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経験値異世界転生  作者: ハイケーグ
第1章 元ゴブリン生息地
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第27話 山火事と火魔法と風魔法

 とりあえず、俺達は上を目指した。

 できるだけ戦場全体の様子が知りたい。

 帝国軍は火の魔法が得意というのは本当らしい。すでに、エルフ軍がつけた火よりも帝国軍がつけた火の方が大きく広く燃え広がっていた。


 帝国軍は判断が早かった。帝国本隊は素早く前進、エルフ本隊と正面からぶつかり、エルフ精鋭部隊とエルフ本隊の合流を防いでいた。それにより、エルフ軍は上手く連携出来ていなかった。

 やはり、開戦時点で精鋭と本隊の間に距離が開きすぎていた事が尾を引いていた。

 戦場では、エルフ精鋭部隊が帝国側面部隊と戦い、エルフ本隊と帝国本隊が戦っていた。おそらく反対側の山の帝国部隊は移動中だろう。

 その差があってか、現状はエルフ軍が少しだけ押しているようだった。

 じきに、移動中の帝国部隊が到着するだろう。そうすれば、後は単純な力比べだ。


 「隊長、どうしましょう」


 「もう少し待とう。俺達は、大勢の村にいたゴブリン達と一緒に行動することになる。他の部隊と比べて機動力が著しく低いから、一度突っ込んだら素早い撤退は難しい」


 「わかりました」


 だから、重要な時に兵士を消費するつもりで行動する。

 それは心の中で思うだけにした。



 やがて、移動中だった反対の山の帝国部隊が到着し、帝国本隊と戦っていたエルフ本隊に激突した。しかし、エルフ精鋭部隊も攻撃中だった帝国側面部隊を撃破、帝国本隊の後方へ攻撃を始めていた。

 先ほどまで戦局は互角のように見えたが、現在は帝国軍の方が優勢だった。

 燃える山という戦場が、圧倒的に帝国軍にとって有利だったのだ。

 帝国魔術師部隊が、炎をまるで生きているかのように操り、それが次々とエルフ軍に襲い掛かる。

 エルフ魔術師部隊も、風魔法で何とか襲い来る炎を防いでいるが、防ぎきれなかった火炎が徐々にエルフ軍を焼いて行く。前衛部隊の戦闘も、エルフよりも人間の方が優勢に見えた。


 このままだとまずい。俺は今こそがその時だと思った。


 「移動開始!帝国本隊にいる魔術師部隊を攻撃する!」


 「「うおおおお‼」」


 ユージのいない第五小隊と村のゴブリン数十匹の軍勢は、山の上から帝国本隊に向けて突撃した。


 

 「ゴブリン!またゴブリンだ!」


 「ほっとけ!どうせすぐにまたどっかに行く!今はエルフに集中しろ!」


 帝国兵は俺達がちょっかいをかけたあと、すぐに撤退すると思っているようだ。これは都合がいい。


 「第五小隊は敵から距離を保ちつつ、いつも通り土魔法で動きを鈍らせろ!

 村のゴブリン達は近接戦闘!8年前の恨みを今この場で晴らせ!」


 「「うおおおおお!」」


 激戦地は山火事がひどく、とても蒸し暑く息苦しかった。

 しかし、いくら火の魔法が得意とはいえこんな環境じゃあ帝国軍だってつらいはずだ。

 俺はきついのを我慢して第五小隊の面々と同じ位置から、弓で帝国魔術師部隊を攻撃した。

 魔術師部隊は服の下に何か着込んでいるのだろうか、胴体に矢が刺さっても何食わぬ顔をしていた。頭を狙わないと、致命傷を与えられない。


 「おい!こいつらしつこいぞ!無視しきれない!」


 「弓兵がいる!魔術師を守れ!」


 「地面をでこぼこさせて来るぞ!足元気をつけろ!」


 「くそ!魔術師部隊!こいつらを焼き払ってくれ!防御魔法も使えないはずだ!」


 「了解!いまやる!」


 させるか!

