第29話 帝国の大将vsエルフの大将
チェーンソーの音に近づいて行くと、予想通り第八小隊が出迎えてくれた。
「ホシノさん!第八小隊のチバ イブキです!この先は危険です!地下を通って下さい!」
第八が掘ったのであろう穴をイブキ君に続いて進んで行く。
「わかった。いつでも大将達の戦いに乱入できる所まで頼む」
「えぇ!?近づきすぎるのは、地中とはいえ危険ですよ!」
「頼む。大将は強い。俺達が殺せるかどうかで話が全く変わってくるんだ」
「わ、わかりました...」
「ユージ、どちらかが負けて止めを刺されそうになったら、お前が阻止してくれ。現状、大将を止められるのはお前しかいない。お前が頼りだ」
「了解。任せてくれ。絶対に失敗しない」
「...よし。なら大丈夫だ」
ユージは少し気負いすぎているように感じた。しかし、それを注意して意気消沈されても困るので注意はしないことにした。今は、カラ元気でもよかった。
「隊長、ホシノさんからもっと近づきたいとのお達しです」
しばらく進んだ後、チバが大将を監視している地点まで到達した。
「チバ、まだ決着は付いてないな?」
「...うん」
「ホシノ、いいよ。ここからは俺だけで行く」
ユージが先へ進もうとする俺を止める。
「...わかった。頼んだ」
「頼まれた」
そう言うと、ユージは一人で穴の先へと進んでいった。
「すまんチバ、ちょっと詰めてくれ」
チバが頭を出している穴から俺も頭を出す。
少し先の燃え盛る林の中で、テオドールと呼ばれていた帝国の大将と、エルフの大将が戦っていた。
テオドールはチェーンソーでエルフの大将に切りかかりつつ、周囲の火炎を操ってエルフの退路を塞ぐ。エルフはチェーンソーの攻撃をかわし、槍を...速い‼
テオドールの攻撃も素早いが、まだ目で追えた。しかし、エルフの攻撃は全く見えなかった。瞬きをする間もなく、槍を構えた次の瞬間には槍がテオドールの鎧に突き刺さっていた。
しかし、後ろからの火炎はもう避けられない。エルフが火炎に包まれる!
そう思ったが、火炎はエルフには届かず、一定の範囲から先に進めないようだった。
どうなってる?
自分の周囲を魔力で覆って、敵が火炎を操れないようにしているのかもしれない。しかし、生えて来た土の槍は防げないように、範囲外で作動した魔法は体に届くはずだ。ならば、火炎がエルフに届かないのはやはりおかしかった。
テオドールは自分に刺さった槍を気にしない様子で、そのままエルフに燃え盛るチェーンソーを振り下ろす。エルフは急いで槍を引き抜き、紙一重でチェーンソーを避けた。エルフの体に近づいたチェーンソーは火が消える。空を切ったチェーンソーは、そのまま木の幹を少し削った。
「...ずっとこの調子。マルセルがチクチク攻撃して、テオドールの攻撃は当たらない」
「マルセルって、エルフの大将か?」
「...そう。部下からそうやって呼ばれてた」
「あの槍、速すぎる。目で追えないけど、何か仕掛けがあるのか?」
「...たぶん風魔法。腕の力と追い風の魔法であの速さを実現してる」
なるほど、あの少し傘のように開いている穂先は風で押し出すためのものか。
槍を引くときは、逆向きに風を送っているのか?
「じゃあ、あの火炎がマルセルまで届かないのも、風魔法か?」
「...最初はそう思ったけど、違う。風は起きてない」
「じゃあ、どうやって火を消してる?」
「...わからない。たぶん固有魔法」
「そうか、ありがとう」
テオドールは血だらけだった。何度も槍で突かれたのだろう。鎧はところどころ穴が開いていた。
しかし、その動きは全く衰えていなかった。マルセルの槍の攻撃を、しっかり急所は外してチェーンソーを振り続ける。
...あのチェーンソー、動力はなんだ?あんなに燃えていて爆発しないから、ガソリンではないと思うけど...。魔法で動かしているのだとしたら、火魔法の応用か?だとしたら、蒸気機関?しかし、冷却機構が見当たらなかった。
何らかの固有魔法だとしたら、動力が何なのか的中させるのはかなり難しいぞ。
「あぁくそ...痛ぇ!ハハハ...楽しぃなぁ!殺し合いってのは!」
テオドールが咆えてチェーンソーで切りかかるも、マルセルは冷静にそれを避ける。
そして、槍を構えた次の瞬間には槍はテオドールの肩を貫いていた。
「い゛っ!...おら゛ぁっ!」
テオドールはチェーンソーを投げる。とっさの事にマルセルは避けきれず、チェーンソーが体に当たる。しかし、鎧に傷をつけただけで、たいしたダメージにはなっていなかった。
マルセルがチェーンソーに気を取られた隙をついて、テオドールはマルセルの鎧に手を当てていた。そのまま手から火魔法を放つ。
「ぐああぁ!」
たまらず、マルセルは槍を引き抜いて距離を取る。
服の炎は距離を取ると同時に消えていた。
体に密着していれば、火も効くのか。体の周囲に、火だけ通さないバリアがあるのか?そんな限定的な固有魔法あるか?
