第33話 ミーティング2-2
「ありがとう。...とりあえず、報告はそんなもんかな?じゃあ次は、今後の動きについて。まずは内政から。
まず、俺達は国家になろう。
今のところ、俺達はただこの辺のゴブリンと人間が集まって一緒に暮らしているだけだ。
そうじゃなくて、ちゃんと国名を付けて、特にゴブリン達に帰属意識を持たせよう。そうすれば命令も今よりも聞くだろうし、規律が高くなるだろう」
「ふーむ...。まぁ良いと思うよ。名前は?」
「帝国では、このあたりの土地をヤウタス地方と呼んでいるらしい。そこで寄せ集まったゴブリン達で出来た国だから、国名は『ヤウタス連邦共和国』でどうだ?」
「直球だけど、国名なんてそんなもんか。異議なし」
「総帥は俺。ごりごりの独裁国家で軍国主義。幹部は全員身内で固めてある。政策目標は全種族の共存共栄」
「そうやって言われると最悪すぎる。今すぐにでも反乱を起こして革命したい」
俺がノリノリで国家体制を発表するも、ユージにぼろくそに言われてしまった。
「え、な、なんか変えた方が良い?俺、ユージに反乱されたくないよ」
というかユージに反乱を起こされたら、確実に俺は殺されて国を乗っ取られる。
「普通に君主制じゃ駄目なのか?まだしも専制政治って言った方がいい気がする」
「世襲にしたくないんだよね...。あと、君主制よりも共和制の方が政策目標に合ってない?」
ゴブリンが世襲制にしたら後々非常に面倒な事が起こる予感しかしない。まあ、共和制でも結局面倒な事になるかもしれないけどさ。
「...わかったよ。ただ、独裁をわざわざ明言しないでくれ。いかにも悪の国家っぽい。それと、独裁の軍国主義で政策目標が共存共栄はかえって悪者感が増すから」
「...わかった。あまり独裁は明言しないように。
選挙権は、今は町の長だけが有することにする。総帥候補もその中から選ぶ感じで。とりあえず俺はゴブリン牧場を全て潰すまでは、独裁体制も軍国主義も変えるつもりはない。
まぁ、俺が総帥選挙で負けたり、ユージ達に反乱を起こされたら特に抵抗もせずに受け入れるよ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
元々、オジジ様が俺を任命したからたまたま俺がこの地位にいるだけだしな。みんなにふさわしくないと判断されたらそれまでだろう。
「とりあえず、国家にした一番の目的はここに住んでる者達に帰属意識を持たせることだから。トガワと兄ちゃんは町に帰ったらみんなに知らせてくれ」
「「了解」」
「政策目標も大々的に打ち出してくれ。目標は全種族の共存共栄だから、人間もゴブリンも等しく国民。
さしあたって法律は、殺してはいけません、嘘をついてはいけません、強姦してはいけません、暴力を振るってはいけません、盗んではいけません、それらが守れない者は追放または強制的に徴兵させます。って具合で頼む」
「強姦してはいけませんの難易度が高すぎる。ゴブリンにそれを禁止させるのは無理がある。そもそもゴブリンにメスは存在しないんだぞ。非常に奇特なゴブリンと和姦しても良いという他種族の、いるかいないかもわからない、というかまず存在しないであろう人としかゴブリンは性交できないことになる。その法律は、実質ゴブリンという種族を絶滅させる法律だ」
「わかってる。だからって、他国の町の占領直後ならまだしも、安定してる自国の町で強姦を許可するわけにもいかないよ。
牧場の女を各町に分配しよう。今はゴブリンの数が増えたら困るから利用禁止だけど、戦争が始まって、またゴブリンが減ったら解禁とする」
「う~ん、今はそれで良いけど、将来的にどうするんだ?牧場の女はいつか死ぬぞ?新しく増やそうにも、自国の国民をそんな扱いにするわけにも...」
「ま、それもおいおい考えるよ。そのことは子供の頃からずっと考えてる。とりあえず、今はそんな感じで国を回そう」
ハシモトは、そんな行き当たりばったりで大丈夫か?と言いたげだったが、それ以上の追及はしてこなかった。
「それと、各町は食料生産以外にも木材や魔石等の資源の調達、加えて職人の育成にも本格的に着手してくれ」
職人の育成は、ヘンミがいればきっと色々と楽だったんだろうなぁ。
「「了解」」
「内政についてはそんなもんで大丈夫か?なにか意見や質問は?
