第30話 帝国ヤウタス方面軍大将テオドール戦
俺とユージとハシモトは急いでテオドールの逃げた方向へと向かっていた。
エルフの大将マルセルを殺した俺は、急激にレベルアップしていた。力も動体視力も前とは比べ物にならない。ただ、それでもやはり魔法は使えなかった。
「くそ、時間を掛け過ぎた!みんな、無茶してなければいいけど」
「うぅ...ごめん。俺がわがまま言ったせいで...」
「わかったわかった。怒ってないって言ってるだろ。もう泣くな!」
ハシモトはだんだんユージの扱いが雑になってきていた。
「そういえば、敵の大将の固有魔法、ユージはわかってるのか?」
「エルフの大将のはわかったけど、帝国の大将の固有魔法はわからなかった」
「エルフの?あの、火を消してた奴か?」
「うん。あれ、真空を作り出す固有魔法だよ」
なるほど、真空か。それで、その範囲を通った火は全て酸素が行き届かずに消えてたのか。真空なら、温度も通さない。あの槍も、もしかしたら風魔法だけでなくて前方に真空を作り出してさらに速度を増していたのかもしれないな。
「ちなみに、帝国の大将は固有魔法を使ってたのか?」
「使ってはいた。あの回転する武器の、片側を火魔法で熱して、反対側に固有魔法を使ってた」
「そうか。...だったらたぶん、その固有魔法は熱を取り除くなんらかの方法だろう。一番考えやすいのは、冷却魔法か?それで、魔法で蒸気機関を再現しているんだろう」
「蒸気機関?なんだそれ?」
「俺の元いた世界にあった、科学の一種だ。熱で水を水蒸気にして、反対側を冷やして水蒸気を水に戻す。その蒸気の流れを回転の力に利用しているんだ」
「ほー、よく考えたもんだなぁ。じゃあ、その冷却を阻止できればあの回転は止まるって事か?」
「たぶんな。それどころか、恐らく内部の圧力が高まりすぎて爆発を起こす。ただ、そんなに都合よく冷却を阻止できればな」
「...あれはあくまで大将の体の一部じゃなくて道具だから、手が届く範囲まで近づけば、俺も魔力を流し込んで魔法の作動を阻止できると思う」
「なるほど、それなら、冷却手段が何であろうと関係ない」
まぁ、もうテオドールは魔力切れを起こしてるから関係ないけどな。
「おい!街が見えて来たぞ!」
やがて、林が開けて港街が見えてくる。この辺一帯で、一番大きな街だ。山に囲まれたこの地域では、この港街が交通の要所なのだろう。エルフ軍がここを目指したのも頷ける。
街に入っていくと、早速ゴブリン達が住民と戦っていた。
「テオドール様を守れ!」
「ゴブリンごとき、俺達でも押し返せる!」
「こいつら、強いけどゴブリンのくせに数が少ねぇぞ!」
イシカワ達は善戦していたが、人間の数の方が多く、なかなか前に進めていなかった。
「イシカワ!すまん!遅れた!」
「ホシノ!ユージ!ハシモト!遅いぞ!大将はあっちに向かった!」
「わかった!ユージは魔力探知を使って大将を追ってくれ!俺とハシモトはここに加勢する!」
「了解!」
ユージは一人戦場を飛び越えて大将が消えた方向へ向かう。
「...ホシノ、俺達も戦う。許可を」
いつの間にか、背後にチバがいた。第八小隊だけは、隊長含めてまだ12匹全員残っている。
「でも、お前らは戦闘訓練なんて...。わかった!戦闘を許可する!」
俺は一瞬躊躇したが、第八小隊の決意は固そうだった。
俺の戦闘許可にチバは頷くと、俺達と一緒に街の住民たちと戦闘を始めた。
「なんだこのゴブリン!速い!」
俺は上がった身体能力を存分に発揮し、片っ端から住民の首を落としていく。
「無理だ!俺達じゃあ抑えきれない!殺される!」
「くそ!ゴブリンのくせに!ゴブリンのくせに!」
ずいぶんと舐められたもんだな。大体、こいつらは世代的にあまりゴブリンと戦った経験もないだろ。
「ホシノ!すまん!俺一人じゃ無理だ!」
その時、ユージがこっちへ撤退してきた。
直後、街中に喧ましいチェーンソーの音が鳴り響く。
「てめぇクソゴブリン!ただで済むと思うな!」
街の建物から、チェーンソーを鳴り響かせながらテオドールが姿を現す。
「魔力が切れたんじゃなかったのか!?」
「町の倉庫から魔石を取り出しやがった!もう魔力は切れない!」
魔石!?そりゃ敵も持ってるか。
「俺とユージが相手をする!それ以外の者は大将に近づきすぎるな!火魔法に巻き込まれるぞ!
