第9話 魔法座学
ある日の事。
今日は午後から魔法についての座学だった。
午前みっちり魔法の訓練を行ったため、みんなへとへとだ。魔法もたくさん使うと疲れるらしい。
俺も弓を結構引いたから腕の筋肉がとても疲れていた。今は何も持ちたくない。
トガワが作ってくれた鳥の汁物を昼食としてみんなで食べた後なので、正直言って結構眠たい。
最近は昼食をみんなで食べるようになった。発端として、俺が射った鳥を捨てるのが勿体ないとトガワが言い出したからだった。
トガワってのは一緒に訓練を受けてるゴブリンの内の一人で、第七小隊の隊長になる。
こいつは料理が得意で、みんなありがたがっている。
みんなで昼食を共にするようになってからさらにお互いの事をよく知れた。
「みんな、しっかり午前中に魔法を使い切ったかな?」
午後の座学が始まり、オジジが俺たちに質問する。
「もーすっかり使い切りましたよ。マジでもう魔法を打てません」
ハシモトが返事をする。ハシモトは第三小隊の隊長で、なんだか人懐っこい奴でお喋りが好きなやつだ。ちなみに魔法を使うのが2番目に上手いらしい。1番はユージなんだって。
「よしよし、では今日はまず魔石について説明しよう。魔石というのはこの石の事だ」
オジジが円卓の上に手ごろな大きさの透明な石を置く。
これが魔石?なんか名前はめちゃかっこいいな。
「魔石は、魔力を溜めておけるという性質を持っている。この魔石にさっき私が魔力を込めておいた。少しみんなで広場へ出ようか」
オジジに言われてみんなで広場へと出る。
「...では、さっきもう魔法を使えないと言っていたハシモト君、この魔石を持って魔法を使ってみてくれ」
「げぇ、まじですか。でしゃばるんじゃなかったな」
ハシモトは文句を言いながらも、言われたとおりに魔石を受け取った。そして魔石を左手に持ちながら右手を地面に着けて魔法を使う姿勢だ。
「どうだね?ハシモト君、魔石から魔力が流れてくるのがわかるかね?」
オジジがハシモトに様子を聞き、ハシモトは興奮しながら答えた。
「すごい、もうすっからかんだった体に魔力が満ちてくる。これはホントにすごいですよ!」
「よし、それでは試しに魔法を使ってくれ。全力で頼む」
「わ、わかりました」
ハシモトは呪文を詠唱し、いつものように魔法で土の柱を地面からはやす。
おぉ、普段見てる柱より大きいな。全力だとこんぐらいなのか?
俺は少し驚いた程度だったが、他のゴブリン達はもっと大きい衝撃があったようでかなりざわつきだしていた。
「ハシモト、お前いつの間にそんなに魔法上達したんだよ!こりゃユージのより大きいぞ!」
見てみると、言われたハシモトも自分で出した土の柱に驚愕していた。
「いや、こりゃ魔石の力だよ。すげー力があるぜこの石には」
「そのとおり。魔石には魔力を溜める働きのほかに、魔力の出力を高める働きもあるんだ。ハシモト君、ありがとう。では、小屋に戻ろうか」
へ~。すげーなぁ。この石がたくさんあったら魔法打ち放題か。俺達でも一時的に他の種族と渡り合えるんじゃないか?
