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経験値異世界転生  作者: ハイケーグ
第2章 ドワーフの国 アキノ共和国
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第42話 二匹と一人、ダーバリの食堂にて

 俺達は街の食堂で、注文した飯が到着するのを待っていた。


 飯を待っている間、俺はずっとさっきの会談の事を考えていた。

 隣接するアキノ、アイザクどちらとも同盟は結べなかった。俺は交渉に失敗した。

 アイザクに関しては明らかに取り付く島もない。なんとかアキノとは交易協定を結べそうだけど、ドワーフもなんだかんだでゴブリンを見下してそうだった。そんなことは始めからわかってたことだけど。

 俺じゃなくて、もっと交渉が上手い奴だったら結果は変わってたのかもしれない。結局俺は愚直に要求を提案して馬鹿にされただけだった。

 なんでオジジ様は俺なんかを次の指導者に任命したんだ......。


 「......ホシノ、お疲れ。俺はホシノはよくやったと思う」


 沈黙の中、ユージが会話を切り出す。


 「ホシノ、気づいたか?あのガルムルとかいうドワーフ、鬼とは握手してたけど、俺達とは握手してなかった。あのドワーフも、はなっからゴブリンなんて見下してたんだよ」


 「......だろうね」


 「だから、なんといか、元から向こうは俺達を見下してた訳で、ホシノがあの場でどうこうできる問題じゃなかったんだと思う。ホシノはよく頑張ったと思うよ」


 「......ありがとう。ユージ」


 ユージは励ましてくれるけど、俺はどうしても、もっといい方法があったんじゃないかと考えてしまう。もっと相手について調べてから交渉の席につくべきだったかもしれない。こんなに急ぐべきではなかったかもしれない。


 「ちょっと、何あなたたちだけで会話してるのよ。手帳を使って話してよ。私も会話に混ぜなさい」


 クラウディアが不服そうに声を上げる。

 ......なんというか、ユージの言う通り、俺達ゴブリンの会話に混ぜてくれとせがむこいつはかなり希少な存在なのかもしれない。


 『ごめんごめん。それで、ホシノ、これからどうする?』


 「そうね。そういえばあなたたちの目標はアキノとアイザクとの接触だったわよね。それは達成できたけど、これからについては考えてるの?」


 ......これからか。......どうすればいいんだろう。


 『これから、どうしよう。とりあえず国に戻ってまた内政かな。とにかく今は技術力を上げたい』


 俺はとりあえず当たり障りのないことを言っておき、ヤウタス連邦の今後を考える。 


 まだヤウタスの西側は占領したばかりだからな。しっかりと管理しないと。

 それから、さっき言ったようにヤウタス連邦も技術力を上げたい。

 今のところ、鍛冶技術とかは街に残ってたものをなんとなくで使ってるだけだからな。しっかりとした技術顧問をアキノから呼びたい。断られたら、自国だけで頑張るか。冶金の事とかに詳しい職人はヤウタスにいるのか?

 帝国との戦争を考えたら、海軍力を上げないと。隣国と同盟を得られなかった以上、帝国に行くには船を使うしかない。いや待てよ、でもたしか、帝国は他国に比べて海軍が強いらしかったな。

 それと、交易もしないと。ヤウタスにもなにか特産品があったらいいな。


 これからのヤウタスに必要な事を考えていると、注文した飯が運ばれてきた。

 言われるままに飯屋に来たけど、正直あまり食欲無いな......。

 俺はスープをすすりながらさっき考えていたことを手帳にメモしていく。


 うーん、でも、海軍力を上げるって、実際どのくらい上げればいいんだ?帝国の海軍力がわからないと見通しも立てられないな。


 『クラウディア、帝国ってどのくらい海軍が強いんだ?』


 おいしそうにパスタを食べるクラウディアに聞いてみる。


 「帝国の海軍は最強よ。海軍だけなら全世界を相手にしても勝てるわ」


 パスタを頬張りながらクラウディアは鼻高々に自慢する。

 全世界を相手にって、ホントかよ......。

 でも、話を盛っているにしても、海軍が相当強力なことは確からしい。

 これ、海から帝国を攻めるなんて無理では?


