを指摘された防衛長官。
訓練では力と力。正面からぶつかるものばかりだった。
搦め手は前衛を崩すための横からの攻撃だけで、後方には回れなかった。
この訓練場が広いため、後方に回るには前衛と後衛の距離がありすぎて、後衛への奇襲が成立しなかったという背景もある。
魔法による砂煙などがあっても、獣人は通常の人間と同じくらいのサイズだ。
50mも移動しようとすれば見つかってしまう。
そんな事情もあって、後方への奇襲は浮遊大陸勢にはなかったのだった。
防衛長官「魔法の武器や前衛陣の魔法詠唱、フェアリーによる奇襲など、我々の認識外の攻撃にしてやられたといったところか」
団長「確かにこれだけ大勢の部隊を一度に動かすには、純粋な戦士職で固めた前衛は指揮命令が簡単で効率的であることは確かだ。だが応用力は失われてしまう」
団長が少し詳しく欠点を指摘してくれた。
団長「この大きな戦場と大部隊の運用を見るに、我々のように少数による狭所での戦闘とは真逆の訓練をしていたのだな」
防衛長官「少数など数で潰せると思っていましたが、そうでもないようだな。
今回、あなた方が侵入してきたときに奇襲をかけたが、こちらの想定していない方法で戦闘を回避されてしまうし・・・実戦による経験値の差には驚かされましたよ」
団長と防衛長官は互いに戦場の動きについて、あれこれ話し合っていた。
感想戦といったところか。
戦士はそんなことより、仲間の元に駆け付けたくて仕方が無かった。
大司祭「お話し中すまぬが、制御室への案内を頼みたい。
戦闘による決着はついた。これからは最低限の護衛がいればよいだろうから、騎士団の大多数は
ここで手当てを続行させよう」
大司祭は次の行動を起こさせようと促した。
だが防衛長官はすぐに応じてくれず、逆に質問を受けることになってしまう。
防衛長官「そういえば、聞きたかったことが1つあったんだが」
そう前置きしてから3人の方へ体を向けた。
防衛長官「この訓練場に来る前にいた建物。数ある制御棟の中でもあそこは特殊で、簡単に侵入できないようになっている。どこから入り込んだんだ?」
監視室でのやり取りでは侵入方法の解明より、侵入されたことへの対処が大事だということで、この問題は放置していた。
戦士「ああ、地下からですよ。島を飛び降りて・・・あれは変な体験だったなぁ」
大司祭は止めようとしたが、遅かった。
しみじみと言う戦士だったが、大司祭の突然の機敏な中断させようとする姿が目に入り、マズったか?と思ったがすでに言い切ったあとだった。
大司祭「・・・」
防衛長官「島を飛び降りた?」
しばらく防衛長官は顎に手を当てて自分の記憶を探っていた。
そういえば長官の座を引き継いだ時に古の装置の説明を受けた気がするが、今は転移装置を使うから、これは使うことは無いと説明を受け、適当に聞き流したことを微かに思い出していた。
古の装置・・・そうか。この大司祭とかいうジジイが100年以上前の犯罪者だとするなら知っていてもおかしくないものなのか?いやそもそも犯罪者は司書長官であって、この制御棟には関係ないはず。
だとするとなぜ知っている?
防衛長官の頭の中には色々と考えが巡り、外界を遮断していた。
何度目かの呼びかけだったのだろう、肩を揺すられて現実に戻ってきた。
目の前には大司祭がこちらの顔を見ながら、肩を揺すり、呼びかけていた。
防衛長官「ああ、すまん。考え事をしてしまってな・・・」
大司祭「制御室へ案内してもらおうかの」
防衛長官か無言で頷く中、近くにいたはずの戦士は、そわそわしながら戦闘の終わった戦場を見ていた。
それに気づいた団長が行けと手で合図した。
それを受けて戦士は部屋を飛び出し、仲間の元に走っていった。
大司祭はタイミングが悪いなと感じて、眉間にしわを寄せていた。