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経験値異世界転生  作者: ハイケーグ
序章 ゴブリンの村
3/46

第3話 絶望的な状況

 「全滅...」


 全滅?まだ生まれたばかりなんですけど。

 まだ何もしていないんですけど。

 困っちゃうね。ゴブリンなんかに生まれるんじゃなかったな。


 「でも、私には考えがある。人間と戦争するつもりだ。

 それがたとえ無謀な戦いであったとしても、このまま終わりにしてしまうつもりはない」


 オジジは俺に言った。

 けれどそれは自分自身に向けての鼓舞のようでもあった。


 「それじゃあ、私はもう行くよ。やることがあるんだ。明日もまた来る」


 オジジはそう言い残すと、山の方へ向かって歩いて行った。


 このままいけば全滅?

 全滅を免れるには人間と戦争して女をさらってくるしかない?

 俺はずっとぐるぐる考えていた。


 初めての外なのに、駆け回る気も起きなかった。

 しばらく呆然と立ち尽くした後、洞窟の中にとぼとぼ引き返していった。


 すると、掃除していた兄ちゃんに声をかけられた。


 「おーい、お前どうしたんだ?外に行かないのか?」


 兄ちゃんがこちらに寄ってくる。

 

 「ってホシノか。いやー、兄ちゃんお前がビリー様って知ってめちゃびっくりしたぞ」


 「兄ちゃん。兄ちゃんはこの村に女の人がいないって知ってた?このままだと僕らは全滅するって知ってた?」


 俺は泣きそうになりながら兄ちゃんに聞いてみた。


 「それは...知っていた。今まで黙っててすまなかった」


 兄ちゃんは神妙な顔つきになり、申し訳なさそうに言った。


 「兄ちゃんは嫌じゃないの?どうしようと思ってるの?」


 「兄ちゃんも全滅は嫌だ。かなり嫌だな。

 でも、オジジ様はそれを免れようとなんとかしようとしている。

 だから、兄ちゃんたちはそれを信じて今できることをやってるんだ」


 「それに、俺...」

 

 俺はそこで言葉に詰まった。

 他の種族の人をさらわないといけないなんて嫌だった。

 でも、ゴブリンにとってはそんなの当たり前のことなんじゃないかと思った。

 だってそういう生き物なのだから。


 「どうした?…あぁ、ホシノは元人間だったな。

 人間と戦争するのは嫌か?」


 俺が黙ってしまっていると、兄ちゃんがやさしく質問した。

 悩みとは違うことだったが、そのことも考えるべきだな。


 「それは...」


 戦争なんてしたくない。

 元気な兄弟たち。やさしい兄ちゃん。洞窟の奥には弟たちもいる。

 それらを失うのは嫌だった。

 戦争の相手が人間かどうかはどうでもよかった。


 「したくないよ。死にたくないし、みんなに死んでほしくない」


 俺は本心からそう言った。


 俺は言ってから、兄ちゃんに怒られると思った。

 今の発言は自分勝手だと思った。


 しかし、以外にも兄ちゃんは微笑んで、俺の頭を撫でた。


 「ホシノはやさしい奴だな。

 でもな、だめなんだ。俺たちゴブリンってのは。

 羨ましがらずにはいられないんだ」


 「羨ましい?」


 「ああ。なんでもかんでも、他人を羨ましく思ってしまうんだ。

 もしも、オジジ様が止めていなかったら、村の大人たちは今にも人間を襲撃しているだろう。

 あそこにはきれいな川があり、海があり、豊かな平原がある。そしてメスもいる。

 我々が今欲してやまない物がたくさんある。

 みんな、それらを持っている人間が羨ましくてしょうがないんだ。

 でも攻撃するのをオジジ様が止めている。まだその時ではないらしい」


 「兄ちゃんも人間が羨ましいの?」


 俺はゴブリンの価値観に若干ビビッていた。

 生きることよりも優先することがあるなんて。


 「いや、兄ちゃんは別に人間は羨ましくない」


 「じゃあ、兄ちゃんも戦争はいや?」


 兄ちゃんは首をふってから答えた。

 

 「でも、みんなの暗い顔を見ながらの生活は嫌なんだ。

 俺はみんなには笑顔でいてほしい。

 だから、俺には戦争を止められない」


 「そうなんだ…」


 「でも、ホシノが嫌なら戦争に参加しなくてもいい。

 たぶん村のみんなはホシノがビリー様だから、戦争に参加しないことを怒ると思う。

 でもホシノが望むならこの村から逃げてもいい。

 兄ちゃんが手伝ってやる」


 「ありがとう、兄ちゃん。

 ちょっと自分でも考えてみる」


 兄ちゃんは「わかった」とだけ言い掃除しにもどった。

 俺はなんだか洞窟内は居心地が悪くなったので、外に出ることにした。

 特に行く当てもなくぶらぶらしよう、初めての外なんだ。


 俺は戦争も嫌だが、何より女の人をさらうのが嫌だ。

 母は、おそらく俺が生まれた時から狂っていた。

 だから、ある程度目を逸らすこともできた。

 けど、普通の女の人をさらってきて目の前でだんだんその人が狂っていったら、今の俺は耐えられそうになかった。


 母の死体を思い出す。

 もしかしたら母も元気な夢見る少女だったかもしれない。

 それを俺たちゴブリンが壊したんだ。


 生き残るためとはいえ、奪うための戦争か...。

 