 俺はこちらに向かって呪文を詠唱している魔術師に向けて矢を放つ。

 しかし、その矢は魔術師を守る剣士に全て叩き落とされてしまった。

 動体視力が良すぎる!火事で明るいとはいえ、夜間に飛んでくる矢を全て叩き落すなんて人間業じゃない!さすがに帝国正規兵は、今までの敵とは格が違った。

 いつの間にか、帝国魔術師達は詠唱を終わらせていた。すぐそばの木を燃やしていた炎が、俺達に向かって勢いを増しながら襲い掛かる。

 あ、これやばい。死んだ。

 とっさに伏せる。が、不思議と俺の体はなんともなかった。


 「ホシノ!無事か!」


 「ユージ!」


 顔を上げると、ユージが飛んできた火炎を土の壁で防いでくれていた。


 「無茶しすぎだろ!俺がいなかったら死んでたぞ!」


 「ごめん!それからありがとう!このことは忘れない!」


 俺は感謝を口にしつつ、再度魔術師を狙って矢を放ち続ける。


 「おい!防御魔法使えるじゃねーか!」


 「相手はゴブリンだぞ!?普通使えると思わないだろ!」


 「くそ!一旦エルフへの攻撃に戻る!」

 

 しかし、俺が放った矢は依然全て叩き落されてしまっていた。


 「ユージ!戦局は!?あと、大将達はどこ行った!?」


 「戦局は帝国優勢!山火事が帝国に有利すぎる!エルフ軍は後方の魔術師部隊も弓兵部隊もガンガン焼き殺されてる!エルフ弓兵も帝国魔術師に攻撃してるけど、このままだと先に全滅するのはエルフ弓兵の方だ!

 大将達はエルフ精鋭が帝国本隊と対峙した時に決闘(タイマン)になって、誰も間に入れずそのままどっか行った!」


 「わかった!ならとにかく、俺達はあの帝国魔術師部隊を何とかしないと!もう前衛のゴブリン達の損害もやばい!」


 前衛で戦っていた村のゴブリン達は、ゴブリンにしては善戦しているものの、圧倒的強さを誇る帝国兵によってもうすでに半数が殺されていた。前衛が崩壊したら軍事行動なんて無理だ。各個撃破される。

 一刻も早くユージの力も借りて帝国の魔術師部隊を倒さないと。あいつらさえ倒せば戦局も変わるだろうし、俺達も一時撤退できる。


 「!ホシノ!やばい!やばいのが来る!」


 俺が帝国魔術師を殺す方法を考えていると、ユージが突然騒ぎだす。


 「やばいって何!?もうちょい具体的に頼む!」


 「エルフ軍の魔術師部隊!あいつら、魔法でつむじ風を起こしてる!こっちにぶつけるつもりだ!」


 「この状況で!?つむじ風!?」


 こんなに周囲が激しく燃えてる状況でつむじ風なんか起こしたら、周囲の炎を巻き上げながら成長して、火災旋風になって甚大な被害が出る!

 この状況、俺達はどうやったら生き残れる!?

 俺は、こういう時の対処法を必死に考える。


 「もうかなり大きい!目視でも見える!」


 ユージの指さす方を見ると、既に巨大なつむじ風がエルフ軍後方で発生していた。


 「何だありゃ...」


 「燃える竜巻!?魔術師部隊!アレ防げるか!?」


 「できるわけがない!全員逃げろ!」


 帝国の兵士たちも、アレの存在に気付き始めていた。戦場は更に混乱し、一部の者は勝手に逃げ出し始めていた。

 それは炎を呑み込みながら、徐々にこちらへと向かってきていた。

 でも、普通こういう魔法って自軍には被害が出ないようにするもんじゃないのか?


 「おい!これエルフ軍の前衛部隊まで巻き込まれるぞ!」


 「たぶん、エルフの魔術師ももうほとんどアレを制御できてない!大きすぎるんだ!エルフ前衛どころか、既にエルフの後衛は巻き込まれてる!」


 「ふざけんな!くそ!自然をなめやがって!」


 「ホシノ!撤退しよう!」


 「もう間に合わない!アレの方が速い!

