譲歩なき提案
通路で対峙する浮遊大陸と地上の両勢力。
敵対するはずの関係だが、出迎えられるという想定していなかった対応をされた地上勢力側。
転移装置を使わずにいつの間にか侵入された浮遊大陸勢力側。
互いに意表を突かれた形になっていた。
そんな中、大司祭から目的を訪ねられた防衛長官は、まず目の前の"犯罪者"が何者か確認したかった。
防衛長官「貴方が地上側の責任者ですか。地上の王でしょうか?」
王は確かに地上にいるが、大司祭は王ではない。
すぐに団長が答えた。
団長「我らが大聖堂の最高責任者、大司祭様です」
そう言うと、横にいた戦士と大司祭が頷いた。
"大司祭"。防衛長官はこの名前に聞き覚えがあった。
天球を調整すれば夜は消えると地上で触れ回っている人物だ。
防衛長官「そうでしたか。王ではないようですが、今回の浮遊大陸侵入の責任者ということでよろしいでしょうか」
首謀者以外と交渉しても無駄である。この人物がそうなのかを確実にしておきたくて確認していた。
それを聞いた団長と戦士は大司祭の方を見て、答えを待った。
大司祭「そういうことになりますな」
交渉相手として間違いないことは確認できた。
防衛長官「貴方はもしかして浮遊大陸人ではないですか?過去にここで生活していたのでは?」
大司祭「はて?人違いではないでしょうか」
防衛長官「そうですか・・・わかりました。
1つ教えてほしいのですが、この建物は普通の方法では侵入できません。
どうやって入ってきたのでしょうか」
戦士が答えようと少し前に出たのを大司祭が止めた。
大司祭「防衛長官殿。こうして出迎えてまで姿を現したのはなぜでしょうか?
我々にはやれねばならぬことがある。
話しだけなら私以外の者には任務遂行を指示したいのだが、よろしいか」
防衛長官「やらねばならぬこと。それは天球操作をして夜をどうにかするというやつでしょう?」
そう言われて大司祭は頷いた。
防衛長官「それでは夜は消えないと大聖堂に説明したはずです。
地上人であるあなた方より、はるか昔から天球管理をしている我々の方が天球には詳しい。
その点から言わせてもらうと、貴方のやろうとしていることでは夜は消えません。
光の宝珠から闇の宝珠を分離する以外に、方法はないのです。
なので直ちにこの地より撤退し、分離作業を受け入れていただきたい」
天球操作で夜を消すと、地上人は気にならないレベルで夜の影響が残る。
これを嫌う浮遊大陸人は、宝珠の分離を力説すると事前に大司祭から聞いていた戦士と団長は、直接浮遊大陸の責任者に言われても戯言としか受け取れなかった。
事実を説明したのに大司祭の横に立つ護衛の表情に変化が無かったのを防衛長官は確認した。
動揺していない?となると本心から天球操作でどうにかなると思っているのか。
大司祭「それはできません」
大司祭の言葉を聞いて、防衛長官の表情にちょっとした変化を見て取った大司祭は理由を続けた。
大司祭「あなた方の夜に対する適応力は我々より低い。それが原因としか思えない提案だからですよ。
夜を消すことは、我々も同意できます。
このままではダンジョンから這い出る地下勢力が夜の間、地上で暴れまわります。
彼らは闇の宝珠の力を受けており、宝珠が無くなればその力を削ぐことが出来る。
あなた方と違って、こちらは地下勢力の影響も考慮しなければなりません。
だから宝珠の分離では、闇の宝珠が地下勢力の元に戻り、すべてが元通りになるだけとなり、解決しません。
天球操作で夜を消すことで、結果的に闇の宝珠も夜も消すことができる。
ご理解いただけただろうか」
戦士と団長は大司祭の説明を聞いて、うんうんと頷いていた。
一方の防衛長官はそれを聞いて、これはダメだと思った。
何を根拠に天球操作で夜が消えると思っているのか、それがわからなかった。