 そうなると、今ちょうど帝国と戦争中のエルフの国を頼るしかなくなる訳だけど、エルフの国との間には砂漠があるから通行が出来ない。それに、そもそもエルフはゴブリンを見るなり殺してくるらしいからこうして国境を封鎖したんだ。共闘なんて無謀か......。クソ、どいつもこいつもゴブリンってだけで見下しやがって。

 

 ......あれ、じゃあもうどうしようもなくないか?

 あと俺達に出来る事と言ったら、エルフと帝国の戦争でエルフが勝つことを祈ることぐらいか?


 ......それか、最悪の最悪、帝国への陸路を求めてアキノと戦争するか?


 『クラウディアごめん。少し声で喋る』


 俺は手帳にそう書いて彼女に見せる。

 最悪、アキノに攻め込む話になるかもしれない。さすがに彼女には隠しておきたかった。

 彼女は少し不服そうな顔をしたが、頷いて了承してくれた。

 

 「ユージ、これからなんだけど、どうやって帝国と戦争しよう。俺は同盟を得られなかったから海から攻めようと思ったけど、帝国は海軍がすこぶる強いらしい」


 「らしいねぇ......。航海術を持ってるゴブリンなんていないだろうし......」


 「海賊のゴブリンはいなかったの?」


 「いやー、ヤウタスにいたゴブリンはみんな山賊だったよ」


 「そうか......」


 たしかにあまりゴブリンが海賊やってるイメージは無いな。大体村を襲ってる。


 しばし、俺とユージはお互いに良い意見が出ずに押し黙ってしまう。

 結局、ゴブリンなんかに出来る事には限りがあるのか......。


 このまま動かずに内政に注力するか、隣国と戦争するか。俺にはそれくらいしか思いつかなかった。


 「......ホシノの理想では、アキノとアイザクとも同盟を結びたかったんだよね?」


 「うん。俺達が弱くても、仲間が増えれば帝国にも勝てると思ってる」


 「それなら、会談の最後に、ワダさんが証拠を探すって言ってたよね」


 「あぁ、帝国が願いを叶えるランプを使って、亜人の消滅を願うために戦争してるってやつね」


 「そうそう。俺達も、それの証拠を探すのを手伝わない?」


 ............なるほど、確かにその手があったか。

 帝国の野望を裏付ける確たる証拠さえあれば、他の亜人国家も動かざるを得ない。そうすれば、帝国打倒も夢じゃない......!


 「確かに。そうしよう!ありがとうユージ!ユージの方がよっぽど指導者に向いてるよ」


 「そんなことないけどね」


 ユージは照れたように頬をかく。


 「それにしても、オジジ様とマルセルはどうやって帝国の野望を知ったんだろう?」


 「さぁ、なんでだろう?とりあえず、クラウディアにでも聞いてみる?」


 「そうすっか」


 俺はクラウディアを見る。クラウディアはずっとフォークでパスタをくるくると回し続けていた。

 ......やばい、一人だけ仲間外れにされて明らかにむくれている。


 『ごめんクラウディア。今からは手帳で話すから』


 「別にいいわよ。どうせわたしは帝国の捕虜だもん。そりゃあ元首様と大将様の会話には混ぜてもらえないわよね」


 『そんなことないから。大事な仲間だから』


 「仲間じゃなくて捕虜ですー」


 ......完全にいじけてしまっている。こういう時ってどうしたらいいの?


 『俺達は仲間だと思って接してるし、むしろクラウディアは特別扱いしてるよ』


 すかさずユージがフォローする。頑張れ!ユージ!


