第31話 経験値を安定的に取得する冴えたやり方
残酷な描写あり
性的な描写あり
露悪的な描写注意
「こっちの建物なんだ」
ユージに連れてこられた場所には、巨大な建造物が建っていた。
街の住民は俺達が大将を殺して、消火作業を手伝ったことで、とりあえずは俺達に従っていた。今は街の中央のデカい屋敷に集めてある。
生き残った他のゴブリン達は、各々休息を取っていた。
「確かに、デカいな」
その建物は、街の建造物の中で他と一線を画す大きさだった。かなりの長さの横長の建造物が、二棟あった。高さはそこまで高くなく、3mくらいだった。
外観は、少し高いところに窓が付いていて、中の様子は見えなかった。
「なにが変なんだ?」
一緒に来ていたハシモトがユージに質問する。
「中の魔力の反応が、多すぎるんだよ。もしかしたら壁に大量の魔石が埋め込まれているのかもしれない。こんなの初めてで、怖くなって呼んできちゃった」
魔力探知用のカモフラージュか?魔力探知ってそんなに有名な能力なのか?
「ま、あの大将の野郎より怖いもんは出てこねぇだろ」
「ただ...」
「なんだ?」
「反応の一つ一つが、動いてるように感じるんだ。反応が多すぎて、そう感じてるだけかもしれない」
「まぁ、とにかく入ろうぜ。探知が効かない以上、行くしかねぇだろ」
「そ、そうだね...」
ハシモトが、建物の扉を開ける。
「人間様!お待ちしてましたよ~」
中には、数えきれない程大量のゴブリンがいた。
しかも、そのゴブリン達の体は俺達のように緑色では無く、ピンク色をしていてブヨブヨとしてそうな印象を受けた。
「あれ!?人間様じゃない!?ゴブリン?なんで外から?脱出しちゃったんですか~?イケナイ子達ですね~」
それは、まるで...
「な、なんだお前ら...」
「ハシモト!一旦、黙っててくれ...!」
俺はハシモトが余計な事を言わないようにくぎを刺す。
「わ、わかった」
俺のただならない雰囲気を感じ取ったハシモトは素直に従う。
「ご、ごめん、ちょっと俺、気持ち悪い...」
「ユージは魔力探知を切れ!そんなにいっぺんに情報が頭に入ったら、そりゃ気持ち悪くもなる!」
「ちょっと、大丈夫ですか~?具合が悪いなら、そこで横になってください~。さ、扉をしめて。開けっ放しにしてたら、人間様に怒られちゃいますよ~」
先程から俺達に対応しているピンクゴブリンが、俺達を舎の中に入れて扉を内側から閉める。
「鍵は、勝手に開いちゃってたことにしちゃいましょ~。これで、だれも怒られません。それで、あなた達はどうしたんですか~?なんで外から?あと、なんでお肌が緑色なんですか~?」
「先生~、僕はまだ人間様に殺してもらえないの?」
ピンクの子ゴブリンが、先生と呼ばれた俺達の相手をしているゴブリンに質問する。
「なっ!」
その物騒な言葉にハシモトがたまらず反応するが、俺に小突かれて押し黙る。
「もうちょっと待っててくださいね~。きっと、そろそろまた人間様がここに来ますから、それまでいい子にしててね~」
「もう待てないよ~」
そうぼやいて、ピンク子ゴブリンはどこかに歩いて行った。
「あーっと、とりあえず、君達は人間に飼われているの?」
「こらこら~、『人間様』ですよ~。あなたは、もしかして違うんですか~?」
「あぁ、俺達は違う。この街の外から来たんだ...」
「街の外から!それはとてもすごいです~。街の外のゴブリンは、緑色なんですね~。初めて見ました~」
「先生でも、初めての事あるんだ!」
「まだまだたくさんありますよ~」
先生と呼ばれた俺達に対応するゴブリンは、そう言って子ゴブリンの頭を撫でる。
「それで、君達は人間に殺されるためにここにいるの?」
「そうですよ~。人間様に殺してもらうために、こうやって毎日元気に生きてます!でも、ワタシはなかなか殺してもらえないんですよ~。悲しいです~」
「先生は、種が優秀なんだって!だから、ここで一番長生きなんだ!すげーんだよ!」
