やるべきこと
研究棟長官は沈んだ空気を変えるために、違う質問を投げることにした。
研究棟長官「それで特異体たちはどうなったんだ?全滅か?」
防衛長官「はい。1体も残らず死亡しました」
それを聞いて実験棟長官はもう彼らに会えないのだなという、寂しさを感じるのと同時に、彼らの顔が頭に浮かんでいた。そしてあの充実した、新鮮な仕事内容だった時間が思い返された。というのも彼らは通常の獣人種と違うため、訓練内容も二人三脚で互いに意見を出し合い決めてきたという経緯があったからだった。それは他の通常獣人種部隊の訓練には無かった経験だった。
短い期間とはいえ、自分のところで変異体達の訓練をし、他の獣人部隊員から変な目で見られていた彼らを差別することなく受け入れたことで、実験棟長官は彼らの信頼を得ていた数少ない理解者でもあった。
実験棟長官「酷い結果だな。そんな化け物と分かっていれば貴重な特異体をぶつけなかったものを」
その発言を受け、防衛長官は手をピシャリと叩くと
立ち上がりながら話し始めた。
防衛長官「まさにそれです。それを確認するために今回、特異体を当てたのです。
神の使いが化け物であることが確認され、我々がどうこうできるレベルの敵ではないということの裏がとれました。
貴重な戦力を失ったのは痛手ですが、それ以上に神の使いの危険度が判明したのは大きかったです」
研究棟長官「確かに、逆らえる存在でないなら、無駄なドラゴン金属研究に時間を割くより、有効な研究に時間を割きたいからな」
実験棟長官「確認のためには特異体の犠牲は仕方なかったということか」
下を向く実験棟長官を見た防衛長官は、我々が成すべき事をキチンと口にしようと思った。
防衛長官「勝てれば最善でしたが、、、彼らの犠牲を無駄にしないためにも、今後後世が無駄な挑戦をしないためにも、今回のことは引き継いでいかねばなりません」
研究棟長官「ドラゴン金属の武具転用は禁止とする。その理由も付け加えて後進へ引き継ぐとしよう」
実験棟長官「それで最初の話の特異体研究のみを継続し、その強化を図るという目的の話につながるのだな」
今後やるべきことをやるために、この部屋に集められ、自分たちのやることが何なのかも見えた長官たちだった。
防衛長官「そういうことです。我々が確実に地上種に対して優位に立てるのは、この特異体研究と特異体だけということです」
研究棟長官「ならば一層、この研究に励まねばならんな」
実験棟長官「成功体はウチで戦闘経験を積ませればよかろう。それが済んだら防衛長官、あなたのところに配属という流れですな」
防衛長官「はい。ただし、強力な個体だけに制御不能になると怖いので、数は量産しない方がよさそうですが、どうでしょう」
研究棟長官「ふむ。確かに確実に安全とは言えんな。次の課題はそれか」
実験棟長官「話は以上か?終わったなら、仕事があるんで戻るぞ?」
実験棟長官は、沈んでいた気分も目的がハッキリとした今、晴れやかなものとなり、早く仕事に取り掛かりたくなっていた。
防衛長官「ああ、これで終わりです。浮遊大陸の未来のためにも頼みましたよ」
そういうと防衛長官は2人を転送装置のある部屋まで見送った。
打つべき手は打った。後は現在侵入している地上種をどうにかすれば問題は無くなる。防衛長官はそう考えながら、そのための手がないことに頭を抱えてしまった。