懸念
制御室に至るまでに浮遊大陸側の妨害は絶対にあるだろう。
これまで散々妨害してきたくせに、ここ最近は全然妨害をしてこなくなった。
おかしい。明らかにおかしい。
何か策があって、妨害を中断しているとしか思えなかった。
事実、浮遊大陸側は無駄な防衛をやめて、地上種のゴールである制御室付近に部隊を集中配置していた。
それ以外の地区での迎撃は捨てるという判断をしていた。
スカウト「ここに来ても、まだ妨害を受けないのが奇妙だな。ここは浮遊大陸側にとって重要地区じゃないのか?」
戦士「戦力の逐次投入をやめて集中運用するにしても、数は圧倒的にあちらが多いはず。
ある程度まとめて要所要所で迎撃したほうが、こんな建物内部の戦闘なら有利なはずなんだけどな」
魔剣「ダンジョンの小部屋戦闘でもそうだが、場所に合わない大人数は邪魔なだけだ。
この騎士軍団も30ほどいるが、この建物で戦うなら、大通路とかじゃないと数が生かせないな」
僧侶「隠し通路からの奇襲など、いくらでもやれるのに何故仕掛けてこないんでしょうね」
魔法使い「思ったより残存兵力が無い?」
戦士「その可能性はあるね」
魔剣「あるいは戦闘慣れしていないかだな」
戦士「どういうこと?」
魔剣「我々が相手してきた浮遊大陸の獣人兵たち。魔法職との連携や前衛との連携など、どうもぎこちないという感じがあった」
スカウト「確かに後衛への奇襲は成功しやすかったな」
魔剣「つまり、仕掛けてこないんじゃなくて、その発想が無いのかもしれん」
これまでの経験から、それらしい結論を導き出した。
戦士「だが、そうとも限らない。相手を過小評価することなく、警戒は続けよう」
スカウト「了解だ」
いまや歴戦の冒険者となった彼ら。すぐに甘い考えを改め、危険な可能性の1つに対応すべく気持ちを切り替えていた。
その頃、浮遊大陸の管理室では脱走犯かもしれないということで、引き続き監視をしていたが、
建物を出たところで監視が途切れ、そこからどの建物にも入っていないために監視モニターに反応が無く、見失っていた。
防衛長官「奴らはどこへ行った?」
管理官「浮遊大陸とダンジョン最下層をつなぐ建物から出た後、足取りがつかめません」
管理室では、あれだけいた地上勢力がただの1人もモニターに映らなくなって、あちこちのモニターをチェックしていた。
なにやらトラブルかと思い、声を掛けずに法務長官はその様子を見ていた。
防衛長官「法務長官、先ほどの地上勢力が建物を出てから消えてしまったようで、現在捜索中です」
声を掛けられた法務長官はそのとき、1つの可能性を示した。
法務長官「なにかあって、地上へ帰還したのでは?」
法務長官の言ったことは防衛長官も考えていた。そこで建物外部を見る数少ないモニターを確認していた。
防衛長官「建物外部には霧が出ています。この霧は外部の者が侵入すると発生するようになっています。つまり、奴らはまだこの浮遊大陸にいるということです」
法務長官「なるほどな。建物外部を見るモニターはもっとないのか?」
防衛長官「外部モニターは外の様子を確認する程度の目的で設置されており、このような侵入者対策用ではないので、数は少ないのです」
建物内部に重要なものがある浮遊大陸において、建物外部の情報など平時にはどうでもよかった。
だから監視モニターが設置されていなかったのだった。
法務長官「となると奴らが建物に侵入するまでは足取りは不明ということか」
防衛長官「そういうことになります」
その時モニター監視をしていた管理官が呟いた。
管理官「建物内部にいれば監視モニターに捕まる。外にいれば捕まらない。霧もあるなら建物外部をうろついているということで確定じゃないのかな」
その一言を聞いて焦っていた防衛長官は己の愚考を呪った。
防衛長官「そうか、そういうことか。建物外部に全員がいるのであれば心配事はない。
引き続き監視を継続し、反応があったら知らせよ」
防衛長官はそう指示すると、法務長官を伴い、長官室へ戻った。