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18.気まぐれ

「お邪魔しました」


コウちゃんは玄関で礼儀正しくパパとママに挨拶をする。


「また来てね! 今度はコウちゃんの好きな鶏鍋でもしましょうね」


「おやすみ、おじさんとおばさんによろしくな」


「はい。ありがとうございます。おやすみなさい」


最後にペコリと頭を下げると、奴は颯爽と玄関から出て行った。

もちろん、彼女(・・)である私は門扉まで送らんと後に続いた・・・と言うより、追いかけた。


「待ちなさいよっ! コウちゃん!」


私は門扉を開けて出ようとするコウちゃんに飛び付いた。


「なんだよ、そんなに離れたくないのかよ?」


「ちゃうわいっ!」


腹を立てている私に、余裕の笑みでふざけたことを言ってのける奴にさらに怒りが増す。

私はコウちゃんの胸倉を掴んで、睨みつけた。


「ホントに何考えてんのよ!? 二人とも完全に信じちゃってるじゃん! どうしてくれんの?!」


「大丈夫だろ、別に」


「はあ?! どこがどう大丈夫なのよ?!」


私はギリギリと奴の首を締め上げながら、グイっと引き寄せた。


「おい、苦しいって!」


コウちゃんは苦しそうに顔を歪めると、胸倉を掴んでいる私の手に自分の手を重ねた。


「だから、責任取れば問題ないだろ?」


「は?」


意味が解らず、すぐ目の前にあるコウちゃんの顔をポカンと見つめた。

次の瞬間、コウちゃんの顔がさらに近づいた。


私は頭が真っ白になった。


それもそのはず・・・。

コウちゃんは私にキスをしていたのだ。


ゆっくりとコウちゃんの顔が離れる。

私は思考が追い付かない。呆けた状態で彼を見つめた。


コウちゃんはそんな私を面白そうに見ると、もう一度軽く唇を合わせてきた。

二度目のキスでやっと我に返った私は、慌ててコウちゃんの胸を押しやった。


「な、な、な・・・!」


「じゃあ、おやすみ。明日、俺の学校まで迎えに来るの忘れんなよ」


コウちゃんは手を振ると、何事も無かったかのようにスタスタと歩いて行ってしまった。


私は呆然と3軒隣の家に入っていくコウちゃんを見送った。

姿が見えなくなった途端、その場に崩れ落ちた。


一体全体、何が起こった???


私は尋常じゃないほどドキドキする心臓を押さえながら、その場に蹲った。

頬に手をやってみる。こっちも尋常じゃないほど熱い。


「本当に、何考えてんの・・・? コウちゃんって・・・」


私は熱くなった頬を両手で包みながら、ヨロヨロと立ち上がった。

フラフラしながら家に入ると、そのままふら付く足取りで自分の部屋に向かった。

そして、バタッとベッドへうつ伏せに倒れ込んだ。





翌朝、ジージーとうるさく鳴る目覚まし時計の音で目が覚めた。いつもの朝だ。

ベッドから体を起こし、ぼーっとする。

昨日の夜、なかなか寝付けなかったせいで、眠くて仕方がない。

もう一度、ベッドにパタンと倒れて枕を抱えた。


「なんで、こんなに眠いんだ・・・?」


そう自問する。

だから、それは眠れなかったから。

それで、なんで眠れなかったんだっけ・・・?


「!!!」


その理由に気が付いた途端、バッチリと目が覚め、ガバッと起き上がった。


そうだ! キスされたんだ! コウちゃんに!

しかも二回も!


思い出した途端、カーっと顔が熱くなった。

思わず抱えていた枕に顔を埋める。


「~~~~っ!」


声にならない唸り声を上げながら、枕を抱きしめた。


本当に、何を考えてるんだ? あの男。

責任を取るって言っていた・・・。

けど、どう責任を取るつもりだ?

キスしたってことは、つまり・・・?


「本当に私の彼氏になる気・・・? フリじゃなく・・・?」


私は枕を抱えながら独り言ちた。


だが、コウちゃんは昔から私の事など何とも思ってないはずだ。

小学校の頃からモテていた奴は、中学校に入ってからさらにモテるようになり、私の前でこれ見よがしに女の子を連れ歩いていた。

まあ、学校が違ったからそんなに目にすることもなかったが、たまにその光景を見かけると、連れているのはいつも違う女の子だった。

だから、我が家に来た時などに、いい加減一人に絞れとよく説教をしていたものだ。

その度に、モテない奴のひがみとばかりに鼻で笑われていたのだ。


「そんなコウちゃんが・・・、私の事、もしかして・・・」


―――好き?


いやいやいや!


私はブンブンと首を横に振った。


―――じゃあ、あのキスは?


昨日のその瞬間を思い出して、また頬に熱が集中する。


ないないない!


私はもう一度ブンブンと首を横に振った。さらに、ベシベシと両頬を叩いた。

そして、ベッドから飛び起きると、抱えていた枕を八つ当たりするように布団に叩きつけた。


「きっと、コウちゃんの気まぐれよ! 深い意味なんか無いに決まってる!」


そうだ! そうに決まってる!

だって、奴は全然動じてなかったじゃないか! 平然と帰って行ったじゃないか!

それがいい証拠だ!


「振り回されるな、私! 昨日のことなんて忘れちゃえ!」


私は勢いよく寝巻を脱ぎ捨てると、乱暴にクローゼット扉を開けた。


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