 「特別扱いって?」


 『他のみんなは兵舎で待機だけど、クラウディアはこうして一緒に行動してる。俺達がクラウディアを頼りにしてるからだよ。そうだよな、ホシノ』


 『うんうん。そうだよ!』


 「そ、そうなの?」


 実際はもしクラウディアが裏切って、ゴブリンを攻撃しだしたら止められるのがユージしかいないからだけど。


 『ついさっきもアキノとアイザクについて教えてもらったし、クラウディアには本当に感謝してる』


 さすがユージ、他者の褒める所を探すのが上手いな。いけいけユージ!


 「もう、わかったわよ。機嫌を直してあげる。で、何?なにか聞きたい事でもあるんでしょ?」


 ユージの褒め殺しにクラウディアが折れる。


 『ありがとう。帝国の願いの内容について知ってる?』


 「願いって、ランプに何を願うかってこと?」


 『そう』


 「それは知らないわ。聞いたこともないわね」


 『でも、帝国がランプを欲しているのは知ってたんだろ?』


 「えぇ。でも、そもそもこの世界でランプを欲しがってない国なんて存在しないわよ。だって願いを叶えるのよ?」


 それは確かにそうだ。俺だって欲しい。例えこの立場じゃなかったとしても欲しがっただろう。


 『噂程度には知らないか?帝国の行動目的について』


 「うーん、帝国はゴブリンをとても憎悪しているって言うのは有名で、だから今エルフとも戦争をしているって話だけど......。でもそれってこの世界じゃ当たり前のことらしいわよ?私は生まれた時から周囲にゴブリンがいなかったから話でしか聞いてないけど、ゴブリンと戦争してた世代の人たちはみんなゴブリンを嫌悪してたわ」


 当然だけど、ゴブリンがみんなに嫌われているって話は嫌だなぁ。


 『当たり前だけど、帝国は願いの内容を隠してるみたいだな』


 『そうだね』


 まぁ亜人の消滅を望んでますなんて公言したら人間以外の全種族を敵に回すもんな。そりゃあ隠すか。


 『なおさら、どうやってオジジ様は帝国の願いを知ったんだろう?』


 「あなた達は帝国の願いについて知ってるの?」


 『亜人の消滅らしい』


 「亜人の消滅?聞いたこともないわね......」


 クラウディアが聞いたこともないのか。


 『そういやクラウディアって帝国でどんくらい偉いの?』


 クラウディアの偉さによって機密の度合いも変わって来るよな。


 「私?私はまぁ、そこそこよ。そこそこ」


 そこそこかぁ。一応、ヤウタス偵察隊の隊長っぽかったし、そこそこ偉そうだとは思っていたけど。

 そこそこ偉いクラウディアにも明かされていないってことは、そこそこ機密の情報なんだろうな。

 うーん......。


 『そもそも、願いの証拠なんてどうやって探せばいいんだ?』


 俺は捜索の方向性を聞いてみる。

 そもそも考えてる事の裏付けなんて探しようがなくないか?頭の中にある物なんだし。


 『文にして残してくれてたら一番なんだけどね。計画書とか、指令書、手紙とか?あとは偉い人の証言とか』


 なるほど。確かにそれは証拠足り得るか。


 『じゃあ、クラウディアがドワーフ達の前で、帝国の野望は亜人の消滅です!って宣言してくれたら証拠になるかな?』


 「ちょっと!さすがにそんなことしないわよ!」


 クラウディアに怒られてしまう。そこをなんとか。


 『たぶん言ってくれたとしても、下劣なゴブリンに脅されて無理矢理言わされている様にしか見えないと思う』


 『それもそうか』


 「ホシノ君ってちょっと抜けてる所あるわよね」


 クラウディアが呆れたように言う。

 そうか?まぁでも確かにクラウディアに証言させるのは無理があるな。


 俺達は飯も食い終わり、だらだら帝国の野望の証拠探しについて考えていた。


 『ワダさんがこっちに来てる』 


 すると、突然ユージがそう告げた。


 『何か用かな』


 たまたま近くを通っただけ。とも思えないよな。

 しばらくした後、兎の着ぐるみが食堂に入って来た。

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