遺跡地下
休息日を挟んだ一行はダンジョン探索の準備をしていた。
戦士「今日こそ、あの遺跡で発見した階段を下りて探索しよう」
スカウト「そうだな。遺物収集が目的だからな」
魔剣「装備もある程度新調できたし、予定通り行こう」
いつもと同じく魔剣が女将に鍵を預けて、宿の入口で合流した。
スカウト「緊急帰還アイテムのスリッパは僧侶が持っててくれ」
僧侶「私が?」
戦士「ああ、昨日スカウトさんと話してたんだが、ふいうちされた時って、最初に攻撃を受けるのは、うちらの陣形だと前方のスカウトさんと私のコンビか最後尾の魔剣さんです」
僧侶「そうですね。魔法使いさんと私は真ん中にいますからね」
戦士「なので、攻撃を最初に受けないのは、スペルキャスターのお二人なんです」
僧侶「であれば、戦線を支えるために回復する私より、魔法使いさんが持っていた方がよいのでは?」
スカウト「魔法使いには即、状態異常攻撃でサポートに入ってもらいたい。
それすらレジストされたら、もう魔法使いはアウトだ」
魔法使い「うぇぇ」
戦士「そこである程度耐久があって、すぐ回復できる僧侶さんが、パーティーを回復しても無理と判断したなら、即離脱してもらいたいんです」
魔法使い「私はそのための時間を稼ぐ役ってことね」
戦士「もちろん、うまく状態異常が決まれば戦線を立て直せますので、最悪の時は、、、ですね」
魔法使い「しょうがないか・・・」
僧侶「なんか責任重大な役割ですね。パーティーの命運を握るスリッパか」
魔法使い「見た目は豪華なスリッパなだけなのにね」
スカウト「万が一の話だからな。決めておかないと、いざって時困るだろ?」
僧侶「このスリッパ購入したときは、こんなこと考えるとは思ってませんでしたよ」
僧侶は苦笑いしながら応えた。
戦士「では出発しますか」
魔剣「そうだな」
一行は遺跡を目指して、ダンジョンに入っていった。
地下5階 遺跡
スカウト「この階段だな。長いな」
僧侶「また2階層分あるんですかね」
戦士「降りてみましょう」
地下7階
階段を下りた先は通路になっており、その先にドアがあった。
スカウト「珍しく空間じゃなくて、通路に出たな」
慎重にドアを開けると左右に通路が分かれていた。
両方の通路の先を少しだけ確認してみたが、どちらも細かく分岐がたくさんあった。
スカウト「じっくりマッピングするしかなさそうだ」
探索をしていると、ある小部屋に人の気配がした。中を伺ってみると冒険者がいる。
スカウトはゆっくりドアを開けて挨拶した。
冒険者「お?あんたも冒険者だな。全滅には気をつけろよ。
ワシらも先日全滅してのぅ。仲間に回収されて復帰は出来たんだが、金目のものが無くなっててなぁ・・
とりあえずは生活費稼ぎをするハメになっちまったわい」
そういうと冒険者は、部屋のあちこちの調度品をどかしたり、中を確認する作業をする仲間の元に戻った。持ち帰るものを品定めしているようだった。
スカウト「ここはもうだめだな。他へ行こう」
一行は部屋をあとにすると、また探索に戻った。
スカウト「ん?また真っ暗部屋だな」
少しドアを開けて中を確認したスカウトが言った。
僧侶「ランプがダメになりそうですね」
戦士「ほかの道を先に探索しますか?」
スカウト「そうだな」
そう言って引き返し、別の通路の探索を始めた。
長い一直線の途中に右へ行ける道が3つ見える。
スカウト「とりあえず、まっすぐ奥まで行ってみよう」
長い通路の中ほどまで来たところでスカウトが何かに気づいた。
スカウト「ん?後ろの通路が消えた?壁になってる・・・」
魔剣「なんだこれ。ドアじゃないな。壁になってる」
僧侶「魔法の壁ですかね、片方からは通路に見えるけど、そこを通過すると実は壁って」
スカウト「一方通行か。仕方ねえ、進むか」
また後ろが壁に変わった。
スカウト「なんか閉じ込められたりしねぇよな?」
