第26話 エルフ軍vs帝国軍vsゴブリン、戦闘開始
「...だから、基本的にエルフ兵と戦うときは一人につき3匹以上で戦うようにしてくれ。恐らく帝国兵も同じくらいの強さだと思うから、同じように相対するときは敵一人につき3匹以上であたってくれ」
俺とユージは、エルフ軍を追っているゴブリン軍に戻って、小隊長達と簡易的な会議をしていた。第八小隊は依然エルフ軍を監視しているため、チバはこの会議にはいない。
「兵一人につき3匹以上って、敵はそんなに都合よく個別に行動してくれるのか?」
ハシモトが俺の話への疑問を言う。
「もちろんしてくれないと思う。あくまで今のは、俺達だけで帝国兵やエルフに勝とうとした時の想定だ。つまり、基本俺達は敵と戦えない。戦っても普通に負けるだけだ。やっぱり、帝国とエルフがお互いに消耗してくれないと絶対に勝てない」
「はぁ、結局それか...。ま、わかってた事だけどな...」
「俺達の勝利条件は、戦局を互角にして共倒れさせる事だ」
「その方法は?」
「戦闘が始まったら小隊ごとに出来るだけ広範囲に展開してくれ。
勝ってる方に後方もしくは側面から攻撃して混乱させる。攻撃した後、敵に対応される前に即座に撤退。それを繰り返す。もし敵を撃破できそうなら撃破してくれ。攻撃を仕掛けるのは、可能な限り戦闘中の敵部隊にしてくれ。それが一番効果的で、なおかつ安全に撤退できる。
どちらにいつ攻撃を仕掛けるか。いつ撤退するか。どこに移動するか。すべて各自の判断に任せる」
つまり、ヒット&アウェイで敵部隊の行動を阻害することが目的の戦闘だ。少数で多数に損害を与えるのはこの方法に限る。それでなんとか戦局をコントロールしたい。
「なんて行き当たりばったりな、現場任せの作戦だよ...」
「そのためにこんだけ部隊を作って小隊長を育ててきた。俺はみんなの判断を信用している」
「いくらなんでも、どっちが勝っているのかの判断は現場じゃあ無理だ」
うーん、確かに。難しいかも。
...さすがに机上論過ぎるか?
「...それなら、帝国軍にのみ攻撃してくれ。エルフ軍には攻撃するな。戦局が完全にエルフ優勢になったと思ったら、それ以上は戦う必要がないから撤退しよう」
「...まぁ、帝国軍が勝利するよりはその方がましか。わかった」
「作戦は以上。エルフ軍の予測では、今夜戦闘になるらしい。質問や意見は?」
「トガワを置いてった町近くのゴブリン達は、誰が指揮するんだ?」
イシカワが質問する。
「俺が指揮する。...あー、兵員を増やしたい部隊があったら言ってくれ。ただ、あまり訓練が出来てないから、行動するときに足を引っ張る可能性はある」
「なら、第三小隊に10匹ほど頼む」「第九にもくれ」
「わかった。勝手に選んで持ってってくれ。他には?
...よし、それでは解散」
小隊長は、それぞれの部隊のところに戻って行った。
この戦闘でエルフが勝った場合の事も考えないと...。
エルフ軍は港町を占領した後、どう行動する?
俺はこの戦闘でエルフが勝利した場合の作戦を考え始めた。
「おい、ホシノ...」
「あぁ、これは...」
その夜、進軍していたエルフ軍は、山間の道に差し掛かった。
道の両脇に山がある地形で、そこそこ長く、数キロは山に挟まれたまま進む事になるだろう。
あきらかに、帝国軍はこの道で待ち伏せをしている。
「これ、俺達の位置も危なくないか?」
ユージはエルフ軍の後方にいる俺達も帝国の奇襲に巻き込まれる可能性を示した。
「いや、たぶん帝国軍はエルフ軍を完全に包囲はしないと思う。
待ち伏せの基本は、敵の退路を残す事なんだ。で、逃げる敵に追撃する。
ましてやエルフ軍はいま補給を受けられない状態だから、帝国軍はとにかくここを突破されなければいつかは勝てる。その状況でわざわざ敵の後方にまで兵を回り込ませはしない...と、思う」
「そ、そうか...その、エルフ軍は補給を受けられないっての、帝国は知ってるのか?」
「多分...あんだけ派手に砂漠にしたし、気づいてるとは思う...」
「まぁ、それもそうか...」
「...もうすでにやってると思うけど、探知になんか引っかかったら教えてくれ。ただ、魔力を使い過ぎないよう頼む」
「わかってる。常に警戒してる」
魔力探知、便利だなぁ。ユージの魔法が俺達の命綱だ。今はこいつが神様に見える。
にしてもこの状況、エルフ軍は先に山に登って尾根の安全を確保しつつ、山を索敵しながら進むのが良いんだろうけど、山を登る体力は今のエルフ軍にはなさそうだ。
加えて夜間戦闘。これはなかなかエルフ軍に厳しくなりそうだな...。
「ホシノ、これエルフ軍はどうすると思う?」
「わからん。とにかく正面に戦力を集中して、無理やり正面突破するくらいしか思いつかん」
「そうか...」
その時、エルフ軍は片方の山に火を点けだした。
なるほど、山火事にして帝国軍を山から追い出す作戦か。うまく行けば焼き殺せる。
でも、そんなにうまく木が燃えてくれるか?
