鑑定所
前日の休息日はうまく過ごせたようだ。みなの顔はすっきりしていた。
戦士「準備が整ったら、宿を出ましょうかね」
魔法使い「宿から皆で一緒に出発て、何気に初めてね」
魔剣「いつもダンジョン入口に集合だったからな」
スカウト「現地集合ってやつだな」
そういうとスカウトは笑った。
魔剣が宿の鍵を女将に預け終わったようで、宿の入口で合流した。
スカウト「帰還の転移陣はあったが、逆があると道中がとても楽になるんだがなあ」
魔法使い「私が転移魔法習得するまで我慢するしかないのかなあ」
スカウト「昨日久々にギルドに寄って、情報収集してみたが、そんな話はなかったな」
魔剣「そうか、レベル的に最初とは違う人たちと交流できたんだったな」
戦士「そろそろダンジョン入口だ」
僧侶「今回はゴブリン討伐でしたね」
スカウト「冒険者の捜索願いが出ていたな。死んだか、迷子か、単に探索が延びているだけか」
魔剣「捜索願ってことは、固定パーティーだが人数が少ないところか」
スカウト「たぶんな」
そんな話をしながら一行はダンジョンへ入っていった。
地下5階
スカウト「拠点にするならここがいいか」
僧侶「拠点も決まりましたし、ゴブリン探しをしますか」
スカウトを先頭に、魔剣が後方警戒をしながらダンジョン内を進んでいく。
スカウト「マッピングもついでにしてしまおう。まだ埋まっていない感じだからな」
戦士「発見したけど、進んでない分岐ですね」
スカウト「そうだ。ここは分岐が多すぎる」
しばらく探索をした一行は拠点に戻ってきた。
スカウト「よし、部屋の中は安全だ。入りな」
スカウトが拠点にしている部屋の安全を確認すると、皆が続けて部屋に入った。
僧侶「ゴブリン魔法使いを沈黙させることに成功できてよかったですよ」
戦士「最初のときは魔法で焼かれながら斬りかかったからな。今回は楽だったよ」
魔剣「ゴブリンの声がでない!って顔が確認できたときはほんとやったぜ!という気持ちだったよ」
戦士「そういえば一緒にいたゴブリンの僧侶、なにやら魔法使ってきたけど、何も起きなかったな」
スカウト「ああ、魔法使いの声を封じたときのやつか」
魔法使い「私が魔法用の障壁を展開したのよ。新しい呪文ね」
僧侶「昨日訓練場で練習してたやつですね」
魔法使い「うん。やっぱり練習しておいてよかったわ。とっさに何を詠唱するかは私自身の判断にかかってるからね。今ならこれだ!って浮かんでよかったわ」
魔剣「スペルキャスター陣の頼もしさが実感できた戦闘であったな」
僧侶「ここに来る途中にいたウエヤマサンを石にして、当初の予定どおり無駄な消費を避けれましたしね」
魔剣「あいつか。僧侶殿が防御用呪文をかけてくれていたのは知っていたからな。
石化に失敗しても大事には至らないと判断して詠唱したんだ、あれ」
僧侶「結果成功!ってことですね」
魔剣「まあな。クラス1は地図魔法にだけ使う予定だ。必要な時は遠慮なく言ってくれよスカウト殿」
スカウト「ありがたいね。にしても、何で”殿”なんだ?」
魔剣「ダンジョンに入るとどうも調子がこんなになってしまうな」
そういうと魔剣は笑った。
スカウト「戦利品は武器と盾、薬品に少々の金銭か」
戦士「この武器が具体的になんなのか、セイジがいないと鑑定できないですね」
僧侶「このパーティーにはいませんからね」
スカウト「鑑定するような魔法はないのか?」
僧侶「神官系の魔法にあるのは、敵種の識別魔法と、宝箱の罠をなんとなく識別する魔法だけですね」
魔剣「呪いの品かもしれんからな、装備はしないで鑑定屋に出すしかないな」
戦士「まだ収納ボックスに余裕あるから、休憩したら再開しよう」
魔法使い「杖みつからないかなー」
スカウト「ゴブリンの魔法使いがいればチャンスがあるな」
魔法使い「魔法使いゴブリン!こいこいこいこい!!」
僧侶「変な祈りですね」
