第6話 魔法実演
日もすっかり落ちてしまったのでユージとはそのまま解散した。
洞窟に帰り、食事をとった後兄ちゃんに今日あった事を話した。
オジジにゴブリンの歴史を教えてもらったこと、オジジ曰くゴブリンにもう後はないが最後の反撃の手立てはあるらしいこと、友達のゴブリンが出来てユージという名前をつけたことなど。
兄ちゃんは洞窟の外で俺に友達ができたことがうれしいみたいだった。
そんなに心配されそうなほど俺ってコミュ障っぽいか?
「ねぇ、そういえば兄ちゃんっていくつなの?」
話をしていて、ユージがこの村には9歳以上のゴブリンはオジジしかいないと言っていたのを思い出したので兄ちゃんに年齢を聞いてみる。
「俺か?俺は7才だよ」
「ユージが言ってたんだけど、この村に9歳以上のゴブリンがいないってホント?」
「確かに、そうかもなぁ。俺が子供のころは今よりもっとゴブリンの数も少なかったし。ゴブリンも、隠れ潜みながらもなんとかここまで発展してきたんだな」
「そっかぁ。みんな頑張ってきたんだね」
兄ちゃんの話に納得したふりをしたけど、おかしくないか?
18年前の戦いで数を減らしたって言っても、まさかオジジ一人でこの村を築きあげたわけじゃあるまいし、それにしたって9歳以上のゴブリンがいないのは不自然だ。
このことも明日オジジに聞いてみよう。
「あと、みんなにも名前があったほうがよくない?兄ちゃんは名前がなくて不便って思わないの?」
「確かに、あったら便利かもなぁ~。でも、憶えるのが大変そうだ。それに今は無くても何とかなってるし、いらないかもなぁ」
「そうかなぁ~?」
「兄ちゃんは洞窟のみんなと、近所付き合いしかしてないから名前無くてもなんとなくで済んじゃうからな~」
「そっかぁ」
兄ちゃんがそう言うならそうなのかもしれない。
でも、オジジのところに集まる皆には絶対あったほうがいいからそれも明日言おう。
「よし、もういい時間だし寝るぞー。明日もオジジ様のとこに行くんだろ?早く寝ろー」
「はーい」
俺は素直に寝床へ入る。兄ちゃんはまだ寝たがらない兄弟たちを寝かしつけるために行ってしまった。
正直ちょっと興奮してて寝にくいけど、遅刻したくないしさっさと寝よう!
俺は早く寝るため、羊を数えた。
翌日、ちょっと早い時間にオジジの小屋に行った。
若干ビビりながらドアを開けるも、時間が早すぎたためかまだ誰もいなかった。
仕方がないから村を散歩することにした。
村にいくつかある小屋を確認してみると、だれも住んでいないみたいだった。
中を見てみると、道具が置いてあったので作業用の小屋なんだろう。
てことはみんな洞窟に住んでいるのかな?
俺は池を一周してみる。
池では今日も子ゴブリン達が遊んでいた。
大人のゴブリン達は池で水を汲んでたり、山に入って行ったり小屋に作業をしに行っているらしかった。
ゴブリンが住んでいるらしき洞窟は5つあった。
大体一つの洞窟に30匹住んでいるとすると、この村全体で150匹くらいのゴブリンがいるのか。
戦争するとなると、絶対足りないよなぁ。
他にも隠れ住んでいるゴブリンがいるかもしれないってのに期待するしかないか。
俺はいつもの小屋に帰ってきた。中にはユージとオジジがいた。
「ホシノ!やっぱり、文字だったら他の種族とも意思疎通ができるって!」
円卓で何かを見ているらしかったユージが俺に気づいて声をかける。
「まじか!やっぱり?」
てことは、今見てるのはこの世界の文字か?
