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経験値異世界転生  作者: ハイケーグ
第2章 ドワーフの国 アキノ共和国
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第37話 国境へ向かって

 町に戻り、俺とユージとクラウディアで町長の屋敷に入る。

 クラウディアが同席していた方が交渉が容易に進むだろうというユージの提案だった。


 とりあえず、町長に洞窟で殺したエルフの首を見せる。


 『賊は全員殺した』


 俺は渡された紙を使って筆談する。


 「ありがとうございます!これで皆もようやく安心して眠る事が出来ます。......ところで、そちらの女性は?」


 『彼女は賊と戦っていた帝国軍の生き残りだ。危ないところを俺達が助けた』


 俺の説明に、クラウディアは肯定するように会釈した。


 「そうでございましたか。それで、この町の者は捕まっていませんでしたか?」


 町長はとても不安そうに俺の顔を見た。


 『洞窟の奥に、女の死体がたくさんあった。生きている者は一人もいない』


 「そうですか。わかりました......ありがとうございます......」


 『ヤウタス連邦に所属すれば、この町にも何匹かのゴブリンを配置する。もう山賊に怯える事はない』


 「もちろんです。山賊も退治して頂いたので、我々もヤウタス連邦に入ります。これから、どうかよろしくお願いします」


 『ようこそ。悪いようにはしない。とりあえず、今日はこの町に泊めてくれ。俺達は明日には出発する』


 「わかりました。どうぞ、お好きな場所へお泊り下さい」


 『ありがとう。それでは』


 「はい」


 話が付き、俺達は応接間を出る。


 「............うっ......うぅ」


 ドアが閉まる直前、町長は泣いていた。

 屋敷を出る際、俺は玄関で少し足を止めた。


 「......?ホシノ、行こう」


 「......うん」


 入るときには気が付かなかったが、屋敷の玄関には女性の絵が飾られていた。その女は、俺が先ほど殺した女によく似ていた。



 俺とユージとクラウディアは空き家を見つけて泊ることにした。


 「今日は疲れたな」


 俺は何とはなしにユージに話しかける。

 クラウディアはベッドに横になるや否や、すぐに寝息を立てていた。


 「にしても、こいつ寝つきがいいな」


 「たぶん疲れたんだと思うよ。ホシノ達が洞窟に入った後、二回逃げ出そうとしたから」


 「そうだったんだ」


 ユージ相手じゃあ、隠れても意味ないし逃げ出すのは無理ゲーだろうな。


 「......ホシノ、洞窟の中の生存者殺したでしょ」


 「......うん」


 「クラウディアは、たぶん気づいてない。もしかしたら、察してるかもしれない。けど、少なくとも彼女の魔力探知じゃ誰が殺したのかまではわかってない」


 「そっか......ありがとう。なんだか気を落としている様に見えるけど、察されてない?」


 「たぶんだけど、自分を責めてるんだと思うよ。自分が賊に負けなければ、助け出せたと思ってるんだと思う」


 そうか......。まぁ確かに、もしもこいつがエルフに勝っていれば、洞窟内から助け出すことはできただろうな。


 「ホシノ、俺も、何度も山賊のゴブリンを殺した。たぶん今回も殺してたと思うよ。だから......」


 「うん、大丈夫。ユージ、ありがとう。ただ、やっぱり今日は疲れたよ。俺ももう寝る。おやすみ」


 俺はユージの励ましを遮り、床に横になる。ユージには悪かったが、今は、あまりそういう気分ではなかった。


 「うん。おやすみ」


 ユージも、それ以上は何も言わなかった。




 翌朝、二匹と一人で朝食をとりながらふとユージに聞く。


 「そういえば、クラウディアをどうする?このまま同行して西に行くか、この町に置いてくか。あと港町に送ってハシモト達に管理させるとか」


 「どうしようね。ごめん考えてなかった」


 「俺はただ開放するのは危険すぎるから嫌だな。犯罪者を野に放つようなもんだと思ってる」


 「わかってる。そうはならないように努力するよ。とりあえず、本人の意向は聞いてみよう」


 「まぁ、そうするか」


 俺は手元の紙に文字を書き、むしゃむしゃパンを食べているクラウディアに見せる。


 『昨日ユージに聞いたと思うけど、俺達はドワーフの国を目指してる。お前はこれからどうしたい?』


 クラウディアは咀嚼していたパンをのみこむと、少し考えてから話しだす。


 「......私も、そこまで同行するわ。というか、国境までの道のりを案内するから、それを条件に解放してくれない?」


 彼女は昨日自殺しようとしていたとは微塵も思えない程堂々としていた。一晩で何かが吹っ切れたのだろうか。


 俺は紙をおろしてユージを見る。


 「って言ってるけど、どうする?」


 道案内だけって、さすがに安い見返りな気がするけど......。