戦士「呪文の残りは問題ないか?」
戦士の問いに魔法使いと僧侶は頷いた。
そして一行はゴブリン狩りを再開すべく拠点の部屋を出た。
戦士「ふう。今回はこんなものでいいか」
一行はまた拠点となる部屋に戻ってきた。
スカウト「全部収納できそうにないな」
魔剣「珍しそうなのは、この水晶玉とスクロールですかね」
魔法使い「杖でなかったなぁ」
僧侶「アミュレットでなかったなぁ」
僧侶は魔法使いを真似して発言した。
魔法使い「むっ」
魔法使いは僧侶を睨んだ。
戦士「問題は今各自が収納しているものと、取捨選択しなければならないってことですね」
魔法使い「私はこのスクロールと水晶玉を持っていくわ。代わりにこのちっこい武具は捨ててく」
スカウト「その短剣、おそらくフェアリー種用の武具だと思うぞ。そこそこ値がつく」
魔剣「そうなんですね」
スカウト「ああ、よく捨てられてしまうアイテムの筆頭候補だからな。一発でいらないとわかるだろ?」
魔剣「なるほど、それで市場に出回らない。と」
スカウト「そういうこった」
戦士「この銀に輝く剣、銀の剣かな」
スカウト「呪いの剣かもしれんぞ」
戦士「ごみか当たりの2択か」
僧侶「麻痺用薬品は捨ててしまっていいのでは?あとは転移陣で戻るだけですから」
スカウト「もったいないが、そうするか」
魔法使い「そういえば、探索願の出てた冒険者いなかったね」
スカウト「どの階層かわからんからな」
戦士「ほんと、何かのついでに発見って感じだな」
僧侶「酒場近くで全滅してた彼らみたいに、偶然じゃないと発見されないでしょうね」
みなが黙ってしまった。
戦士「では地上に戻りましょう」
そして一行は地上へ転移陣から転移した。
スカウト「今回はみんながアイテム持ってるからな。一緒にいつも取引している店に来てくれ」
戦士「この武具の鑑定もしないとな」
スカウト「ああ、そっちも一緒にまわろう」
これからダンジョンに入るパーティーだろうか、フェアリーばかりの集団とすれ違った。
魔法使い「フェアリーだけのパーティーって前衛どうしてるのかしら」
魔剣「魔法使いばかりなのかな」
スカウト「暗殺職がいて、そいつが前衛を務めるらしいぞ」
僧侶「暗殺・・・恐ろしい。可愛い姿してとんでもないな」
戦士「実際、魔法が一斉に何発も飛んでくるのを想像すると戦いたくないな」
魔剣「それは火力が凄そうだな」
戦士「あのパーティーの戦士は銀の剣持ちかぁ。いいなぁ」
戦士が別パーティーの前衛を見て呟いた。
スカウト「さっきの剣が銀の剣なら、あんたも仲間入りだな」
戦士「銀の剣、来てくれーっ!」
僧侶「みな欲望まみれですね」
魔法使い「あんた含めてね」
僧侶「欲望は大事です。動く原動力ですから」
スカウト「違いねえ」
たわいない話をしながらスカウトがよく利用している取引市場に到着した。
スカウト「ここだ。まずは鑑定してしまおう。
売るにもブツが何なのかわからねえと交渉のしようがない」
そういうと鑑定所と書かれた建物に入った。
酒場や食事処のようなざわつきはなく、どちらかというと静かな場所だった。
スカウト「こっちだ」
スカウトが手招きしている。皆はそれに従いついていった。
スカウト「今回、ダンジョンで見つけたものだ。鑑定をお願いしたい」
木製のカウンターを挟んだところにいる人物にスカウトは話しかけた。
店員「わかりました、品物はどのようなもので?」
一行は持っていたアイテムをカウンターに並べた。
店員「なるほど。では少々お待ちください」
そういうと店員は奥に引っ込み、誰かとやり取りをしている。
少しして1人の男を伴い、戻ってきた。
鑑定人「鑑定に入る前に1つ。鑑定料として品物の相場の一定割合を頂きます。
それでもよろしければ、鑑定を開始しますが、どうなさいますか?」
スカウト「かまわねえ、それで頼むぜ」