間違いない。このゴブリン達は人間の家畜だ。
このピンクの肌、柔らかそうな皮膚、それらは、まるで俺が元いた世界の、豚のようだった。
「ってことは、向こうの建物は...ハシモト、ユージ、行こう」
俺達は連れ立って舎から出る。
「あ、出ちゃいけませんって~。あ、でも、外から来たゴブリンさんなら、いいのかな?」
二つ目の建物の扉に手をかけて、一気に開け放つ。
「な、なんだこりゃ...」
「ひ、ひどい...」
扉を開けた瞬間、まずニオイがきつかった。何らかの刺激臭と、こもって蒸れた空気は、非常に気分が悪くなるものだった。
次に声がうるさかった。大量のゴブリンの産声と、女の嬌声が混じったそれは、精神的にキツイものがあった。
その建物には、大量の女が個別の檻に入れられていた。そして、妊娠している女以外は全員さっきのピンクゴブリンに犯されていた。女は人間が多数だったが、中にはエルフらしき女も混じっていた。
その二つの建物は、人間が造ったゴブリン牧場だった。
この建物でゴブリンに生殖させ、さっきの建物でゴブリンを育てる。そして、どこかその辺でゴブリンを殺しているのだろう。
それはもちろん、安定して経験値を稼ぐためだろう。
一体何匹のゴブリンがここで殺されてきたのか。想像もつかない。
俺は耐えきれず、扉を閉める。
「おい...これは一体どういう事だよ...」
「...これが、帝国軍の強さの秘訣って奴だったって事だ。そういえば、前にエルフ兵たちが均等な魔力って言ってたな。ほぼ確実に、エルフの国にもこれと似たようなもんがある」
「そういえば、あのエルフの大将、報いがどーたらこーたらって言ってたな。もじかして、これの事かよ...」
あのレベルまで強くなるのに、一体彼は何匹のゴブリンを殺して来たのだろうか。
「ホシノ、どうすんだ...」
「と、とりあえず、ユージは人間達のところに戻って、一人も逃がさないようにしてくれ」
「わ、わかった」
ユージは街の中央へ向かって行った。
「俺とハシモトは、とりあえずもう少しあの先生って奴と話そう」
「わかった」
俺は、ゴブリンの生活用の舎の扉をもう一度開ける。
「あ、お外のゴブリンさん達だ~」
「な、なぁ、あんたは、いつか人間に殺されるだけの生き方で本当にいいのか?人間に利用されるだけの生き方で、本当にいいのか?」
「なに言ってるんですか~?人間様のために生きられるなんて、光栄な事じゃないですか~。私の死で、人間様がますます繁栄するなら、これ以上の幸せはないですよ~」
だ、だめだ...たぶん、もうだめだ。俺にはもう無理だ。
きっと彼らに罪はないのだろう。きっと彼らは無害だろう。だが、彼らとは確実に相容れない。
彼らは、明らかに人間に忠誠を誓うように生まれた時から教育されていた。彼らは人間のために生きて、人間のために死ぬことに心の底から喜びを覚えているのだろう。
そんなゴブリンがここには数えきれない程いるのだ。
俺は、どうしようもない感情に襲われる。
「すまん、ハシモト、言いたいことがあったら、言ってもいい」
「なぁ、あんたらは、なんのために生きてるんだ?」
「もぉ~しつこいですね~。人間様に殺されるためですって~。あなたは?なんで生きてるんですか」
「お、俺は...」
ハシモトは言葉に詰まってしまった。
そりゃそうだ。俺だって、今はゴブリンのために生きてるが、普段からそういうことを考えているから言えるのであって、普通なんで生きてるのかなんてそんなにぱっとわかるもんじゃない。その日その日を生きるので精一杯なゴブリンだらけなんだ。
「なぁ、もうこんなことやめよう。俺達と一緒に生きてくれないか?同じゴブリンなんだ。歓迎するよ」
しかし、ハシモトは挫けなかった。なんとか、彼らをこの施設から出そうと必死だった。
「大丈夫です~。あなたについて行っても、人間様に殺してもらえませんよね~?」
「それ以外の生き方も、あると思うんだ」
「ワタシ達には必要ありません~」
「そ、それでも...!」
