帰還と報告2
大司祭は、大聖堂が与えていない情報について、浮遊大陸人から洩れる事態を想定していなかった。しかし、戦士たちは騎士団とは違い、現地人に直接聞いて回っていた。
前回、戦士たちが報告してきたときも、中央から制御棟への移動方法を浮遊大陸人に聞いて発見したと言っていたが、まさかこれを続けているとは思わなかったのだった。
詰めが甘かったかと後悔したが、今更である。
浮遊大陸から宝珠分離の協力要請があったこと、分離技術者がこの大聖堂に来たことが戦士たちに知れてしまった。今回の報告の中で面倒な案件である。
そこまではいい、いずれほかの司祭から耳にすることもあるだろうから。
問題はその当事者が浮遊大陸に戻っていないという情報を得たことだった。
当事者をこの会議室で抹殺したことを知っているのは、一部の上級司祭と騎士団の隊長格だけである。
抹殺したことが漏れる心配はないが、帰らない理由を何とするか・・・
大司祭がそこまで考えたとき、頭に何かが閃いた。
大司祭「うーん。考えられるのは、諸君らも知る通り、浮遊大陸に行くにはダンジョン最下層を経由する必要がある。恐らくそこで地下種に襲われて亡くなったといったところか」
戦士「・・・。そう、ですか・・・」
戦士は何か納得できない部分もあったが、それ以外に考えられなかったので飲み込むことにした。
大司祭「さて、その制御室の場所を知っていそうな人物からは、ほかに何か聞き出せたかな?」
考え込んで下を見ていた戦士は、大司祭をまっすぐ見た。
戦士「いえ。ほかには何も」
そのやり取りにスカウトが入った。
スカウト「その人物を尾行すれば制御室に行けるかもしれないと思い、実行しましたが、建物の角で見失いました。付近を捜索したのですが、みつかりませんでした」
大司祭「なるほどの。さて、騎士団からもいくつか報告が来ている。それを情報共有ということで諸君らに提供しよう。まだ全部の騎士団が戻ったわけではないので、全部隊が戻るまでしばしこの街で待機せよ」
戦士「わかりました」
大司祭は両脇のお供に耳打ちすると席を立った。
両脇の司祭が部屋の入口まで一緒に並んで歩き、見送ると大司祭だけが退室した。
そして見送りが終わった司祭2人は、戦士たちのいる場所に戻ってきた。
司祭「では騎士団からの報告をお話ししますね」
司祭は戦士たちを見渡すと、咳払いをして報告を開始した。
司祭「まず、ほかの建物でも案内看板の類は見つかっておりません。
ただし、1つだけですが建物の入口が発見できず、調査ができなかった場所があります。
現在、スカウト職を連れて追加の調査を開始したところです。
この調査結果と、まだ戻ってきていない騎士団の調査結果、これらをまとめたら再度あなた方にやってもらう仕事を与えますので、それまで街で待機するように」
そこまで言うと隣にいた別の司祭に目配せした。
別の司祭がテーブルの下からソフトボール大の袋を取り出した。
司祭「これは調査報酬と待機期間の補償金です。お納めください」
戦士はお金を受け取った。
司祭「話は以上です。連絡先はこれまでと同じ宿でよろしいでしょうか?」
戦士「はい。えっと、待機期間はどれくらいでしょうか?」
司祭「5日程度あれば十分かと思いますよ」
戦士「わかりました」
戦士は他の仲間を見ると、部屋を出ようと退出を促した。
戦士達も会議室を後にした。