ユージは土の壁をたくさん出してくれ!何とかそれを利用して俺が死なずに大将の攻撃を避け続けるから、ユージは土の壁の中に潜んでさっきの作戦を実行!」
「すまん!もうそんなに魔力がない!」
そういえば、ユージも昨夜から戦いっぱなしだった。
「っ!なら、魔石を探してきてくれ!こんだけデカい街だ!まだあるだろ!それで魔力の補充!それまで俺が何とかする!」
「了解!ホシノ、死ぬなよ!」
ユージはそう言い残して街の中央に向かって行った。
「逃げんじゃねぇ!」
ユージを追おうとする大将目掛けてその辺の石を投げつける。
「チッ!雑魚が!」
石をぶつけられたテオドールは激高して俺に向かってくる。
「もう雑魚じゃなくなったんだよ!」
今なら、大将のチェーンソーの攻撃にも距離を取りつつでなんとか反応できた。
「くそ!てめぇが殺しやがったな!俺が勝ったのに、横取りしやがって!」
テオドールは、街中にもかかわらず巨大な火炎を俺目掛けて放つ。
「うおっ!」
なんとか俺は避けたが、その火炎は俺の後ろで戦っていたゴブリンと人間を焼く。
「ぎゃあああぁぁぁ!」
「熱いぃぃ!」
「テオドール様!街中での火魔法の使用は控えてください!火災の原因になります!」
「うるせぇ!弱ぇくせに俺に指図すんな!」
テオドールはそう言い放つと、その人間を焼いた。
「ぎゃあああ!」
なんだあいつ、暴走してんのか?元から偉そうな奴だったけど、度重なるストレスで更にめちゃくちゃな奴になってんな。
「おいクソゴブリン!てめぇは楽しいだろうなあ!全て自分の思惑通りに事が運んでよぉ!」
楽しい?全く楽しくなんてない。一体何匹、俺の仲間が死んだと思ってんだ。こんなことをせずに済むのなら、したくなんて無かった。
「むかつくぜぇぇ!」
テオドールが火炎を辺りにまき散らす。
くそっ!もっと俺に注意を向かせないと、周りに被害が出る!
俺はテオドールとの距離を詰めて戦う。
テオドールは近づいてきた俺に向けて、一発当たれば俺の体が弾け飛ぶチェーンソー攻撃で応戦する。
そのチェーンソーの斬撃をギリギリ避ける
くそ!熱ぃ!
しかし、斬撃は避けてもチェーンソーの熱は避けきれず、熱だけで俺の体が焼ける。
ゆ、ユージ、早く来てくれ...。もう体がもたない...。
「おい!みんな!ホシノを援護しろ!」
「「うおおおおおぉぉ!」」
イシカワがそう叫ぶと、ゴブリン達は大将へと突撃していく。
街の住民は暴走するテオドールを見て我先にと逃げ出していたが、なぜかゴブリン達は逃げていなかった。
「お前ら!何やってんだ!お前らも逃げろ!死ぬぞ!」
「ホシノ!元人間のお前に教えてやる!ゴブリンはなぁ!死を恐れないんだよ!」
テオドールは群がってきたゴブリンへの対処に掛かりっきりになっていた。テオドールの一振りごとに確実に一匹ずつゴブリンが死んでいく。
「かっこつけやがって!死を恐れてないなんて、もう嘘だってとっくに気がついてんだよ!お前ら!命令違反だぞ!」
「うるせぇ!かっこつけてんのはお前だろ!いつも一人でなんとかしようとしやがって!お前こそ自分の命を大事にしろ!俺達は死ぬのが怖くねぇんだ!命令違反も怖くねぇよ!」
俺は仲間が命懸けで作ってくれた隙に、テオドールの足の鎧に空いていた穴にナイフを突き刺す。
「くそ!雑魚どもがぁぁぁぁ!」
業を煮やしたテオドールが呪文の詠唱を始める。まずい!
「お前ら、退避!火魔法が来るぞ!」
俺はたまたま近くにいたゴブリン二匹を抱えて、大将から距離を取る。しかし、ほとんどのゴブリンは逃げきれず、炎に包まれる。
「はぁ...はぁ...くそ...」
テオドールが、足を引きずりながらギリギリのところで火炎を避けて倒れているハシモトに近づく。
まずい!間に合わない!