鑑定人「かしこまりました。では開始します」
そう言うと鑑定人がアイテムを手にとり、何やら見ている。
10分程度で鑑定が終了した。
鑑定人「今回の品物は、、、と」
そう言うと鑑定人はカウンターにあった紙に品名を記入していった。
”銀の剣”
”火1のオーブ”
”火1のスクロール”
”聖なるフレイル”
”バックラー2つ”
”鉄の盾3つ”
”フェアリーステッキ2つ”
”悪魔の小手”
”傷薬3つ”
”毒消し2つ”
”麻痺治癒薬2つ”
”ライトポーション2つ”
鑑定人の手が止まった。
鑑定人「以上ですね。何か個別に確認したい品があればお答えしますよ」
そういうと鑑定人は顔をあげてこちらを見た。
戦士「傷薬とライトポーションって何が違うんだ?」
鑑定人「傷薬はクラス1の治癒魔法相当のもの、もう1つはクラス3の治癒魔法相当ですね」
僧侶「結構いいものですね」
戦士「悪魔の小手って何だ?呪いの品か?」
鑑定人「防御効果はありますが、通常種では外せなくなる呪いの品ですね」
戦士「売却だな」
僧侶「聖なるフレイルに特殊効果はありますか?」
鑑定人「銀の剣と同様に、アンデッドと獣人に効果がありますね」
魔剣「盾はどちらも店にあったな。使わない分は売却でいいだろう」
魔法使い「このオーブとスクロールはどんな効果でしょうか?」
鑑定人「どちらもクラス3の範囲火系魔法と同様の効果を発揮致します」
魔法使い「違いはないの?」
鑑定人「いくつか違いがございます。スクロールはどなたでも使用できますが、
オーブは魔法使い専用でして、魔法使い以外では使用ができません。何も起こらないですよ」
魔法使い「へえ。どっちも1回しか使えない感じ?」
鑑定人「いえ、スクロールは1回だけですが、オーブは中にある魔法力を使い果たすまで
複数回使用できますね。ただし、残りの魔法力が少なくて1回で使用不可になることもありますが」
魔法使い「使えなくなると、どうなるの?」
鑑定人「オーブにひびが入り、割れてしまいます。また使おうとしても何も起きません」
魔法使い「また魔法力を込めなおして、再利用はできないのね」
鑑定人「そのとおりでございます」
スカウト「なかなかにすごい品だったんだな」
魔剣「収穫ありって感じだな」
鑑定人「ほかにはございませんか?」
そういうと鑑定人は皆の顔を見回している。
戦士「俺は無いな」
魔剣「私もだ」
もう質問はないようだった。
鑑定人「では以上で鑑定を終わります。費用はこちらの用紙のとおりになります」
そういうと鑑定人の横にいた店員が出てくると同時に、鑑定人は奥に引っ込んでいった。
店員「お支払いは可能でしょうか?」
スカウト「いくつか装備を売却しないと無理だな」
店員「そうですか。であれば、冒険者証をどなたか1名以外全員提出してください」
店員に言われたとおり、冒険者証を預けた。
戦士「まさかこんなことになるとはな」
魔法使い「あっちの人は武器を取り上げられてるわよ」
店員「ああ、高価な武具をお持ちであれば、それを冒険者証代わりに優先的にお預かりするんですよ」
僧侶「うちらは大したもの持ってないから、冒険者証ということですね」
店員「そういうことです。この証がないと何かと不便ですからね」
そういうと店員はにっこりした。
スカウト「とりあえず売却して金を作りに行こう」
そういうと一行は鑑定所をあとにした。
スカウト「ふぅ。なんとか処分できたな」
僧侶「お金は今まで持ったことない額になりましたね」
戦士「冒険者証を取り返しに行きましょう!」
鑑定所に到着し、先ほどのカウンターに向かった。
店員「おかえりなさいませ」
スカウトが支払いを済ませると、冒険者証が戻ってきた。
戦士「これで一安心です」
魔剣「では宿に戻るか」
僧侶「そうですね。整理したらまた食事に出ましょう」
そういうと一行は宿へ向かって歩きだした。