小屋に戻りながら、この石の活用について考える。
ハシモトはみんなに小突かれていた。どうやら柱の大きさランキングを彼が今塗り替えたようだ。
しかし、本人は魔石に頼っての結果なので不服なようだった。
なんか、そうゆうの見ると魔法が使えないの悲しくなってくるね。俺も混ざりたかったぜ。
「...よし、みんな魔石の力についてはよく学んだかな?魔石の大きさが大きければ大きいほど、容量、出力ともに上昇する」
オジジはみんなが座ったのを確認してまた話し出した。
「この魔石を上手に使うのも、やはり魔力の流れをよく理解する必要がある。これからも基礎訓練を怠らないように」
オジジがくぎを刺し、みんながいやそうな声で了解の返事をする。
「この魔石は実は結構貴重な物で、売ればそこそこの額になる。いつか他の種族と外交するときは交渉の材料になるのでそれも覚えておくといい。
魔石は地中に埋まってるから、山を掘っていれば見つかったりする。他の種族は基本的にあてずっぽうに探すしかないが、我々には土魔法がある。地中に魔力を流して魔石を見つけることが可能なのでその方法もまた教えよう。
何か魔石について他に質問はあるかな?」
ニイジマが手をあげる。珍しいな。こいつが挙手するのは。
ニイジマは第四小隊の隊長でなんか優しいいい奴だった。あまり自分からは発言しない奴だ。
オジジがニイジマに発言を促す。
「その魔石を使えば、ホシノ君でも魔法が使えるようになるんですか?」
なるほどたしかに。俺には魔力がないらしいが、魔石があれば魔力が無くても魔法が使えるんだもんな。
「理論上は可能なはずだ。しかし、魔法を使うのには呪文が必要だ。ホシノ君は呪文を詠唱することができないため、とても難しいと思う」
そうなんか。確かに、みんなが呟いてる呪文は全く聞き取れない。まぁしゃーないな。
「そうですか。ありがとうございます。ホシノ君、ごめんね。期待させるようなこと聞いちゃって」
「いやいや、全然大丈夫。むしろありがとう。その発想は俺にはなかった」
やっぱりニイジマはいい奴だなぁ。俺は魔法を使えないけど優しい仲間がいっぱいいるんだ。悲しくないぞ。
「魔法というのは、物体に魔力を流すまでは呪文は必要ない。しかし、その物体に対しどう作用させるのかの段階で呪文が必要になるんだ。その呪文というのは、敵を殺して強くなると自然と覚えているものなんだ。我々ゴブリンは、自然と土の呪文を多く覚える」
オジジが俺たちのやり取りを見て、魔法についての補足説明を始める。
なるほどな、つまりレベルアップで新しい魔法を覚えるってことか。
「魔法についての理解が進むと、自然と覚えた魔法以外にも他人の魔法を覚えることも一応可能だ。この方法ならホシノ君でも魔法が使えるだろう。
しかし、この方法は非常に難しく、時間もかかるため推奨しない。自然と覚える魔法をよく訓練するほうが強くなるための近道となる」
レベルアップで覚える以外にも、直接魔法を学習して使えるようになる方法もあるってことか?
俺は呪文をよく聞き取れないから魔法が使えないと諦めていたが、根気よく地道に続けていればいつかは魔法を使えるようになるのかもな。魔石の力を借りるはめにはなるんだけど。
「ってことは、ゴブリン以外が土魔法を使う可能性もあるってことですか?」
ヌマダがオジジに質問する。こいつは第十小隊の隊長で槍を使うのがとてもうまい。バリバリの戦闘タイプだ。こいつからすると、相手が地面魔法を使ってくるかもとなったら結構やっかいなんだろうな。
「あぁ、可能性はある。しかし、その場合ゴブリンが他種族に土魔法を教えたという事になる。その状況が起こる可能性は低いかな」
「なるほど。ありがとうございます」
「説明しておくと、ゴブリンは土、人間は火、エルフは風、獣人は光、鬼は雷、リザードマンは水、ドワーフは音の魔法がそれぞれ得意だ。ホシノ君は特に、エルフと戦うときは矢が風魔法で防がれる可能性があることを覚えておいてくれ」
「わかりました」
風魔法か、やっかいだな。塹壕でも掘るべきか?
俺たちゴブリンは土魔法が使えるおかげで、穴を掘るのが得意だった。
おそらくだが洞窟もそうやって作ったのだろう。だから塹壕を掘るというのは割といい戦法だと思っている。ゴブリンにしか通れないような小さい穴なら専用の通路としても使えるし。
「また、よりたくさんの敵を殺すとその人物固有の魔法を使えるようになることもある。私も固有魔法を持っている」
「すげー。どんな魔法なんですか?」
俺は固有魔法という響きにつられ、興奮して質問する。
「私の固有魔法は、生命力を奪って魔力に変えるというものだよ」
おぉう、なんだか邪悪な能力を持っていますねオジジ様。
「そ、そうですか。ありがとうございます」
俺は動揺を隠しきれずも、オジジに返事をした。
「みんなもたくさん強い敵を殺して固有の魔法が使えるように努力しよう。
それじゃあ今日はこの辺で解散しようか。みんな、また明日」