...あ、それと、ヤウタス連邦は独裁国家だから、俺の事はみんなの前で呼び捨てするのは今後やめてくれ。こういった箔をつけるってのは、結構大事なんだ。指導者ホシノって呼んでくれ」
同志ホシノもいいけど、別に共産主義にするつもりはないからなぁ。
「長いしめんどい。ホシノ閣下で良いか?」
閣下!かっこえぇ~。
「それで頼む。...それと、立場をわきまえないでもいい時は、普段通りに呼び捨てしてくれ」
「なんでだ?」
気にしなくてもいいことをハシモトが突っ込む。
「そりゃ、まぁ、...なんかさみしいから」
「ふっ、わかったよ。寂しがり屋のホシノちゃん」
くそ~。上の立場のゴブリンの気持ちも知らないでバカにしやがって~。
「...じゃあ次、軍事について。
とりあえず、数も増えて来たし領土を西に伸ばそう。斥候部隊がまだいないから軍事行動は少し危険だけど、この一年帝国もこの地に来てないからたぶん大丈夫。
目標は、ドワーフ国境まで。西に進んでいけば、山岳の終わりに北のドワーフ国との国境があるらしい。そして西には海峡を挟んで鬼の国があるらしい。話はとりあえずそこまで進んでからだね。今回の軍事目標はその二つの種族と接触することだ。
鬼やドワーフがゴブリンに有無を言わずに攻撃してくる可能性もあるから、ユージは俺と一緒に来てくれ」
「うん、わかった」
「今のところうまく回ってる西の人間の町は占領も略奪もしない方針で。ただ、その人間達に反乱されても大丈夫なように、残す町と隣接した町は占領して、大規模な反乱を起こされないように。
今回は敵軍もいないし、消化試合みたいなもんだと思う。いくつかの町を占領できる分だけで軍の規模は少なくてもいいと思う。ハシモトはここに残って新米ゴブリンの訓練に力を注いでくれ。あと、この港街の管理も頼む」
「そんなに少ない戦力で大丈夫なのか?万一、帝国軍がいたら?」
「ユージがいれば、探知があるから強大な敵はすぐに発見できる。危なそうだったら撤退するよ」
「なるほど、わかった。無理すんなよ。あと、ドワーフや鬼に粗相の無い様にな。初めて出会ったゴブリンの村の村長といきなり決闘になった事、忘れてねぇぞ」
「あれは、色々と事情があったから...」
というかハシモトお前、ノリノリでレフェリーやってたじゃねーか。
「軍事に関してもそんな感じ。何か質問や意見は?」
「ドワーフの国や鬼の国と接触して、理想ではどうするつもりなんだ?」
「理想は、仲良く出来たら良い、と思ってる。うまく同盟でも組めたら、一緒に帝国を潰したい。同盟は無理でも、せめて不可侵条約は結びたい。とりあえず、こちらに敵意が無いことを伝えたい」
「...それらの国がゴブリン牧場を所有していても?」
「...戦略的に、敵が増えすぎるのは良くない。ただでさえ帝国は強大なんだ。とりあえず帝国を打倒するまでは、出来るだけ他の国と戦争はしたくない。帝国を倒した後は、決めてない」
「...了解」
「他に質問は?
...それじゃあ、今回の会議は以上にしよう。解散!」