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経験値異世界転生  作者: ハイケーグ
第1章 元ゴブリン生息地
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第28話 一難去って消耗戦

 ユージに土の蓋をどかしてもらい、周囲を警戒しながら地上に出る。見たところ、すぐ近くには誰もいなかった。


 「大丈夫。出てきていいぞ」


 俺は下のゴブリン達に安全を伝え、一足先に穴を出て周りを散策する。

 地上はもうほとんど燃え尽きていて、周囲には大量に黒こげの木だったものがある。炭と灰にまみれた光景が広がっていた。一部、まだ木が燃えている箇所がいくつか存在した。恐らく火災旋風の直撃を免れたのだろう。

 その内の一つである、小高い丘の上には何人かの帝国兵がいた。彼らはあそこに逃げ、何とか魔法でつむじ風をそらすことに成功したのかもしれない。もしくは、たまたま運が良かっただけかもしれない。

 

 「ホシノ、そこの地中、帝国兵が数人いる」


 穴から這い出て周囲を散策していたユージに帝国兵を見つけたと報告しようとしたら、ユージも帝国兵を見つけたようだった。苦虫を噛み潰したような顔で俺に報告する。


 「帝国兵が地中に!?どうやって!?」


 「...ゴブリンが作った穴に入ったんだと思う」


 それって...先に穴にいたゴブリンは...。


 「...地中にいんなら、こっちのもんだ。ユージ、そいつら殺してくれ」


 「了解」


 ユージは手を地面に当てて呪文を詠唱した。


 「殺した」


 「...中を確認しよう。開けてくれ」


 「了解」


 ユージの魔法によって天井部分がどかされた穴を覗くと、土の槍に胸を貫かれた数名の帝国兵がいた。

 その足元には、何匹かのゴブリンの死体が転がっていた。

 そのうちの一匹は俺がよく知った顔だった。


 「...ニイジマだ。穴に先にいたゴブリンは第四小隊だった。

 ...ユージ、穴を閉じて、埋めてやってくれ」


 「...わかった」


 先ほど発見していた、向こうの方にいた帝国兵がいつの間にか誰かと戦っている。

 よく見ると、戦っているのは第一小隊と第三小隊だった。


 「ユージ!あっちで第一小隊と第三小隊が戦ってる!」

 「ホシノ!向こうでゴブリンが帝国兵に追われてる!」


 俺とユージは、同時に別の戦闘を発見していた。

 

 「わかった!俺はイシカワ達の援護に行く!ユージはそのゴブリンを助けてやってくれ!」


 「了解!今度は無茶すんなよ!」


 ユージは単独で下に向かっていった。ユージには悪いけど、その言いつけは守れないかもしれない。


 「あのまだ燃えている丘の上で友軍が戦闘中だ!援護に行くぞ!仲間を死なせるな!」


 「「了解!」」


 俺は穴から這い出て来たゴブリン達とともに、丘に向かって行った。


 

 そこでは、第一小隊が帝国兵を抑えて、第三小隊が後ろから援護していた。

 前衛の帝国兵12人に対して、第一小隊9匹と第三小隊8匹で戦っていた。


 「こいつらっ!まともに戦え!」


 「良いから黙って手を動かせ!うおっ!うあぁ!」


 足元が不安定になり、バランスを崩した帝国兵にゴブリンが槍で攻撃する。帝国兵の鎧に槍が突き刺さり、帝国兵はそのまま地面に倒れる。


 「おい!無事か!?」


 しかし、倒れた帝国兵に追撃しようとしたゴブリンは、他の帝国兵に邪魔されて引かざるを得ない。


 「何とか!ありがとう!助かった!くそっ!鎧に穴が開いちまった!」


 「こんな足元じゃまともに戦えない!ゴブリンごときに!」


 第一小隊は流石だった。帝国兵相手に無理に攻撃をせず、敵の攻撃を受け流すことを重点に置き、なんとか攻撃をしのいでいた。その隙に、第三小隊が敵の足元を不安手にさせる。そうして帝国兵に隙が出てからのみ、第一小隊は攻撃していた。

