1.嫌な予感?
「おい、唯花、ちょっと右手出して」
「??? なんで? コウちゃん?」
「いーから」
そう言うなり、幼馴染の幸司が私の右手を取った。
私はビックリして手を引っ込めようとしたが、強く掴まれて動けない。
「何何何?」
驚いてワタワタするも、それも束の間。あっという間に手は離された。
(何だったの? 今の・・・?)
ドキドキして右手を見た。
そして、目玉が飛び出した。
薬指に指輪が・・・。
「・・・な、何・・・? これ・・・?」
私は自分の右手を見たまま、固まった状態でコウちゃんに尋ねた。
「何って、指輪。カップルリング」
そう言って奴は自分の右手を見せた。
その薬指には私にはめられたものと同じデザインの指輪が・・・。
「・・・何故に・・・?」
私は呆然と幼馴染を見た。
「何故にって・・・。お前が俺に彼氏になってくれって言ったんだろう?」
「フリだって! 彼氏のフリ! ちょっとの間だけって!」
「そうそう、フリね。だからだろ?」
慌てふためいている私を、コウちゃんは何故か呆れたように見つめる。
「いくら俺たちが幼馴染だからって、昨日今日で恋人ぶれるわけないだろ。特に唯花はすぐに顔に出るんだからさ。こういったアイテムで補わないとすぐバレるぞ」
しょーもない奴だとばかりに、肩を竦めて首を振る。
「・・・そういうもの・・・か?」
「そ。そういうもの」
自信たっぷりに言う幼馴染に、私の常識が揺れる。
本当にそういうものか?
「で、でもさ、これ、コウちゃんが買ったの・・・?」
私は恐る恐るコウちゃんを覗くように見つめた。
「当たり前だろ? 他に誰が買うんだよ?」
「勿体ない! 偽物のカップルなのに!」
「安心しろよ。偽物に相応しい駄物だから」
「・・・」
そう言う割には、何かとても可愛らしい・・・。
「日曜日のダブル? いやトリプルだっけ? デートにちゃんとしてこいよ、その指輪」
「・・・」
「返事は?」
「・・・」
「こっちは、付き合ってやる側なんだけど?」
「・・・はい。日曜日はよろしくお願いします・・・」
「ああ。じゃあな」
送ってもらった家の前で頭を下げる私に、コウちゃんは満足そうに頷くと、手を振って帰って行った。
私はボケッとその後ろ姿を見えなくなるまで見送った後、我に返った。
恐る恐る右手を見と、薬指には指輪が光っている。
(やっぱりおかしくない? これ・・・)
しかも、サイズピッタリ・・・。
(何だろう・・・? 嫌な予感がする・・・)