 「うーん、せめて何か俺達にとって有益な情報をくれたらそれでもいいけど......」


 よかった。ユージもあまりこの提案には乗り気じゃないみたいだった。


 『もうすこし俺達の利益が欲しい』


 「もう少しって?」


 クラウディアに逆に質問される。俺は文字を書き足す。


 『もうすこし俺達の利益が欲しい。帝国の情報とか』


 「情報ねぇ......。でも、いま私が帝国の事を喋って、あなた達は信用するの?」


 ......言われてみればそうだな。うーん。


 『信用できそうなら信用する。その情報が有益かどうかはこちらで判断する』


 まぁ、この場合は騙されたら騙される方が悪いか。


 「それじゃあ、あまりに私に不利な条件よ」


 なんだこいつ。昨日はしおらしかったくせに、ずいぶん強情だな。


 「ユージぃ......」


 「まぁまぁ。彼女も、生きて帰るために必死なんだよ......たぶん」


 「そうなの?俺達がゴブリンだからバカにされてない?」


 「昨日あれだけ実力を示したから。それでなおこちらをバカにはしないと......思う、けども」


 俺とユージで話していると、クラウディアがパンを食べ終わる。


 「おかわり、もらえるかしら?」


 本当か?やっぱり俺達なめられてない?



 朝食を食べ終わり、とりあえずはクラウディアにドワーフ国境まで案内をさせることで話がまとまった。それだけで解放するのかどうかは一旦保留だ。

 町にある程度の数のゴブリンを置いて、また出発する。


 「ここから国境までは近いわよ。町を二つ越えたらたどり着くわ」


 クラウディアが先導し、説明する。それを聞きながら俺とユージは歩く。その少し後ろに、軍のみんなについてこさせていた。


 「そもそも、私達はドワーフの国、アキノ共和国から来たのよ。テオドール様と連絡が取れなくなって、またゴブリンがヤウタスを支配している。という話を聞いた陛下(へいか)の命令で私はヤウタス偵察の任に就いたの。まぁ、その後の顛末はあなた達も知るところよ。山賊相手に舐めてかかって惨敗。危うい所をあなた達ゴブリンに助けられて、今は囚われの身」


 何が囚われの身だよ。結局ユージの分のパンまで食いやがって。


 『こうして道案内してもらってるし、君を助けて良かったよ』


 ユージが手元の紙に書いて見せる。

 やっぱりユージは甘すぎないか?もっと見返りを求めてもいいのに。


 「......そうね。案内のついでに、今なら少しくらい質問にも答えてあげる」


 どういう風の吹き回しだ?なんか、こいつユージにはなびいてるよな。


 「ホシノ、なんかある?」


 ユージが俺に紙とペンを渡そうとしながらたずねる。


 「いや、俺はいいよ。ユージが質問してくれ」


 しかし、俺はそれを受け取らなかった。

 正直聞きたい事は山ほどあったが、ユージのおかげで生まれたチャンスだ。ユージが聞きたい事を聞くべきだと思う。


 「......わかった」


 ユージが少し思案をしつつ、紙に書いていく。


 『俺は戦争を終わらせたい。なぜ帝国はゴブリンを殺す?』


 「そりゃあ、ゴブリンが人を襲うからよ」


 『俺達は人を襲わない。それなら、戦争をやめられるか?』


 「それは......そうかもしれない。でも、ゴブリンは人を襲わないと子供が出来ないじゃない。オスしかいないんだもの。それはどうするの?」


 『今は、帝国が遺したものを拝借している。将来的には、ランプでゴブリンにもメスが生まれる様にしようと思っている』


 「............そう......ランプで......」


 そこで、クラウディアは沈黙した。何かを考えているのだろう。

 彼女の様子を見るに、確かにこの世界には願いを叶えるランプの存在があるようだ。


 「......でもそれだと、帝国にとっての利益が無さすぎるわ。帝国もランプを欲している。あなた達と戦争をやめるよりも、殺して奪った方が利益になると思ったら、たぶん帝国はあなた達と戦争をするわ」


 確かにそうだ。ゴブリンにランプの使用権を渡す事の帝国の利益は、ヤウタス連邦との戦争回避。ただそれだけだ。それだけでは、あまりに交渉材料として弱い。願いを叶えるランプの方がよほど魅力的だろう。


 「それに、見つかっていないランプもある。結局、その話はまだ夢物語。夢を追いかけているうちは、ゴブリンは人間を襲い続ける。それをみすみす許す事は出来ない」


 『もしランプが見つけられなくても、ゴブリンは他種族と共存できる』


 「......具体的に、どうやって?」

 

 『ホシノが考えてる。まだ、具体的な方法は思いついてないけど......』


 クラウディアが俺を見る。

 なんとなく照れくさくて、俺はにへらと笑う。


 「......ふっ」


 鼻で笑われてしまった。

 くそー。やっぱり俺の事舐めてるなー。

 

 「きゃっ」


 と、突然クラウディアがその場に尻もちをつく。

 なんだ?