俺も無理な体勢で二匹抱えて後ろへ跳んだため、素早く行動に移れなかった。
その時、ハシモトの倒れていた地面含めて、周囲に分厚い土の柱が乱立する。
「ユージ!来たか!」
「またこの柱かぁ!」
テオドールがハシモトの乗っている柱をチェーンソーで破壊しようとする。しかし、柱の中ほどまで刃が食い込んだ所で、チェーンソーはその回転を止めてしまう。
「何!なぜだ!」
奴の動きから、恐らく奴はチェーンソーを無理に動かそうと魔力を大量に注いでいるのだろう。しかし、チェーンソーはうんともすんとも言わない。
そのとき、テオドールの後ろから突風が吹いた。
「エルフ!?」
テオドールが風で前のめりになり、後ろを振り向いた。その次の瞬間、チェーンソーの下部が水蒸気の内圧で爆発した。
「ぐああぁぁぁぁぁ!」
まともに爆発を受けたテオドールは、倒れて転げまわる。
その地面がちょうど人一人が寝転がれるくらいの範囲へこんで、奴はそのくぼみにぴったりはまる。はまった次の瞬間、覆いかぶさるように土がテオドールの体を包み込む。包み込むと同時に、何本もの土の槍がその包みを貫いた。
包みが開かれると、そこには絶命したテオドールがいた。
「みんな!生きてるか!」
土の柱から、ユージが出てくる。
「俺は生きてるぞぉ...」
俺は気が抜けて、一気に脱力する。
「ホシノ!良かった...」
「生きてる奴らは返事してくれ!」
俺は何とか力を振り絞って、生存者の確認をする。
「まだ生きてる。だから降ろしてくれー」
柱の上から、ハシモトが返事する。
「「い、生きてます...」」
俺の両脇のゴブリンも返事をする。村のゴブリンと、第三小隊所属の子だった。
「他には!いないのか!?」
俺は声を張り上げる。
「...ここにもいる」
「ホシノー!」
地面から、チバとトモヤが出てくる。
「チバ!トモヤ!よくあの一瞬で地中に潜ったな!」
「...隠れるのは、得意」
「ホシノ、これで生き残ったゴブリンは全員だ」
チバを降ろしたユージが答える。
「そうか、イシカワの奴...最後にかっこつけやがって...」
俺は何体もの黒こげのゴブリン達の死体を見つめる。
「とりあえず、ユージ、火事を消化して住民をどっかに集めといてくれ。俺達はもうしばらく戦えない」
「了解」
ユージは街の火を消しに行った。土の塊を燃えている箇所に覆いかぶせて消化していく。都度、風魔法も使用していた。
ユージ...本当に風魔法が使えるようになったんだな...。自力で魔法を習得するなんてすげぇじゃねぇか...。
「おいホシノ。これからどうすんだよ。もう俺達7匹しかいねぇぞ」
「とりあえず、港を船が侵入出来ないようにしよう。この街は、住民を皆殺しにしてでも占領する。それで時間を稼ごう」
「陸路は?まだ西に行けば人間の町があるぞ?」
「ユージだけで占領に向かってもらおう。ユージはオジジ様と帝国の大将を殺して、昨夜の戦場でも大量の帝国兵を殺してる。相当強いはずだ。それに、探知が使えるから危険を発見しやすい。占領は、抵抗する人間の体を土に埋めて説得すればいい。もう、差し迫った時間制限もないんだし」
「そうだな...そもそも、ゴブリンの数がこんだけ減っちまったら、人間を犯すゴブリンもいねぇ。町の支配はとりあえず表面的でもいいか」
「確かに。俺達は、とりあえずこの街も含む三つの町で数を増やすことに専念しよう。防衛は俺とユージだけである程度できるけど、帝国領に攻め込もうと思ったらどうしても数が必要になってくる」
「こんどは、俺達がオジジ様の役割をする番か...」
「ハシモトなら、子供達に好かれるいい先生になれるよ」
「俺はどっちかというと鬼教官になりたいんだけどな...」
どうだろうなぁ...ハシモトは所々でやさしさが滲み出てるからなぁ。
「俺たち、勝ったんだな...」
ハシモトが、噛みしめる様に言う。
「うん。勝ったんだよ。犠牲も大きかったし、この先も戦いは絶えないと思うけど、今、俺達は生きてる」
「ホシノ...俺達、生きてて良かったなぁ...」
「うん」
俺達がしんみりとしていると、ユージがやってきて言った。
「ホシノ!ハシモト!消火と住民の移動は終わったんだけど、変な建物があるんだ。一緒に来てくれ!」




