軍事訓練場の理由
地上勢力はアナウンスを聞いて、戦闘開始の合図を待っていた。合図があれば両陣営にとって初の大規模実戦となる。
防衛長官が考えに考え抜いた結果が、この訓練場での決戦だった。
戦闘開始時間をこちらが指定できるため、兵を臨戦態勢で待機させる必要が無い。
さらに直前までゆっくり待機できる。兵への配慮としては十分と思えた。
また、不意打ちで地上勢力を壊滅させるのではなく、正面からぶつかり合い決着を付けることで、相手も納得しやすい環境にしたつもりだった。
地上勢力の約2倍の兵力を投入しているが、数的有利がこちらにあることは地上勢力も理解しているだろう。
圧倒的すぎない数的有利なら問題ないはずだ。
問題があるとすれば2倍の差をもってしても負けた場合だ。
敗因は何なのかを後で検証する必要がある。
蘇生部隊を用意したのも、彼らをこの決戦場に引きずり出すための策の1つだった。
全滅しても蘇生される、全滅せずとも決着がつけば蘇生してもらえるとあれば、彼らも安心だろうと考えていた。
その為に各部署に連絡し、復活魔法の使い手や転移魔法の使い手を手配していたのだった。
あとはこの戦闘の結果を待つだけである。
先ほどから頭をよぎるのは、負けた時だ。
彼らを制御室に案内し、天球操作で何をするつもりかわからないが、彼らを招き入れなければならない。
この浮遊大陸文明の中枢部に部外者を入れるということだけは、何としても避けたかった。
だが、それもかなわぬかもしれない。
となればあとは司書長官と天球長官で進めている分離技術者の再育成にかけるしかない。
育成が成ったとき、地上へ進出し、光の宝珠から闇の宝珠を分離させる。
その進出時に彼ら地上勢力に対抗できる戦力を用意することが、次の任務になる。
とはいえ、その任務は私の後任がやることになるのだが。
あとは前もって兵である獣人部隊に伝えていた時間になれば、戦闘開始の合図が始まるはずだ。
獣人部隊は開始時刻を知っているから、フィールド中央を皆で凝視する必要はない。
一方の地上勢力は開始時刻を知らないから、まだかまだかと凝視しているだろう。
この心理戦も数的有利の他に用意したものの1つだった。
色々と頭の中を駆け巡っていたが、時間はほとんど経過していなかった。
合図の時まで待つ以外にやることは無かった。
戦士「戦闘開始まであとどれくらいですか?」
やはりこの質問が来たか。
防衛長官「アナウンスさせましょう」
そう言うと部下に通信で合図を送った。
すると会場全体にあと2分であると告げられた。
あまり時間を置くと地上勢力がリラックスできてしまう。
逆に短すぎては獣人部隊の戦闘準備が整わない。
それを考慮しての2分だった。
アナウンスがあってから獣人部隊があわただしく動き出した。
戦士は自分の仲間を必死で目で追っていた。
団長「浮遊大陸には遠隔地の仲間への連絡手段があるのか。戦場では指揮官との連絡に大いに有効な手だな」
騎士団の指揮官である自分がここにいて、一切部下との連絡手段を持たないことに反して、防衛長官は手段がある。団長には何か嵌められた感があった。