ランチミーティング
1次試験が終わり、一旦3時間ほどの休憩時間となった。2次試験は会場設営がある為とのことだ。
弘樹はザードに誘われて昼食に出ることにした。食事でもしながら2次試験の対策を一緒にしようとの提案なので、弘樹には願っても無いことだ。
「あっ、やっぱり来てくれてたんですね!」
受験者通用口の前で、ミヅキとベンダーが待っていたのを弘樹が見つける。試合中声援が聞こえた気がしたが、やはり気のせいではなかったようだ。
弘樹に気がつくとミヅキの表情がパッと明るくなり、駆け寄って来る。
ベンダーとザードはお互い経営者らしく挨拶を交わすと、ザードが彼らも昼食に誘う。
「ウチの会社で一軒貸切ってるんですよ。あんまり行儀良くない連中が多いですが、食事と酒だけは大量にあるんで、よろしければ是非」
とのこと。ベンダーはどうしたものかと娘を見るが、ミヅキはかなり乗り気なので、誘いを受けることにした。
ミヅキのロキへの態度は、工房の職人の男たちへのそれとは明らかに違うのが、父親としては気になる所だ。
『面白い人がいる』と、軍への納品から帰って来たミヅキが興奮気味に話してきた時は、まさか、その男がここまでやるとは想像もしていなかった。我が子ながら、たいした鑑定眼を持っている。
(しかし、傭兵を見極める鑑定眼と、男を見極める鑑定眼は別だぞ)
ベンダーは娘の隣で歩くロキの背中を見た。今の所、悪い男には見えないが・・・
(まぁもう少し様子を見るか。。。)
彼がそんなことを考えていると、目的の店に着いた。
二階建で、予想していたより大きな店舗だった。大きな木製の看板には『ラムコットの厨房』とある。その店名の隣には、店主ラムコットとおぼしき、包丁を持った屈強な男が笑っているイラストが描かれていた。
「ここです。ウチの者」の行きつけなんで、よく貸し切りさせてもらってます」
そう言ってザードが扉を開けると、割れんばかりの歓声で出迎えられた。
ザードに対してはもちろん、弘樹も手荒い歓迎を受ける。瞬く間にザードと弘樹を中心に輪が出来、試合の感想と称賛を語られた。そして握手を求められ、肩を組まれた。
「みんな、ありがとう。でも、一旦開放してくれ。オレは今日の相棒と二次試験の作戦立てたいんだ」
ザードがそう言うと、ほんのりと彼らを囲む輪が広くなる。しかし、まだ、みんな未練がありそうだ。
「お前ら!二代目を困らせるな!席に就け!」
一際体格の大きい男が一括すると、みんなシブシブと席に着いた。
「ありがとう。じゃあみんな、ここは会社持ちだから好きなだけ飲み食いしてくれ」
ザードがそう言うと、再び歓声があがる。
「一回黙れ!」
また、先の大男が叫ぶ。みな彼の言うことは良く聞くので、この荒くれ者の中でも、恐れられている存在なのだろう。
「悪いな。そうだ、ゴナムも一緒に上まで来てくれ」
ザードは大男に声を掛ける。そうしてザード、ロキ、ベンダー、ミヅキ、ゴナムと呼ばれた大男が2階の個室に移動した。
個室は中央に大きな円テーブルがあり、それを囲む椅子の数を見ると8人部屋のようだ。そこを5人で使用するので随分と余裕がある。
テーブルにはバスケットに山のように入ったパンと、肉料理が数皿、野菜料理、煮込み料理、スープ。そして飲み物のボトルが数本と、取り皿をはじめとする食器が積まれていた。
ザードは料理には目もくれず、先に空いている所に1枚の大きな紙を広げる。
2次試験会場の図面だ。会場自体は1次試験を行ったのと同じ場所なのだが、大小様々な木箱や土嚢が置かれ、即席の障害物となっている。大きな木箱は人の背丈ほどあるので、実際に現場に立てば、ちょっとした迷路のように感じるだろう。
「食べ物は適当に取って食べてくださいね」
ザードはそう言うと、自身は手に持ったパンだけ齧りながら、紙を凝視する。弘樹もそれに習った。
「どうぞ、適当に取りました」
そう言ってゴナムが、ロキと弘樹に料理を取り分けた皿をそれぞれ差し出した。中身は意外にも肉と野菜がバランス良く選ばれており、ソースのかけ方にも絵心を感じるような盛り付けだった。
「ありがとうございます!すみません!」
弘樹が恐縮する。
「ありがとう。後は自分でやるから」
ザードが軽く手を上げて謝意を示す。
「随分と凝って遮蔽作ってるよな」
ザードが図面を見ながらゴナムに問いかけた。
「ええ。自分の時はこの半分でした。魔獣は土猿が二匹」
ゴナムが答える。彼も特級の資格を持つ傭兵のようだ。
「これで土猿二匹なら、隠れてるだけで合格出来るな」
ザードが呟く。2次試験は規定時間生存すればいい。必ずしも敵を討伐する必用は無い。土猿は地球の基準で言うと、猿よりは猿人に近く、棍棒のような武器を使うのが厄介だ。しかし、地下砦に適応しており、眼はあまり良くないので遮蔽が多ければ戦闘を回避するのは容易い。
「違う魔獣なんですかね?それとも数が多いとか」
ゴナムが言った。
「会場図は貰えるけど敵は教えて貰えないんですか?」
とミヅキ。
「ああ。既知の情報による作戦立てと、未知の事象に対する対応の両方を審査する意図だ」
とベンダー。
「とは言っても、魔獣を生きたまま捕獲するのは簡単じゃないですからね。それに試験に手頃な強さとなると、だいたい種類は限られてます。定番は土猿、一角狼、兵隊蟷螂、六足大鼠ぐらいか。今回はオレとロキの二人で挑むんで敵の数は増えることは想定できますが・・・やはり、魔獣の数を確保するのは難しいので限度はあるかと」
ザードが腕組みをしながら呟く。その意見にゴナムも頷いた。
「そう言えば!」
弘樹は今朝、レイドックが不穏なことを言っていたことを思い出した。『ただの脅しかもしれませんが』と断りをつけた上で、弘樹は情報を共有する。
レイドックの実家はここにいる誰もが知る豪商で、軍との取引も多い。何かしら情報が入ってもおかしくない環境ではあるが、それだけでは何とも言えない。ただ、数が多いか、レベルの高い魔獣がいるかもしれない程度には警戒しておこう。その程度の結論しか出せなかった。
「しかし、そうなると装備が絞れないな。。いつもの感じであれば、攻撃はロキに任せて、オレは盾に徹しようかと思ったんだがな。オレが盾で正面から当たってロッキーが横から斬れば、大抵のヤツならなんとかなるだろ」
ザードが両手を頭に組んで言った。
「やっぱり肩は・・・」
弘樹が恐縮して聞く。一次試験でのヒロキの袈裟切りで右肩を傷めていたのかと。
「もう、だいたい大丈夫なんだがな。ここまで上げると少し傷むんだ。だからあまり腕を上げなくていい装備なら問題ない」
ザードはあっさりと、傷めていることを認めた。その上で問題無いと態度で示す。
「受け損なったオレが間抜けなだけだ。別にロッキーのせいじゃない。気にするな」
小さくなる弘樹にザードは釘を刺した。ゴナムもそれに頷く。
「装備なんですけど!」
何をフォローされても恐縮する弘樹を見て、空気を換えようとミヅキが声を上げた。
「ロキさんの為に剣を一本打ってきたんです!」
そういって一振りの刀剣を差し出した。