 しかし、追撃に出ようとすると必ず他の帝国兵がカバーに入り、決定的な攻撃はなかなか与えられないでいた。


 「イシカワ!ハシモト!無事か!」


 「ホシノ!生きてたか!」


 後衛のハシモトが返事をする。


 「3倍以上の数で戦えって言っただろ!なにしてんだ!死にてぇのか!」


 「敵は手負いだ!今戦わないと、こんな絶好の機会もうないんだよ!周りのエルフは全員死んだ!俺達がやるしかない!」 


 「気持ちはわかるけど!」


 そこに第五小隊5匹と、村のゴブリン5匹が加わり、合計27匹のゴブリンで帝国兵に立ち向かう。


 「ホシノ達が来てくれて助かった!正直、帝国兵12人を第一小隊9匹で抑えるのはかなり無理だったから!」


 「そう思うんだったら引いてくれ!」


 俺達が加わり、ゴブリン側が優勢だった。

 加勢に来たゴブリン達は、村のゴブリンは第一小隊と、第五小隊は第三小隊と共に行動した。俺も鎧の隙間を狙って矢を放つ。


 「くそ!更に増えやがった!くそゴブリンが!」


 「おい!このままじゃジリ貧だぞ!」


 「そう思うんだったら今すぐ目の前のゴブリンを殺せ!何雑魚ゴブリンに手間取ってるんだ!」


 「お前だって殺せてねぇじゃねーか!こんな足元じゃ、まともになんか戦えねぇよ!」


 「せっかく、アレから生き延びたんだ!こんなところでゴブリンなんかに殺されたくない!」


 「くそ!くそ!...先に、あの魔法を使ってるゴブリンを殺そう!いくぞ!」


 「わかった!」


 帝国兵たちは、状況を変えるために前衛をある程度無視して後衛に襲い掛かって来た。

 前衛が何とか抑えているものの、抑えきれずに何人かの帝国兵が後衛に接近する。


 「下がれ!下がりつつ魔法を...」


 いつもなら、訓練なら、この状況は下がりつつ魔法を使えばよかった。そうすれば敵は転倒してくれるはずだった。

 しかし、帝国兵は予想よりも素早かった。鎧を着こんでいるのに、それを感じさせない身のこなしで前衛の攻撃を避けて、盛り上がる土を跳んで飛び越え、そのまま第五小隊と肉薄。ゴブリンの首を落とす。


 「いいから自分の身を守れ!俺があいつを抑える!」


 それを見た俺は弓を捨ててナイフを抜き、いつかのようにみんなを守るため前に出て敵と対峙する。


 帝国兵はすぐに俺目掛けて剣を振り下ろす。

 速い!町にいた奴らとは比べ物にならない!

 俺はその攻撃を避けるのに精いっぱいだった。帝国兵の確実に俺の命を奪う攻撃を、ぎりぎりのところでかわし続ける。

 は、反撃ができない!いつか当たって死ぬ!


 「こいつ!ちょこまかと!」


 俺が頑張って敵の攻撃を避け続けていると、帝国兵の軸足を乗せていた地面がへこむ。さすがにバランスを崩し、帝国兵は転倒する。


 「ホシノ!今だ!」


 ハシモトが魔法で援護してくれたようだ。


 「助かる!」


 俺は倒れた帝国兵にまたがり、鎧の隙間にナイフを突き入れた。ナイフをひねって無理矢理鎧をこじ開け、急所にナイフを差し込む。なんとか殺しきることに成功した。


 「ハシモト!ありがとう!」


 「礼は良いから次だ!」


 もはや前衛も後衛も関係なくなった戦場で、次々と後衛ゴブリン達が帝国兵に殺されていく。

 ゴブリン達は逃げ回っていたが、帝国兵の方が足が速く、追い付かれては殺されていっていた。しかし、夜間で足元が悪いこともあり何人かの帝国兵は転倒していた。その隙を見逃さず、俺とハシモトでしっかりと止めを刺していく。



 「...こいつで最後だ」


 第一小隊と対峙していた最後の帝国兵に、俺は後ろからナイフを突き刺す。うまく鎧の隙間に刃が通り、それが致命傷となった。


 「なんとか勝った...」


 「い、生きてる...」


 「ゴブリンは、何匹残ってる?イシカワ、点呼頼む...」


 「第一小隊、点呼」


 第一小隊の隊員達が自分の名前を言っていく。


 「隊員は6匹生き残った。俺含めて第一小隊は7匹だ。

 第三小隊、点呼

 ...第三小隊は隊員が2匹、ハシモト含めて3匹生存。

 第五小隊、

 ...第五小隊は...1匹だな。お前含めて2匹だ」

 

 「...わかった、ありがとう。あと、村のゴブリンは?生き残った奴はいるか?」


 「い、生きてます」


 「...一匹だけか...。よく生き残った」


 ゴブリンが、たくさん死んじまった。残ったのは12匹か...。

 なんとか戦闘には勝利したものの、あまりにも犠牲が大きい。

 帝国兵が何人も後衛に対応したおかげで、前衛は余裕が出ていて戦闘を有利に進められたようだ。生存者の半数以上が第一小隊だった。

 対して後衛はほとんど全滅だった。第五小隊の隊員も、もうイチローしか残ってない。

 この数じゃあ、兵士がいない町の占領も厳しくなってくる。


 「すまない。俺達第一小隊が、敵を抑えきれなかったばかりに...」


 「イシカワのせいじゃねぇよ。むしろ、よく帝国兵相手にあそこまで戦えたもんだ。誇っていい」


 実際に対峙してみてわかったが、帝国兵はマジで強い。

 その帝国兵と直接()り合って、7匹も生き残ったのは凄いことだと思う。


 「...そういえばホシノ、ユージは?一緒じゃないのか?」


 「あ、ユージは一人で下って行ったんだ。ゴブリンが追われてるって。俺達も、そっちへ向かおう」


 「「了解」」


 俺達は仲間の死体も帝国兵の死体も越えて、先ほどユージが向かった場所へと下っていった。


 

