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レイドックの決意

 アイレインは宣言通り下段中心の攻撃をする。それも通常の下段と、棒を伸ばす下段を織り交ぜて。

「普通の攻撃にそれを混ぜられると、すげー見にくいですね」

「だろ。手の位置を調整すれば、長さは何段階にも変えられる」

 弘樹が一本取られる度に、短い感想戦をし、アドバイスをもらう。

 そうこうしている内に10分が過ぎた。


「ありがとうございました。なんかオレの練習ばかりになってすみません」

 弘樹が指導教官なのだが、この組手では完全に立場が逆転していた。

「かまわんよ。そういう役割しろって社長からも言われてますから」

 アイレインはぶっきら棒な口調だが、時々思い出したように敬語が混ざる。これも『弘樹を立てろ』とのザードの指示なのだろう。

「そうだったんですか。さすがっすね。助かります!」

 アイレインは片手を上げて答える。


「それでは、ペアを変えます。では・・・どなたか私の相手をしてもらえませんか?」

 弘樹はそう言って見渡した。

 何人かが手を上げる。しかし、明らかに真っ先に手を上げたものがいる。少し躊躇したが、無視するわけにもいかない。

 その真っ先に手を上げた男はレイドックだった。



 --2週間前--


 弘樹とザードが特級試験を合格した翌日から、レイドックは訓練所に通い詰めていた。

 そして、1週間立って、ようやく意中の人が現れた。

 ウォール隊長だ。

 レイドックはウォールが訓練するのを遠巻きに見守りつつ、小休止の頃合いを伺って、意を決して声をかけた。

「あのぅ!質問よろしいでしょうか!」

 顔も声も引きつっている。しかし、ウォールは『かまわんよ』と答えた。


「基本の型について、教えていただきたく!私の型は間違っているでしょうか?」

 そう言ってレイドックは上段の打ち込みの型をする。

 突然の申し出、そして引きつった顔で必死に素振りをするレイドックに、失笑が起きる。

 ウォールはそれを眼で窘めつつ、彼の動きを注視する。

「うーん・・・そんなに悪くはないぞ。何かしっくりこないのか?」

 ウォールは顎に手を当てて、首を傾げた。


「はい。以前にこの型で友人に指摘されたことがありまして」

 そう言ってレイドックはロキに言われたことを説明した。

 

『この肘の角度だと上腕三頭筋が使いにくい。これはどの筋肉を使えばいいんだ?またこの背筋の伸ばし方だと、背骨の生理的湾曲を阻害するから、体幹の強度が落ちる。腹圧もかけにくい。これはどういう意図があるんだ?』

 ロキはそう言っていた。憎たらしいヤツだが、今やヤツを認めないわけにはいかない。だから、どうしても、これは確かめたかった。


「ああ。あの時のことか」

 ウォールは何かを思い出したように頷いた。


「まず、大前提として、基本の型はロキのように基礎体力がある人間を前提に出来ていないんだ」

 ウォールは説明する。王立軍には根っからの軍人志願者だけでなく、拍付で入隊している貴族の子も多くいる。だから基本の型は体力の無い彼らにも出来るようにとの配慮がなされているという。


「上腕三頭筋が使いにくいのは確かにそうだ。これはわざと使いにくくしている。力の無いものが肘で重い剣を振ると肘を痛めるからな。だから肘ではなく背筋を使うようにしている。そもそも運動経験が少ない者は、背筋を使うのが上手くない。これは背筋の使い方を覚えるトレーニングとしての意図もあるんだ」

 ウォールは実演しながら説明する。

「背筋を伸ばしすぎなのも一緒だ。自然な姿勢はやや前傾になるよな。しかし体力の無い者が前傾すると鎧の重さで腰を傷める。だから最初は背筋を起こして練習するよう指導している」

 自然に周りに人が集まってきた。

「こういう意図だから、慣れて体力がついてきたら動きやすいようにすればいい。打ち込みや組手をしながら自分の型を作っていくんだ」

 周りのベテランと思われる人間は、したり顔で頷いて聞いている。『そうだったのか!』という若手に対して『そうだよ!知らなかったのか?』と知ったかぶりをする者もいる。


「見たところキミは、そろそろ自分の型を作ってもいい頃だと思う。やりたい動きがあるのなら好きにやりなさい」

 ウォールはレイドックに言った。

「はい!ありがとうございます!それに関して、もう一つご相談がありまして!」

「何だね?」

 レイドックはズボンのポケットから紙を取り出した。 

「これに志願したく!」


 その紙は王立軍の広報誌で、『フェルコム社との共同作戦の為、出向希望者を募る』と書いてあった。


 ---


「では、レイドック、やろうか。皆さんもペア出来たところから始めてください」

 弘樹は彼を指名し、周りに指示を出した。

「はい。お願いします」

 レイドックが一礼する。

「気持ち悪いから普通にしてくれよ」

 弘樹はやりにくそうに言う。

「ケジメだよ。頼むから、お前に並ぶまではこうさせてくれ。いや、させてください」

 弘樹は、深くため息をついた。

「わかった」

 弘樹は言った。

「でも本当に気持ち悪いから、早く並んでくれ」

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