戦闘3 戦場の変化
別室で団長と戦士が会話している頃、戦局は変わりつつあった。
騎士団の横腹を突こうとする獣人部隊を冒険者チームや後衛がうまく対応して防いでいたが、所詮は多勢に無勢。徐々に防御しきれなくなってきていた。
騎士団が敵陣を中央突破するとか、何か陣形に変化が起きないと押し切られ、戦線は崩壊する。
前衛と後衛の中間位置にいた僧侶はその状況がよくわかった。
これは別室で見学していた者たちにも共通の認識だった。
団長「このままではマズイな・・・」
ぼそりと呟く団長の顔は少し青かった。
戦士「スカウトさんも背後に回るはずが、横に漏れた部隊の対応に追われてて本業に移れていないようですし、これはマズイ・・・あとはフェアリーさんたちか」
戦士は自分のパーティーのメンツはこの現状を打開する手を持っておらず、フェアリーチームが作戦通りに動いてくれることを祈るのみだった。
大司祭と防衛長官だけはジッと戦況を見ていた。
戦士の呟きが聞こえた団長が戦士の方に顔を向けた。
団長「なるほど、スカウトが背後に回って援護する予定だったか。
背後に回ってるやつがいないところを見ると、そっちの作戦は失敗か?」
団長の口が少し引きつっていた。
戦士「うーん、あとはフェアリーチームが作戦とおり動いてくれているかですが、小さくて見えないんですよね」
団長はそれを聞いてハッとした。
誰もいないところで戦闘している獣人部隊はいない。
つまり目に見えている騎士団や冒険者を相手しているということだ。
フェアリーを相手しているなら、ここからは誰もいない空間と戦闘しているように見えるはずだ。
フェアリーを獣人部隊も発見できていないか、そもそもフェアリーも味方の集団に紛れているかのどちらかになる。
団長は顎に手を当てて戦士を見ている。
団長「これはひょっとすると、ひょっとするかもしれんな。たしかフェアリーに暗殺職がいたよな?」
団長を見上げる戦士は頷いた。
団長「なるほど。ふむ。もう少し戦況を見守るとしよう」
暗殺職というキーワードで戦士も何が言いたいのか理解した。
発見されていないフェアリーによる奇襲が成功するということだろうと。
その時だった。
獣人部隊の後衛が急に動き出した。
整然と並んでいたのに、バラバラに散り始め、魔法の詠唱も止めている者が何人もいた。
これを見た団長と戦士は「あっ」と声をあげた。
防衛長官「何事だ?」
前衛が良い感じに攻め立てていたが、後衛の様子がおかしいことに防衛長官も気づいた。
そう言ってる間にも獣人部隊の後衛が少しずつ床に倒れて行った。
首からは血が流れていた。
防衛長官「死んでる・・・?」
団長「冒険者チームの仕事だろうな」
団長の顔はさっきまでと違い、顔から青さは消えていた。
事態を理解しきれていない防衛長官を見た戦士が説明を加える。
戦士「うちらの仲間の暗殺職が後衛に回り込んで、奇襲しているんですよ。多分ね」
その説明をしている状況で、今度は獣人部隊の後衛の中央で範囲魔法が炸裂した。
フェアリーチームの魔法使いたちの仕業だった。
防衛長官は目を細めて暗殺職とやらを探すが、見つからない。
半ばパニックになっている防衛長官を見て、戦士がさらに助け舟を出した。
戦士「フェアリーさんたちです。小さすぎて私も見えてないんですけどね。
暗殺職と魔法使い数人が後方へ戦場を迂回しながら回り込んだんでしょうね。
迂回していた分、時間がかかってこちらの戦線は崩壊寸前でしたけど」
防衛長官はグチャグチャにされる後衛陣を見て呆然としつつも、説明を理解しようと努めていた。
フェアリー。確か地上にいる獣人の原生種の1つにそんなのがいた。
兵としては武具のサイズが他の種族と違いすぎて効率が悪いため、浮遊大陸における運用から除外された種族だ。
まさかこんな落とし罠があるとは。見えなくて奇襲を許しただと?
考えもしなかった事態が実戦でまたしても発生した瞬間だった。
何も言葉を発せずにいる防衛長官に皆が顔を向けた。
気絶してるんじゃないかと疑う程に静かだった。
それに気づいた防衛長官の目に光が戻った。
防衛長官「後衛が崩壊したか。だが、こちらの前衛もそちらの前衛を圧倒できれば勝負はわからんな」
獣人部隊の後衛崩壊は間違いない事実になりそうだが、それと同じくらいに騎士団も横に回り始めた獣人部隊に包囲されつつあった。
最終決戦が継続していますのて、今しばらく経過を見守りください。