僧侶「そのときはスリッパで帰りましょう」
魔法使い「全滅以外でも使い道あるわね、そのスリッパ」
魔法使いはそう言うと、僧侶の方をみた。
通路の先にはドアがあり、何か書かれている。
”指揮官待機室”
スカウト「お偉いさんの部屋か」
中に入るとそこは単なる部屋状の空間で、何もなかった。
魔剣「先ほどの一方通行といい、ここは敵を追い詰めるための部屋だったのかもしれないな」
スカウト「本来なら、俺らのあとから敵がなだれ込んでくるってか。嫌だねえ」
一行は部屋を出ると通路から延びる分岐路を進んだ。
スカウト「この先もダークゾーンだが、通路が壁になっちまって、もうここしか道が無いから入るぞ」
ランプが消えてしまい、手探りで進んでいると通路に出た。
予備のランプを使うと通路がよく見えた。またも分岐路がたくさん目に入る。
ゴブリンらしき団体が通路を横切っていったのが見えた。
スカウト「ふいうちするか?」
魔剣「放置して後ろから攻撃されてもやっかいだ。やっちまおう」
一行はゴブリンが見えた通路へ急いだ。
スカウトが奇襲できると合図すると、魔法使いと僧侶は魔法の詠唱を始めた。
沈黙魔法がまずは成功したようだ。続いて睡眠魔法が成功し、一団はほとんど崩れ落ちた。
前衛らしきゴブリンは全部寝ているが、スペルキャスターらしき奴らが数人起きていた。
戦士と魔剣は起きているスペルキャスター目指して突進した。
ゴブリン魔法使いは魔法で応戦しようとしたが、声がでなかった。
混乱するスペルキャスターのゴブリンたちに攻撃してまわり、起きていた奴らの始末は完了した。
スカウト「よし、寝ている奴にとどめを刺そう」
一撃で確実にゴブリンを仕留めていくと、スカウトは突然足に痛みを感じた。
スカウト「ん?トカゲがいる。こいつらのペットか何かか?」
すぐに魔法使いが睡眠魔法をかけた。
スカウト「毒か?目がくらくらする」
僧侶「毒消し薬を使ってください」
収納ボックスから取り出すと、スカウトはそれを飲み干した。
スカウトはすぐに通路の後ろの安全を確認すると、一息ついた。
戦士「戦利品がいくつかありますね、とりあえず詰め込めるだけ、ボックスにいれますか」
通路を進んだ先にドアがあり、何か書かれている。
”倉庫”
スカウト「何かあってほしいぜ」
期待してドアを慎重にあけると、そこには大きな空間が広がっており、大量の食糧備蓄をするにはちょうどよい広さだった。
かつては山積みの物資で溢れていたのだろう。
いまではその面影もなく、何もない空間が広がっている・・・
戦士「何もありませんね、ここも調査済みかあ」
戦士はがっかりしていた。
僧侶「ほかをあたりましょう。ここにいても仕方ありません」
気を取り直して、再度探索を続けていると、またしても何か書かれたドアが見つかった。
”食堂”
スカウト「飯は腐ってるだろうな。何かあるといいんだが」
埃だらけの床には銀製の食器が散乱していた。
その床にはテーブルの脚があったであろう部分だけ埃が積もっていなかった。
そして床素材がくっきりと見えていた。
テーブルを最近運び出したのだろう。
魔剣「最近運び出したのだとしたら、まだ未発見の遺物が期待できるな」
一行は食堂と書かれた朽ちた部屋の中を探索し始めた。
戦士「ん?銀食器じゃないな、なんだこれ?」
スカウト「確かに銀食器ではないな、遺物かもしれん」
僧侶「やっと発見ですかね!当たりだといいんですが」
魔剣「とりあえず収納しましょう」
ほかにめぼしいモノは無かった。
魔法使い「じゃあ、この変な食器を複数持って帰ろうか」
スカウト「まだ探索する余力はあるが、これが何か気になるな。一度帰還しないか?」
戦士「そうですね、気になりますね」
ほかのメンバーも異論はないようだった。
一行は食堂をあとにして、地上へ帰還することにした。