「結構です~。う~ん、そうだ!あなたも、ワタシ達と一緒に生活をしたら人間様がどんなに素晴らしいかわかりますよ~。そうしましょう~。ここで一緒に暮らしましょ?」
先生は、俺達を逆に勧誘してきた。絶対に断る。
「ハシモト、もう無理だ...」
「ホシノ...!でも...!」
「彼らは、ここでずっとこうしてきたんだ。何世代も何世代もこうやって来たんだ。もう、無理だよ...」
「っ!...くそぉ!」
「ハシモト...ここで終わりにしよう。俺は、ここで終わりにしたい」
俺は一気に自分が冷徹になって行くのを感じた。
「ハシモトが、殺してくれ。俺はお前に強くなって欲しい」
俺はハシモトにナイフを手渡した。
このゴブリン共が果たしてどれほどの経験値を持っているのかはわからないが、俺は少しでもハシモトにレベルアップして欲しかった。
「...殺す必要があるのか?もうこいつらは放って置けばいいじゃないか」
「放って置いても、いつか数が増えすぎてエサが無くなって飢えて死ぬだけだよ...。俺は人間に殺されたがってるこいつらを全員養ってやるつもりはない。ハシモトにそれが出来るのか?」
「出来ない。...でも、わざわざ俺達が手にかける必要はねぇじゃねぇか!飢え死にすんなら、勝手に死んでればいいんだ!」
「そんなの街の治安に悪いし、大量の死体は疫病を運んでくるかもしれない。それに、どうせ見殺しにするんなら、俺は殺したい。その方が強くなれるから」
「そんなの、ここを造った人間達と同じじゃねぇか!」
「同じじゃない!目的が違う!俺達は、これを終わらせるために殺すんだ!
...ハシモトは、生まれてきた場所がエサが無くて、兄弟で共食いする環境だったら嫌だろ?そんな環境になるとわかってて、放置するのか?」
「...わかった。わかったよ。俺がこいつらを全員始末する。...ただ、一つだけ条件がある」
大方、予想は付いていた。
「...この街の人間共を、俺に殺させろ。俺はこの施設を造った人間を許せない」
「...わかった。ただ、少しは残しといてくれ。人間がいないと、俺達も増えられないし、この大きさの町を俺達だけで回すのは無理だ」
「わかった、善処する。...ホシノは、外に出ててもいいんだぞ」
「いや、俺も一緒にいるよ。俺も同族殺しの共犯だ」
「...真面目な奴め」
ハシモトは、逃げられないように土魔法で舎の全ての扉を塞いで行く。
「あぁ~!これじゃあ、人間様が入ってこれないじゃないですか~。これ、どかしてくださいよ~!怒りますよ~!」
ハシモトは全ての扉を塞ぎ終わった時、無言で先生の首を切り落とす。
首が切り落とされやすいように、彼らは首の骨が柔らかく進化しているようだった。
「ああああぁぁ!ゴブリンなんかに殺されたくないぃぃ!」
それを見たピンクゴブリン達は、慌てふためき逃げ回る。
しかし、扉に続く道は埋まっていて、彼らの身体能力では窓までよじ登れなかった。
「人間様...人間様...」
結局、ほとんどのゴブリンは隅で固まって、祈る事しか出来なかった。
ハシモトは、無言で進みながら一匹一匹殺していく。
「ハシモト、ここに隠れてる」
一部狡猾なゴブリンは、ハシモトに見えない位置に隠れてやり過ごそうとするが、俺はそれを許さない。
「嫌だぁぁぁ!」
そいつの首根っこをつかんでハシモトに殺させる。
「人間様...どうかこのゴブリン達に天罰を...」
「このゴブリン達を地獄に落としてください...」
ハシモトは、祈る事しか出来ないゴブリン達の首を片端から落としていった。
一つ目の建物が終わり、二つ目の建物の最後のゴブリンを殺したときには、ハシモトは返り血で真っ赤に染まっていて、まるで鬼のようだった。
ゴブリン牧場の女たちは、利用価値があるから殺さずに残しておいた。
その足で、街の中央へと向かう。手には先生の死体を持っていた。
「...さっき、あのゴブリン達が俺達に地獄に堕ちろって言ってたよな...」
ハシモトが、久々に口を開く。