「あー、クソ。やっと当たったぜ。クソエルフが...」
テオドールは肩を押さえていた。いや、少し肩を焼いて止血していた。
「なぜ貴様はそうやってエルフを憎む...」
ひどい火傷を負って、少し憔悴したマルセルが口を開く。
「ははは、やっと喋りやがったなぁ。俺がエルフを憎む理由?んなもん、亜人共は全員嫌ぇだからだよ。今すぐこの世から消してやりてぇぜ。そのためにてめぇは邪魔だぁ。ここで俺に殺されろ」
「人間め...私の正義に誓って、絶対にそんな事はさせん」
マルセルは槍を構える。
「正義はよぉ、戦争に勝った方のことを言うんだよ!」
テオドールはそう言うと、周囲の炎を一斉に操り、全てマルセルに叩き込んだ。マルセルの体は火炎に包まれる。
炎が届かなくても、温度だけで蒸し焼きになる火力だった。
「無駄だ!」
しかし、マルセルは涼しい顔をして火炎全てを振り払う。が、振り払われた火炎の中からマルセルに倒れ掛かる木が現れる。
「何っ!」
その木の炎はマルセルによって消化されていたが、幹はそのままマルセルの体へ倒れる。意識外からの攻撃に、マルセルは全く受け身を取れず、そのまま木の幹に押しつぶされる。
幹は、チェーンソーである程度切られていて、火炎の魔法によって倒れるに至っていた。テオドールは最初からこれを狙っていたのだろう。
「死ねやぁ!」
テオドールは地面を蹴って落ちてたチェーンソーを拾い、マルセル目掛けてチェーンソーを振り下ろす。
「くっそぉぉぉ‼」
なんとかギリギリで木の幹から脱出したマルセルは、槍でその攻撃を受けようとするも、穂先をチェーンソーに切り落とされ、そのまま片腕も吹き飛ばされる。
バランスを崩して尻もちをついたマルセルを両断する攻撃は、しかし地面から生えた土の壁に防がれた。
「...またか!」
地中から現れたユージがテオドールに対峙する。
「!おい、シワシワゴブリンじゃねーじゃねぇか!誰だお前!」
出て来たゴブリンの姿を見て驚いたその隙を、ユージは見逃さなかった。
地面に手を当てて、テオドールの足元から土の槍を生やし続ける。
「くそ!」
テオドールはその槍を避けつつ、チェーンソーで捌く。
ユージはテオドール目掛けて土の槍を生やしながら、近くの木の地面を盛り上げる。バランスを崩した木は、テオドール目掛けて倒れ掛かる。
テオドールはその木をチェーンソーで無理やり叩き切る。
「はぁ...はぁ...くそ...決闘に水を差すんじゃねぇよ...卑怯者共が...」
ずっと無茶な使い方をしてきたのだろう。その木を両断した時、ついにテオドールの持っているチェーンソーの回転が止まる。
「ホシノ!魔力切れだ!」
「わかった!お前ら!行くぞ!勝機だ!」
「「うおおおおお!」」
ゴブリン達が穴から這い出て突撃していく。
「ちぃっ!」
テオドールは、脇の木を蹴り倒す。そこの木にも切れ込みが入っていたんだろう。簡単にこちらに倒れてくる木に行く手を阻まれた隙に、テオドールは戦場を離脱する。
「逃げるぞ!奴はかなりの手負いだ!追え!ただ油断はするな!ハシモトはエルフの大将に止めを刺せ!」
「「「了解!」」」
みんなが逃げたテオドールを追って行く。
「ホシノ!少し、エルフの大将と意思の疎通を図らせてくれ!風魔法が見たい!」
ユージは倒れているマルセルに近づいていく。
「...わかった!俺もこいつには聞きたいことがある!」
一刻も早くテオドールを追う必要があったが、エルフの大将だ。重要な情報を持ってるかもしれない。その意味でも、対話を試みるのは重要だった。
「ゴブリンか...これが、私のしたことの報いか...」
マルセルは近寄ってくる3匹のゴブリンを見て、殺される覚悟をしていた。
そんなマルセルの反応をよそに、ユージは彼の体を起こして、血が止まらない肩の止血をする。
「君たちは...どうして...ゴブリンが...」
マルセルは、自分がゴブリンによって手当てをされていると気づいているようだ。
唖然としているマルセルに見えるように、地面に文字を書いていく。
『願いを叶える道具の事を教えてくれ。お前の言葉は理解できている』
「...そうか、君たちも...。
...わかった。いいだろう。この命、もう長くはない。ついでに君たちににくれてやる。ただ、一つだけ条件がある」
『なんだ?』
「帝国は、亜人を全て消すつもりだ。それを止めてくれ、そして、我が祖国、エルフの国を、守ってくれ。頼む...」
『わかった。帝国は俺達が倒す』
「...ありがとう。...実物を見たことは無いが、エルフの王家に代々伝わるランプがあるらしい。それがなんでも願いを叶えてくれるという噂を聞いたことがある」
願いを叶えるランプ?あのカレーを入れておく奴の事か?