 っ!ユージ!地面!地中に潜ってやり過ごそう!でかい穴を作ってくれ!それしかない!」


 「わかった!」


 ユージは急いで地面を深くへこませる。


 「みんな!早くこっちにこい!この穴に入れ!」


 「「了解ー!」」


 俺はゴブリン達を穴の中に誘導する。ゴブリン達は急いで穴に入っていき、第五小隊は全員穴に退避させた。


 「おい!ゴブリン共が地面に穴を掘ってるぞ!」


 「ずりぃぞ!俺達も中に入れろ!」


 しかし、帝国軍と直接剣を交えている前衛ゴブリンは、そうやすやすと敵に背を向けてこちらに移動できない。


 「隊長!先にこいつらをどうにかしないと、そっちに行けません!」


 多くの前衛ゴブリン達は、俺達が作った穴に入ろうとする帝国兵を抑えるのに精いっぱいで退避できていなかった。

 もうすでに、巨大化したそれはすぐそこまで迫っていて、エルフも帝国兵も見境なく巻き込まれていく。


 「ホシノ!もう限界だ!お前も早く穴に入れ!」


 「隊長!急いでください!」


 「クソ!」


 俺が穴に入ると同時に、ユージが土で穴に蓋をする。

 結局、前衛をしていた村のゴブリン達は数匹しか穴に入れなかった。


 「やばいよ...帝国兵もエルフ兵もガンガン死んでいってる...もうめちゃくちゃだ...」


 地上のごうごうという音は穴の中に大きく響いていた。


 「ユージ、精神的にきつかったら、魔力探知をしなくてもいい」


 「大丈夫、いつ敵が来るかわからない。探知をやめる訳にはいかないよ」


 「悪いな...。ちなみに、他の部隊のゴブリン達は?」

 

 「わからない。探知範囲を広げたら見つかると思うけど、どうする?」


 「...いや、いい。魔力を温存してくれ」


 「わかった」


 穴では、ゴブリン達が身を寄せ合って震えていた。

 穴に入る直前に目にした光景は、今後一生忘れられないだろう。


 「...他の部隊は、大丈夫かな...」


 「敵と距離を取っていたら、巻き込まれてはいないと思うけど...」


 「たぶん、被害無しという訳にはいかないよなぁ...」


 俺は最悪の事態を想定する。へたしたら、俺たち以外全員死んでてもおかしくない。いや、さすがに全員は死んでいないと思う。そう思うけど...。


 「他の部隊も、こうやって穴に隠れていることを祈ろう」


 「...そうだね」


 ごうごうという音は止みそうになく、俺の不安を煽るようだった。


 「エルフ軍も、普段は作ったつむじ風を制御出来てるんだと思う。ただ今回は、火事のせいでつむじ風が大きくなりすぎちゃったんだ。たぶんこうなる可能性には気づいてたけど、それでも戦闘に負けるならと、自爆覚悟で敵を殺そうとしたのかも」


 「そうか...」


 俺は、昼に聞いたエルフの大将の演説を思い出していた。


 「そういえばユージ、なんでエルフがつむじ風を作ってるって気が付いたんだ?」


 「風魔法は、魔力の流れが凄く見やすいんだよ。どういう風に魔法が作動してるのかが凄くわかりやすい。もしかしたら、俺にも使えるかも」


 「そりゃすげぇ。...ユージの魔力探知ってそんなに細かいことまでわかったっけ?」


 「前までは無理だった。魔力探知に慣れたのもあると思うけど、この戦場でもたくさん敵を殺したから。更に強くなったのかも」


 「なるほど。なら、なんとかエルフを捕獲できたらゆっくり風魔法を使わせてみるか。そしたらユージも、もっとわかりやすいんじゃない?」


 「いいね、それ。

 ...そろそろ、つむじ風も止んだと思う。

 でもまだ周囲には敵が残ってる、出るときは気を付けて」


 そういえば、いつの間にかあの耳障りなごうごうという音は止んでいた。

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