長官室会議5
防衛長官が強めの口調で聞いてきたため、法務長官はなだめる様に両手を使って「抑えるように」とポーズした。
ペンダントがあれば誤魔化せる理由。法務長官はそれを遂に口にした。
法務長官「ペンダントには所有者を浮遊大陸人ではないと判断するような魔法が組み込まれている。
これによりダンジョン最下層の魔法の仕掛けが発動しなくなるというワケだ」
防衛長官「そうか、犯罪者が浮遊大陸人と判断されなければ、そもそも浮遊大陸人を対象としたダンジョン最下層の強制転移魔法は発動しない!」
防衛長官が席から立ち上がりながら発言した。
司書長官「今回の犯罪者はペンダントをどこかで入手し、着用することで浮遊大陸に侵入できたということだな」
法務長官は頷いた。
司書長官「だがな。今初めてペンダントの効果とダンジョン最下層の仕掛けについて知ったくらいだ。
その犯罪者が知っていたとはとても思えん」
法務長官「事実、モニターで確認したときに奴はペンダントを付けていた。
偶然かどうかはわからんが、それにより結果的に侵入できてしまった」
防衛長官「偶然・・・か」
司書長官「ウチの書庫にもその仕掛けについての書物は無かった。元司書長官である犯罪者も知らないだろう」
法務長官「とりあえず、これで1つ謎は解けた。あとは年齢の問題だが、そもそもそんなことより、奴をどうにかする方法を考えたほうがいい。幸い宝珠の分離技術の問題は、書物が見つかって対応できる目途が立ったことだし、そちらの対応の方が大事じゃないか?
謎が解けても奴を止められなければ意味がないからな」
法務長官は立ち上がり、2人の長官を見下ろしながら言った。
すると防衛長官も立ち上がり、発言した。
防衛長官「確かにそうだな。変なところで深みにハマってしまったな。
今はナゾナゾを解くより対応が優先事項だな」
法務長官と防衛長官のやりとりを聞いていた司書長官がそのとき何かに気づいた。
司書長官「あー、すまん。せっかく話が終わったのに蒸し返してすまないが、1つ気になることがある」
法務長官と防衛長官は司書長官を見下ろした。
防衛長官「なんだ?」
司書長官「ダンジョンや地上にいる獣人種。元はここで作られた種だろう?
なぜ彼らはペンダントを持っていないのに強制転移させられないんだ?
浮遊大陸人であるはずだろう?」
それを聞いた防衛長官は、あーなるほど確かにといった反応をした。
法務長官「獣人種にはペンダントの効果魔法が遺伝子レベルで埋め込まれている。
だから獣人種は生まれながらに魔力値が高めなんだよ。
埋め込んだ副作用とでもいうのかな」
それを聞いた司書長官は目を見開いた。
司書長官「そういうカラクリでしたか。このことは実験棟長官や研究棟長官は知っているので?」
法務長官「ああ。その点は研究棟長官が専門だからな。彼らも当然知っている」
司書長官「いやいや、すまんね。職業柄どうしても色々と気になってしまってね。
知識を得られるとは、これほど喜ばしいことはないな」
司書長官は1人満足している様子だった。
防衛長官「では今後の対策だが、とりあえず防衛戦力はすべて制御室前の広場と通路に配置した。
ここで最終決戦をし、奴らを追い返す。
失敗すれば彼らの勝利だ」
法務長官「勝機はあるのかね?」
防衛長官「特異種がいれば確実といえましたが、彼ら亡き今、確信は持てませんね」
法務長官「制御室の防衛は君の管轄だろう?何か余裕が感じられるが、隠し玉でもあるのか?」
防衛長官は天を仰いでから、法務長官の方を見た。
防衛長官「そんなものはありませんよ。ドラゴン金属の武具も使えない、特異種もいない。我々は切り札を全部失ったのです。あとは流れに身を任せるしかないかと思いましてね。
もし防衛線を突破されたら、再度直接対話で解決できるか試みる予定です」
どこかすっきりとした表情の防衛長官を見て、法務長官はそれ以上は何も言わなかった。
もうどうにもできないのだろうと悟ったからだった。
防衛長官「さて。管理室に戻ってモニターでの監視を再開しましょうか。
折角ですから司書長官もご一緒にどうぞ」
3人は連れ立って長官室を後にしたのだった。
長い長い長官室でのやり取りが終わりました。
獣人種が浮遊大陸で作られた種であることは、大分前に暴露しましたが、魔力が高い理由を明かしていませんでした。
その答えを最後におまけとして暴露した形です。