「あぁ、言ってたな...」
「あいつらは、自分のいた環境こそが地獄だって、気が付かなかったのかな...」
確かに、人間に飼育されて、殺されるために生きるなんて、見方によっては地獄だろう。
「でも...あいつらの顔見ただろ?人間に殺されることを本気で望んでいるあの顔。きっと、あいつらにとって、確かにあそこは天国だったんだよ」
生まれた時からそのために生きて、そのために努力して、そして確実に夢は叶う。あいつらは、確かに幸せそうだった。
「俺、もう何が幸せなのかわかんねぇよ...」
「正直、俺にもよくわからん。でも、どうしても立ち止まれないんだ」
「それは、死んでいったイシカワやヘンミ達のためか?」
「それもあるけど、それだけじゃない。
さっきの施設を見て、この施設を一つ残らず破壊したいっていう、どうしようもない感情に突き動かされてるんだ。俺はどうしても、あの施設の存在が許せない。そのために、今のままじゃ駄目だ。力がいる。だから、立ち止まってる場合じゃないんだ...」
「ホシノ...やっぱ、お前は強いな...」
「半分、ユージの受け売りだけどね。俺にも、夢が出来ちまったんだ。そのためなら、何でもできる。そんな目標が」
「付き合うぜ。お前といたら、人生退屈しなさそうだ。それに、俺もあの施設は嫌いだ」
「お前がいたら心強いよ」
街の中央へと近づく。ユージが俺達を待っていた。
「ハシモト、その血...それにそのゴブリン...殺したのか...」
「あぁ。ユージ、開けてくれ」
「中の人間を殺すつもりか?」
「そうだ」
ユージは、無言で俺に確認の視線を送る。
「いい。ユージ、開けてくれ」
「わかった」
そして、街の人間達を閉じ込めておいた、この街一番の屋敷の門が開かれる。大体の人間は屋敷の庭にいた。
庭にいたこの屋敷の主人は、血まみれの俺とハシモトを見て一瞬驚く。しかし、すぐに俺達に取り入ろうとゴマをする。
「もうこの街自慢の牧場にはいかれましたか!あそこに行けば、命の危険なく強くなれます!あなた方もどうですか?かくいう私も、何度かあそこで修業をしましてね!腕にはそこそこ自信があるのです!」
うるさい屋敷の主人に、ハシモトが先生の死体を投げつける。
「うわっ!何をするんです!服が汚れてしまうでしょう!」
屋敷の主人は、服に気を取られているうちにハシモトにナイフで首を切られていた。
「やっぱり、普通は首の骨って固いよな」
そんな感想を漏らしつつ、ハシモトは大人たちを殺していく。
「ユージ、ハシモトが無茶しないように見張っててくれ」
「わかった。子供達と何人かの女性は屋敷の中にいる」
「ありがとう」
俺は屋敷の中へと入った。中には怯える子供達とそれを守る女性達がいた。
「あー、敵意はないんだ...」
何も知らないガキ共には、罪は無い。
あの施設のおかげで悠々自適に暮らしてきたのであろうことを考えると、腹の中にどす黒い感情が渦巻く。けど、これはきっと嫉妬だ。ただ生きてただけのガキには罪自体はない。
罪が無く、俺の計画を邪魔しない奴を殺すのは、俺は好きじゃない。
ふと目をやると、屋敷にはピアノらしき楽器があった。
ちょうどいい、弾いてみるか。
俺はピアノの前に座り、なんとなくその辺に置いてあった楽譜から曲を弾く。
ピアノなんて弾いたことなかったが、上がったレベルによる素早さと器用さの暴力でピアノを弾いていく。
子供たちは、俺の演奏に喜んでくれているようだった。
俺の演奏は、夜まで続いた。
その夜、俺は夢を見た。
真っ白の空間に、声だけが響いていた。
『おめでとうございます。ゴブリンの指導者』
なんだか、機械音のような不思議な声だった。
『ゴブリンの死亡数が再び1000000000を超えました』
ん?ビリオン?
『その特典に、ゴブリンに異世界からの転生者が生まれます』
おい、ビリー様って、もしかしてビリオンの事なのか?
翌日の昼、最初の町にて異世界の記憶を持ったゴブリンが生まれた。




