状況確認
3人の長官は、一人が飲み物を手にしたのを見て、自分もと続いた。
カップを覗き込み、映っている何かを見て考えを整理しつつ、互いにカップ越しに他の長官の様子を観察していた。
これまでの話を簡単にまとめると浮遊大陸側が考えていた事は、神の使いを始末できれば、後は自由に研究でも何でもできる。ということだった。だが、そうは問屋が下ろしてはくれなかった。
防衛長官「話を再開するとしようか。
戦闘前にモニターで姿を確認できていた巨大リズマンを始末すれば、残る神の使いは単なるメッセンジャーの長髪男女ペアだけだから、どうにでもなると思っていたが、実際にはメッセンジャーも、強者で、更に黒服も強者ときたもんだ」
実験棟長官「ん?先程唯一帰還した獣人部隊の情報を参考にして、特異体の部隊は接近戦を仕掛けたと言っていたが、神の使いの戦闘は、全部モニターで監視していたんだろう?負けた戦闘とは言え、ドラゴン製装備の通常獣人部隊の戦闘の様子はどうだったんだ?参考にできなかったのか?」
防衛長官「それが、神の使いとの戦闘に入る瞬間、毎回モニターがエラーを起こして、復旧したときには戦闘が終わっていた。
これは全部の遭遇戦で同じだった。後でわかったことだが、神の使いがモニターを使えないように何か細工をしていたらしい」
研究棟長官「我々には対処しようのない細工だったということか」
また1つ、神の使いが上手である事実が見えてきた。
防衛長官「残念ながら、そのとおりです」
実験棟長官「ということは神の使いとの戦闘は一切見れていないということか?」
防衛長官「いや、特異体たちの戦闘だけ、神の使いが見ろと言って見せてくれた」
実験棟長官「なるほど」
防衛長官「その戦闘結果として、長官会議で報告したとおり、ランク119という想像を絶する魔法が確認できたというわけだ」
研究棟長官「ランク119か。そんな化け物相手じゃ、さすがの特異体も手も足も出なさそうだな」
研究棟長官は両手を半分挙げ、首を横に振りながらヤレヤレといった仕草をした。
防衛長官「そのとおりです。防御力低下魔法の重ね掛けでは、その皮膚を貫けず、魔法抵抗を0にしたが、状態異常は無意味、ダメージ魔法も大して効いていないという有様でした」
悔しそうに話す防衛長官だったが、実験棟長官はそれを聞いて、ある事が気になった。
一切が効かないのではなく、"無意味"という表現を使ったことだ。早速実験棟長官は質問した。
実験棟長官「状態異常魔法が無意味?効果がないのではなく?」
防衛長官「神の使いを名乗っているが、どうやら何かしらを司る神でもあるらしく、状態異常を自己解除できると言ってきた。現に治癒魔法を使うことなく麻痺と石化を解除してみせた」
どんどん出てくる神の使いのヤバさ。最早抵抗できる存在ではないことがハッキリしてきた。
神の使いというより神じゃないか。
実験棟長官「なんだそれ・・・・」
あまりのことに実験棟長官は言葉を失った。
だがそこで止まってはならぬと頭を巡らし、もう一つ疑問に感じたことを質問した。
実験棟長官「ダメージ魔法は何か軽減する装備でもあったのだろうか」
防衛長官「それはわかりませんが、巨大リズマンは火を司るので火は効果が無いと言って、実際に最高ランクの炎系魔法は吸収されました」
実験棟長官「弱点はないのか?」
何かあってくれと懇願にも似たような感情で質問を続けた。
防衛長官「氷系が弱点だと言っていましたが、我々の魔法では弱すぎて、彼の炎の防御を突破できないらしく、ダメージは無いようでした」
実験棟長官「・・・」
神の使いに対する絶望的な状況が確認され、場を沈黙が支配した。
皆一様に両手の掌を組み、膝と膝の間に置いて下を向いていた。