今は春だから、頑張れば可能だとは思うが...。
エルフ軍は、恐らく風魔法を使っているのだろう。器用に自軍には火が来ないように調整しつつ、片側の山を延焼させていく。
しかし、あまりに時間が掛かりすぎる。風魔法を駆使して温度を上げ、なんとか燃やそうとはしているものの、あまり効果的に生木は燃えてくれなかった。このペースだと、片側に集中したとしても安全を確保するくらい山を燃やすのに半日以上かかる。
「とりあえず、見守るしかないな」
山に火を点けつつ炎を壁にして少しずつ前進していくエルフ軍。から、俺達はさらに距離を取って後をつけた。
エルフ軍が山間の道をそこそこ進んだ時、場に変化が起こった。
エルフ軍よりも前方、燃やしている山の反対側の山のすそで突然火の手が上がった。
帝国軍の攻撃か?
しかし、火はその辺り一帯を燃やすだけで、エルフ軍に攻撃しようという意思は感じられなかった。
その火を見たエルフ軍は燃えている地点目指して一直線に進軍していった。
まずい、何かが起きている。
「とりあえず、エルフ軍を追うぞ!」
俺達も山に入り、山すそで燃えている地点を目指す。
「第八の誰かがこっちに来てる。そこ」
山に入り、少し進んだ所でユージが前方の岩陰を指さした。
「助かる。今は少しでも情報が欲しい」
俺はそこへ近づいていく。
「ホシノさん!第八小隊のチバ ホタルです!エルフ軍と帝国軍が戦闘を開始しました!」
「あの火の手が上がってるところか?」
「そうです。あれは帝国軍が魔法で起こした火です。エルフ軍は大将と数名の精鋭部隊のみを本隊とは別行動で山に侵入させました。先ほど、その精鋭部隊が待機中の帝国兵を発見。戦闘が開始されました」
なるほど、軍全体では山に入る体力がないから、精鋭のみで山を進み、本隊は陽動として山を燃やして敵の注意を引いていたのか。
おそらく、帝国軍はあの近辺にキルゾーンを敷いていたんだろう。
今火の手が上がってる場所の他にも、エルフが燃やしていた側の山にも兵を配置していて、道の正面奥に突破されないよう本隊を布陣させ、三方からエルフ軍を攻撃する予定だったんだろう。
しかし、山に潜伏している側面攻撃部隊をエルフ精鋭部隊に発見され戦闘開始。それを合図にエルフ軍本隊も精鋭部隊と合わせて側面部隊を攻撃し、包囲撃滅する作戦か。
恐らくエルフ軍はそのまま一気に側面から帝国本隊を突破するつもりだろう。
「ホシノ、これってエルフが優勢じゃないか?」
「いや、火の手が上がった地点とエルフ軍本隊の間にはかなり距離があった。
帝国軍の対応が良かったら、まだまだどうなるかわからない。
作戦は変更なし!俺達も作戦開始だ!各隊、各々の判断で行動開始!」
「「「了解!」」」
「ホタル君、第八小隊は引き続き情報収集を頼む」
「了解」
「ユージは単独行動!戦場全体の支援が任務だ!魔力探知を使って、危険な状況の部隊を見つけて対応してくれ!」
「了解!」
そうして、各小隊が戦場に向かって行き、この場にはユージ以外の第五小隊と、村にいたゴブリン数十匹が残った。こいつらは直接俺が戦場で指揮する。
「よし、俺達も行こう!」
「「了解!」」
俺は、再度戦場に向かって歩き出した。