「ユージ、ありがとう!俺の聞きたい事はもう済んだ!」
「わかった!ハシモト!止血変わってくれ!」
「了解!」
ハシモトに肩の止血を変わってもらったユージが、地面に枝で字を書いていく。
『風魔法を見せてくれ』
「風魔法を?いいだろう、よく見ておけ」
マルセルはそう言うと、ゆっくりと呪文を詠唱し始めた。始めはそよそよと流れていた風は、段々と大きくなり、突風となって林全体の火を消した。そして、風が過ぎ去り、はらはらと焼け焦げた木の葉が舞い落ちる。
「...ユージ、これでいいのか?」
「あぁ、理解した。たぶん、これなら俺にも使える」
ユージは、風の過ぎ去っていった方向を見つめていた。俺もその方向を見ると、東の空は少し明るくなってきていて、燃えるように赤い雲がたなびいていた。
「待った!最期に、もう一つだけいいか?」
その時、マルセルが声を発した。
『なんだ』
俺は地面に書きなぐる。
「妹の事も、頼む。偶然出会ったらでいい。もし見つけたら、よろしく頼む」
『わかった』
「ありがとう...すまない...すまん...」
マルセルは覚悟を決めたようだった。殺されやすいよう、鎧を片手で外していく。
「じゃあ、ハシモト、これで...」
俺がハシモトにナイフを手渡そうとしたその時、ユージがハシモトを後ろから羽交い絞めにする。
「ユージ!?何やってんだ!?」
「エルフの大将は、ホシノが殺してくれ!」
ハシモトの喉元にユージの手があり、いつでも魔法が発動できるようになっていた。
「何言ってんだ!?俺は魔法が使えないんだぞ!?ハシモトが強くなった方がいいだろ!」
魔法が使えない俺だ、固有魔法だって発現しないだろう。
「ヘンミが死んだんだ!!」
ユージが一喝する。あまりの迫力に、俺は何も言えなくなる。
「俺じゃあ、仲間を守り切れないんだよ!ホシノまで死んだら、俺もうどうしたらいいかわかんなくなっちまう!頼む!頼むよ...お願いだから、ホシノが殺してくれ...。ホシノは、死なないで...」
ユージは今にも泣き崩れそうだった。
ハシモトの顔を見る。羽交い絞めにされているのに、ハシモトはそんなに緊張していないようだった。俺と目が合うと、観念したようにお前が殺せと顎で指示した。ただ、その顔は愁いを帯びていた。
ハシモトはきっと自分が強くなりたかったのだろう。...すまん、ハシモト。
「わかった、俺が殺す。だから泣くなよ、ユージ。ハシモトも開放しろ」
「うぅ...わかった...」
ハシモトはユージに開放されて、その場にへたり込む。
「...ったく、わざわざ俺を人質に取る必要なかっただろ」
「うぅ...ごめん、ハシモト...」
ユージはついに泣き出してしまった。
「...はぁ、いいよ。別に怒ってない。ホシノ、早くしろ。まだ敵は残ってる」
「わかってる」
俺は、マルセルの首をナイフで切り落とした。マルセルは、約束通り一切抵抗せずに俺に殺された。
夜明けの光が、風に揺れる一輪の花をやさしく照らしていた。