 俺達はそのまま街道に出た。ユージはどこだ?まさか死んでは無いと思うけど。

 遠くから、微かにチェーンソーの音が聞こえる。

 まだ大将が戦っているのだろう。そっちの様子も確認しに行かないと。


 「ホシノ、あそこ」


 ハシモトが何か見つけたようだ。指が刺された方を見ると、ユージが座っていた。その腕にはゴブリンが横たわっている。周囲にも4匹のゴブリンがいた。

 俺達はそちらへと駆け寄っていく。


 「ユージ!どうした?大丈夫なのか?帝国兵は?」


 「あ、ホシノ...」


 「トモヤ!」


 ユージの周囲にいた四匹の内、一匹のゴブリンが返事をした。俺の兄弟のロクダ トモヤだった。


 「どうしたんだ!?他のみんなは?」


 言いつつ、ユージの腕の中のゴブリンを見ると、ヘンミだった。


 「みんな、死んじまった...。俺をかばって、ヘンミさんも...」


 そう言って、トモヤは泣き出してしまった。


 「そ、そんな...」


 ヘンミが、死んだのか。そういえば、俺さっき弓捨てたじゃん。また作ってもらわないといけないのに。死んだのかよ。旅は?二人でするのか?そういえば、まだ弓を使ってみた感想も伝えてないのに。そっか、死んだのか、ヘンミ。


 「俺が、守り切れなかったんだ...」


 ユージが絞り出すような声で言い、嗚咽を漏らす。


 「ユージ...」


 俺は、ユージになんて声をかけていいかわからなかった。

 きっと、ヘンミも覚悟してたはずだよとか言えばいいのだろうか。戦場に出るんだ。いつ死んでもいい覚悟が。

 でも俺は、そんな覚悟できてなかった。死にそうなとき死にたくないって思ったし、死ぬ覚悟なんて全く出来ていなかった。そして、友達が死んでしまう覚悟も出来てなかった。隊員も、兄弟も、友達も、みんな死んでしまった。


 「だ、誰か、何があったか教えてくれ」


 俺は、ただいつものくせで状況を確認する。


 「...わかりました。第六小隊のヘンミ チカシです。

 第六小隊と、第九、第十小隊はたまたま近くにいて、一緒に帝国軍へ攻撃と撤退を繰り返していました。

 そこへ、あの竜巻が来て、第九、第十小隊は飲み込まれました。我々第六小隊はたまたま帝国軍から少し離れていたため、逃げることが出来ました。

 竜巻に巻き込まれずに生き延びたエルフ弓兵部隊と帝国軍は戦闘を続け、第六小隊も作戦を続行しました。

 しかし、善戦したものの弓兵部隊だけではどうにもならず、エルフは全滅しました。

 我々はエルフと激戦を繰り広げてボロボロの帝国軍と戦闘を継続。4匹まで数が減るも、辛くも勝利を収めました。

 その時、8人の帝国兵に追われている第二小隊の彼が見えたので、我々は援護に入り、同時に現れたユージさんが5人の帝国兵を相手取り、我々と彼で3人の帝国兵と戦闘。その時隊長は彼をかばって討ち死にされました」


 「...それで、その帝国兵達は?」


 「もう全員埋めた」


 ユージが恨みがこもった声で答える。


 「そうか...。

 ユージ、戦えるか?それだけ、答えてくれ。チェーンソーの音が聞こえる...。まだ、帝国の大将が残ってる...。俺は行かないと...」


 行かないと、みんなが無駄死にになる。目的を、やり遂げないと...。


 「俺の力じゃ、守れなかったんだ...ヘンミの事を。あんなに近くにいたのに...」


 「帝国兵5人と戦ってたんだろ?しょうがないよ...」


 「しょうがないもんか。俺がオジジ様を殺したんだから、俺がオジジ様の代わりをしなくちゃいけないのに...。オジジ様はあの時、全員守ったのに、俺は仲間を守れないんだよ」


 すんでのところでハシモトを守るオジジ様を思い出す。

 あの時のオジジ様だって帝国の大将を抑えるのに精いっぱいで、俺達は継続して死にかけてた。きっと今回はオジジ様でも全員守るのは無理だっただろう。


 「...悪いけど今は、やさしい声をかけることも、厳しく叱責する事もできない。早く大将のところへ行かないと。ユージも、気持ちの整理がついたら来てくれ」


 「...ごめん。俺も行く。これ以上、仲間を失いたくないよ」


 「...じゃあ、行こう。ユージ、少し探知範囲を広げてくれ。周囲に残ってる帝国兵またはエルフ兵は?」


 「いない。ここにいる俺達と、二人の大将の所にいる第八小隊。それ以外の反応は無いよ。人間もエルフもゴブリンも全員死んでる」


 「そうか...、ありがとう。あとは大将を何とかすれば、作戦完了だ。俺達の勝利は近いぞ!」


 俺は努めて明るく言った。そして、俺達はチェーンソーの音が鳴り響く林へと向かって行った。

 百数十匹いたゴブリンは、気づけば残り30匹になっていた。

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