 俺は考えながらゴブリンの村を歩いていた。

 確かにみんな元気がない。そりゃそうか。このままでは俺たちは全滅だもんな。


 よく見てみると、大人のゴブリン達はみんな腹を空かせているようにも見える。

 みんな我慢して生きているんだ。


 池では子ゴブリン達が水遊びをしていた。兄弟たちも混ざっている。

 おそらく彼らは自分たちの置かれている状況を知らないんだろうな。


 こんな気持ちになるなら、俺も知らないままでいれば良かった。

 そしたら俺もあそこに混ざって水遊びをしていたんだろう。

 

 ふと、正面の向こうのほうに人影があるのが見えた。

 池のほとりのひとけが無い所に子ゴブリンがいる。


 何をしているのだろう。


 俺は近くへ歩いていき、様子を観察してみた。

 その子ゴブリンは泣いていた。たまらず俺は声をかける。


 「どうしたの?大丈夫?」


 子ゴブリンがこっちを見た。驚いた様子で、目をこすって涙をぬぐう。

 急いで泣き止んだが、まだ目は潤んでいた。


 「お前には関係ないだろ」


 突き放すように言い放たれる。普段ならこんな言い方をされたら俺もムカッと来るが、さっき泣いている姿を見ていたので俺はやさしくしたい気分だった。


 「まあそう言わずに、理由だけでも聞かせてよ」


 「言ってもどうしようもない」


 「この村の将来の事とか?」


 俺はどうしようもない事と言われて、ついさっきまで自分が悩んでいた事を言ってみる。

 すると、子ゴブリンは驚いたように目を丸くした。どうやら当たっていたようだ。


 「お前、知ってたのかよ。まだこどもなのに」


 「うん、オジジ様が教えてくれた」


 「ふーん、俺は育て係のおじさんが教えてくれたんだ」


 「このままだと全滅だなんて、知らない方が良かったよね」


 俺は自分と似た境遇の奴を見つけて、うれしくて愚痴をこぼす。


 「いや、俺はそうは思わないかな」


 しかし、俺の愚痴は否定されてしまった。


 「なんで?知らないほうが幸せに過ごせたじゃん」


 「そうだけど、それでも俺はちゃんと真実が知りたい」


 なんだよコイツ、さっきまで泣いてたくせに。


 「ふーん、それで、真実を知った結果、君に何ができるの?」


 「それは…何もできないけど」


 「まぁ、そうだよね」


 俺は言外に、(だったら知らないほうが良かったよね)という含みを持たせて返答する。

 しかし、子ゴブリンの意思は固かった。


 「まだ今は何もできないけど、何か出来るように努力できるから、やっぱり俺は真実を知ってよかったよ」 


 俺は何も言い返せなかった。

 そして、子ゴブリンは俺に問いかける。


 「お前は、どうするの?」


 「オジジ様が何か人間に対抗する策を持っているらしいから、とりあえずそれを聞いてみたい。あと、俺『ホシノ』っていう名前なんだ。転生者なんだ、俺」


 「名前?名前って何?」


 「『オジジ様』みたいなかんじで、そのゴブリンを見分けるためのもの」


 「ふーん...。ホシノもこのまま滅亡するのは嫌なんだよな?」


 こいつは俺が転生者でも、特に驚きはしないのかよ。


 「俺は...俺も、このまま死ぬのはもったいないから滅亡は嫌だよ」


 「そっか。じゃあ、仲間だな。俺ら」


 「仲間?」


 俺は自分の耳を疑った。


 「うん、仲間。だって、同じ目標だろ?ありがとな、話を聞いてくれて」


 「あぁ、いや、いいよ」


 「これからよろしくな、ホシノ。もうすぐ日が暮れるから俺もう行くよ。またな!」


 「うん、よろしく、またね」


 勢いに気圧されて仲間になってしまった。

 

 俺はあいつを論破しようと、あいつより優位に立とうとしてたのに感謝されてしまった。


 「なんか悔しいな...」


 なんとなく、あいつには負けたくないと思った。

 とりあえず今日は器の大きさで負けた気がする。


 自分だけ村から逃げるのは無しにしようそう思った。


 俺も帰るか。気がつけば水遊びをしていたゴブリン達もいなくなっていた。

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