「うん。それに、他の種族は俺たちの言葉わからないけど、俺たちは他の種族が何言ってるのかわかるって!」
「まじ⁉」
「あぁ、本当だよ。でも、ここからは悲報なんだが、私たちも何度か彼らと交流を持とうと思ったがすべて失敗に終わっている」
オジジが説明を付け加える。
おそらくユージがそのことについて聞いたんだろう。
「そうなんですか…」
「でも、彼らの言語を覚えることはきっと役に立つ。これもみんなに覚えさせようと思っていたことだ。とりあえず、ホシノ君も彼らの文字を見てみるといい」
俺はユージの横に座り、見ていた紙を横から見てみる。
なんか異世界っぽい記号がいっぱい書いてあった。
「これは実際に人間達が使ってた手紙なんだって」
ユージが教えてくれる。
そうなんだ…。全く意味が分からん。
俺は顔を引きつらせる。他言語習得なんてめんどくさくなってきた。
「オジジ様は、この文章が読めるのですか?」
「あぁ、読めるよ。大体、そろそろ戦争が終わるみたいなことが書かれている」
「なるほどぉ…」
いやいやいや、面倒くさがっている場合じゃない。頑張らないと。
俺は気合を入れなおす。そうしないと今すぐこの意味わからん紙を破りたくなっていた。
俺とユージがオジジの解説を聞きながら手紙を読んでいるうちに、他のゴブリン達も小屋にやってきた。
みんなも一緒に手紙の解説を聞く。
「そろそろ、手紙を読むのをやめようか。今日は別のことをしようと思ってたんだ」
そして、小屋の中に12人全員がそろったとき、オジジが手紙を棚にしまって言った。
俺たちはそれを聞いて各々円卓に座る。
特に座る場所は決まってないけど、みんな昨日と同じ場所に座った。
「今日は、魔法について解説しよう」
魔法!異世界っぽいな~。
すごく使ってみたい。
「魔法に関しては見るのが一番早い、みんな小屋の外に来てくれ」
オジジに言われ、みんなでぞろぞろと小屋の外に出る。
「よし、じゃあ今から使うからよく見ててね」
みんなで外に出て、オジジに注目する。
オジジが地面に手を当てて、何かを呟いたと思ったら地面から土の柱がボコッと出てきた。
「「「おぉー」」」
みんなで歓声をあげる。
すげー。土がせりあがってきた。
魔法によって、オジジの膝くらいの高さの土の円柱が建てられていた。
「一日に使える魔力量には限度があるから、今は少しの魔力だけで簡単な実演として魔法を使った」
そうなのか、だから思ったよりも小さかったんだな。
「オジジ様!魔法って俺もできるの!?」
見ていたゴブリンが目をキラキラさせながら言う。
「あぁ、できるよ。じつは、君たちの潜在的な魔力の量は既に測ってある」
いつのまに。アイアンクローの時か?
「なので、とりあえず君。ちょっと前に出てきてくれ」
オジジがユージを指さして呼ぶ。
ユージは少し驚いた様子だったが、すぐに前に出てオジジの近くに行った。
今呼ばれたってことはユージは魔力が多いのかな。正直羨ましい。
「まずは地面に手を当てて。地面に自分の中を循環してる何かを注ぐイメージを持って」
ユージはオジジに言われるまま地面に手を当てている。
「なんだか体が疲れてきた?」
「はい」
「じゃあ、今からいう言葉を後に続けて言って」
オジジは何やらよく聞き取れないことをゆっくり呟きだした。
後に続いてユージもその言葉を呟く。
すると、地面からさっきのオジジのものよりも少し大きい土の柱が飛び出してきた。
「「「おぉー」」」
またみんなで歓声をあげる。あと5回くらいは飽きずに歓声をあげ続けるような気がする。
すげー。俺は友達がなんか魔法を使ってるのを見て、さっきオジジが魔法を使っているのを見た時とはまた違う感動をした。
「ありがとう。戻っていいよ」
オジジに言われてユージがみんなのところへ戻る。
ユージは自分でも魔法を使ったのが不思議なようで、自分の手と出てきた土の柱を交互に見ていた。
「とまぁ、こんな感じで作動させたい物質に魔力を流し込んで魔法は使う。
このままみんなにも魔法の練習をさせたいところだが、その前にもう一個伝えておくことがある。
それは魔法に限らず、自分を強くする方法だ。
魔法を例に例えて話すけど…君は自分の魔法を強くしたいと思ったら、どうする?」
オジジが適当にゴブリンに質問する。
そりゃ、魔法の練習するんじゃないの?
「えーっと、強くしたい魔法をいっぱい使うとか?」
聞かれたゴブリンも俺と同じようなことを答えた。
「うん、半分正解だけど、半分不正解だね」
しかし、オジジはその答えを否定する。
「確かに、魔法をたくさん使うとその魔法の特徴が知れたりするし自分の魔力も増えていく。
しかし、それよりももっといい方法があるんだ。
それは、敵を殺すことだ。
敵を殺すと、自分の魔力が段階的にとても増加する。
これは、魔力に限った事じゃなく、力や俊敏性、動体視力、手先の器用さなんかも敵を殺すととても増加する。
あまり殺しすぎると伸び率はだんだん落ちてくるが、今のところ上限は見つかっていない」
つまり、この世界には経験値とレベルの概念があるってことか。
なんだ、それなら話は早い。さっさとその辺のモンスターを倒しまくってレベル上げしよう。
「今からそれの実演をしようと思う。ついてきてくれ」
おっ。早速モンスターを倒しにいくのかな?
俺はオジジの話を聞いて妙に楽観的になっていた。
だって経験値とレベルがあるなんてまんまゲームの世界だし、ゲームの世界なら絶望的な状況に陥るなんてよくあることだったから。
それでも、しっかりとレベル上げをすればどんな強敵にも勝てると思っていた。
自分がゴブリン族を救う勇者になれると、そう思っていた。
だから、この時オジジが妙に険しい顔をしていることに気が付かなかった。