 ふと見ると、ユージが怒っているように見えた。

 がりがりと紙にペンを走らせ、尻もちをついたクラウディアに見せる。


 『俺達の首領をあまり馬鹿にしないでもらいたい』


 「わ、わかったわ......」


 どうやら、ユージが魔力でなんか怒気を放ったんだろう。クラウディアは魔力探知があるから、それが見えて驚いたと。

 怒ったユージは、魔力の事はわからない俺もなんか怖かった。

 彼女はお尻をはらいながら立ち上がり、俺をキッと睨んでからずんずん前に進んで行ってしまった。

 俺を睨むのは違うくない?




 「そろそろ、アキノ共和国よ」


 町を二つ過ぎ、海沿いの道を歩くクラウディアが言った。

 確かに気づけば、北にずっと存在していた山脈が見えなくなっていた。もう、国境が近い証拠だろう。


 町の制圧の際には、クラウディアがいた方が穏便に進むかと思いきやそうでもなかった。ゴブリンに捕まっている女性を助け出そうと、むしろ町の男たちの士気が上がってしまった。

 結局、普段通りユージが男たちの下半身を土に埋めて冷静になってもらう必要があった。


 クラウディアがドワーフの国......アキノ共和国から来たというのも本当のようで、道中では賊と全く出会わなかった。おそらく、彼女たちも探知を用いて賊を討伐しながら進んでいたのだろう。


 「ユージ、クラウディアの事、どうしよう」


 「どうって?」


 「前の町だと、むしろ交渉がこじれたから。ドワーフも、ゴブリンが人間の女を引き連れてたら勘違いして印象が悪いかも」


 「......確かに。ちょっと、隠れてもらおうか」


 「頼んだ」


 『ちょっと隠れてもらってもいいか?』


 ユージが紙を見せる。


 「あら、どうして?」


 『おそらく俺達が君を囲んでいると、また話がこじれる』


 「大丈夫。私に任せて。むしろ、私が先に行って話を通してあげるわよ」


 クラウディアはなぜか自信満々だった。


 「......って言ってるけど、ホシノどうする?」


 「いや、まぁ確かにそれが一番穏便かもだけど、そもそもこいつを先に行かせたら逃げるだろ」


 「そうかな?そんな事しないと思うよ。もう何度も同じ釜の飯を食べた仲間だし」


 もー!すぐにユージは信用して仲間判定するんだから!


 「仲間ではない!目的が違うから!」


 「......確かに、まだ彼女の目的を聞いてないな。......それこそ、目的次第では俺達と協力できないかな?」


 「ゴブリンと協力関係になる目的ってどんな目的だよ」


 「例えば............うーん......とにかく旅がしたいとか」


 「わざわざゴブリンと?」


 「同行者は誰でもいいかも」


 望み薄~。


 「なにをずっと二人で話してるのよ。結局、私が先に行ってもいいの?」


 俺とユージが少し脱線した話をしていると、クラウディアがしびれを切らしたように割って入る。


 『いいわけあるか。列の後ろのほうに行って隠れててくれ』


 俺は紙に書きなぐり見せる。


 「なんでよ。いいじゃない。ケチね」


 ケチて。まじでゴブリンに慣れすぎだろこいつ。ユージが甘やかすせいだぞ。ある意味、これも他種族との和解って言っていいのか?


 『ケチでいいから......』


 「ホシノ、待った。止まって」


 俺が紙に書いてると、ユージの表情が険しくなり俺を止め、クラウディアにも手振りで止まれと示す。


 「敵か?」


 「わからない。数人の反応の中にかなり魔力が高いのが一人。こっちに向かってきている」


 ユージは前方を見ていた。ドワーフか?俺達に気づいて、迎えが来たのかもしれない。


 「ど、どうしたの?」


 突然立ち止まった俺とユージにクラウディアが驚く。


 「止まれ!探知に反応あり!」


 俺は後ろから歩いてきていた部隊を止めさせる。


 「警戒態勢!隊列は崩すな!」


 「「了解!」」


 「ねぇって......っ!」


 クラウディアも探知したようだ。前方を見据える。


 「ユージ、危険度は?あと接敵までの時間」


 「相手の固有魔法によるとしか......魔力は俺よりも少し弱いくらい。向こうは歩いてる。時間はあるよ」


 「わかった。なら、俺とユージで行こう。俺達なら、やばくなったら全力で逃げれば逃げ切れる」


 「了解」


 『ここで待っててくれ。頼むから変な事はするな』


 俺はクラウディアに紙を見せ、ユージと前方へと向かった。


 

 「見えた」


 前を歩いていたユージが隠れる。

 俺も同じ場所に潜み、道の先からこちらに歩いてくる数名を見る。

 ゴブリンよりは大きく、人間より小さいぐらいの背丈から見て、ドワーフのようだった。


 「......は?」


 ただ、なぜかその中に着ぐるみがいた。

 鎧を着込んだドワーフ数名と、兎さんの着ぐるみがこちらに向かって歩いてくる。その光景はかなり異様だった。


 「あの、兎みたいなのが、一番魔力が高い......」


 ユージは俺にそう告げた。

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