第24話 制圧
翌朝、俺は町の民家で目が覚めた。
そういえば、俺は昨日あれから、高台の荷物を運ぶのを手伝って疲れて、そのままその辺の民家で眠ったんだった。
この世界に来て、初めてベッドで眠った。柔らかいところで寝るのはいいなぁ。
俺は名残惜しくも民家を出て、広場に向かった。
広場では、夜通し宴会を行っていたゴブリン達が地べたで眠りこけていた。
全く、こいつらは。すぐに俺達もエルフ軍を追って出発するってのに...。
良い匂いがしたので、そっちの方に行くと、第七小隊と兄ちゃん達が飯を作っていた。
「ホシノ、おはよう」
「兄ちゃん、おはよう。うまそー」
「ホシノー、ちょうどいいところに。鳥獲ってきてくれー。この町、調理器具は揃ってるのに食料がねぇ!」
「へいへい、沢山獲ってきますよ」
町を出て、鳥を数羽仕留める。
「ほいよ」
「ありがとう!助かる!」
すぐさま第七小隊の隊員達が、俺が渡した鳥の羽を器用にむしっていく。
「羽、使わない分は渡してくれ。矢に使うから」
「りょーかい」
「それで、子供達と、犯さなかった女達はどこにいる?」
「向こうの大きめの屋敷。何匹かが見張りについてる」
「わかった、ありがとう」
俺は、トガワに言われた屋敷へと向かった。
建物の中では、大きな部屋に数十人の子供達と、女が十人、寄り添って固まっていた。
女は十人しか残らなかったかぁ。
俺が入ってくると、驚いて警戒していた。
何人かは眠っていたが、ほとんどが眠れずにいたようだ。
「ホシノ、どうした?」
「ちょっと様子を見に来た。見張りってヘンミだったのか」
「ま、成り行きでな」
「それで意思の疎通は出来た?」
ヘンミは無言で首を横に振る。
「そっか...まぁ、まだ初日だししゃーないな」
人間とも意思の疎通が可能な事は、オジジ様がすでに証明済みだからな。
こればっかりは時間をかけるしかない。
「とりあえず、布団でも持ってくるよ」
「ありがとう、助かるよ」
そのとき、子供の一人が立ち上がって言った。
「おしっこに行きたい...」
「今は我慢しなさい」
女の人がそれをたしなめる。
「でも...」
ガキは、もう我慢が出来なさそうだった。
「ヘンミ、この辺に便所は?」
「ま、川しかないだろうな」
「連れてくかぁ、人間達はもっと川に近い所に移した方がいいな」
「そうだな。あとで伝えておく」
俺は小便に行きたいガキの方へ寄るが、手前の女性はそれを警戒している。
このまま無理に手を引いて連れて行っても、ガキは怯えて途中で漏らしてしまいそうだった。
そこで俺は懐から梨を取り出して割り、半分ガキに渡す。
ガキは警戒していたが、俺が半分の梨を食べたことでちびちびと梨を食べだした。
それを見ていた女性にも梨を3個渡し、何とか警戒を緩めてもらう。
女性が梨に気を取られているうちに、俺はさっとガキの手を取って川に連れていく。
ガキは、想像と違い静かに手を引かれていた。
ガキを屋敷に送り届けて、そのへんの民家から布団を何枚か屋敷に運んだ辺りで朝食が出来上がった。
ゴブリンみんなで広場に集まって飯を食う。みんな実にいきいきとしていた。
人間達と、その見張りには兄ちゃんが飯を持って行った。
「もう、俺達がいなくても25匹でこの町は大丈夫そう?」
町を見て回っていたユージに聞く。
「たぶん、大丈夫だと思う。もう死体も処理しといたし、思ったよりも捕まえた人間の数が少ない。この人数なら余裕もあるよ」
ユージは汁物をすすりながら答えた。
「そっか、なら、俺達も早いとこ出発しよう。エルフ軍に追い付かないと」
俺は急いで飯をかきこんで、ゴブリンのみんなにもう出発する旨を告げる。
屋敷へと向かい、ヘンミにも伝えた。
「ホシノ、もう行くのか」
横にいた兄ちゃんはやっぱりさみしそうだった。
「うん、行かないと」
「...わかった。ごめんな、引き留めるような言い方して。
ホシノの言うとおり、この人間達とも仲良くなれるよう頑張るよ。だから、ホシノも兄ちゃんとの約束、守ってくれ」
「わかってる。危ないと思ったら撤退する。這いつくばってでも、絶対に帰って来る」
「...うん!ならよし!行ってこい!」
そうして、兄ちゃんは笑顔で送り出してくれた。
第二と第八を除く約80匹のゴブリン軍は、兄ちゃん達を置いて町を後にした。
エルフ軍を追って道沿いに西へ向かう。道中、いくつか人間の村があったが、どこもさびれていた。
丸一日歩いて、日が暮れたので休もうとしたところで第二小隊が前方から帰って来た。
「ロクダ、お帰り。どうした?」
「情報を得た。エルフ軍は、ここから4日ほど歩いた先にある港町を目指しているそうだ」
「でかした!ありがとう。今、エルフ軍は?」
「一日ぐらい歩いた先にある、そこそこの大きさの町にいる。そこで物資を集めている」
「わかった。これからは第二小隊も俺達と一緒に行軍してくれ。とりあえず、今日はお疲れ様」
「了解」
エルフ軍の行軍速度が想定より早いな。もっと急がないと。
翌日、朝一で移動を開始する。
いくつかの村を越えて、昼前にはロクダの言っていた町が見えて来た。
「かなり急いだな、みんなへとへとだ」
町に近づくと、第八小隊のゴブリンがやって来た。
「ホシノさん、第八小隊のチバ イオリです。あの町にはまだエルフがいます。気を付けてください」
「そうか、ありがとう。じゃあ、とりあえずその辺の山に入って食料でも調達しに行くか」
俺達は、山の中に入って行った。
山を進んで行く、いい感じに開けた場所でもあれば、そこを仮の拠点にしたいんだけど...。
「ホシノ、待て!...誰かいる」
山を進んでいる最中、ユージが突然立ち止まる。
「誰かって、探知したのか?」
「うん。あっちの方」
ユージは山の奥を指さす。
「わかった、俺とユージだけで偵察に行こう。みんなここで待っててくれ」
俺とユージは、身を低くしてさらに山の奥へと歩んでいった。
「...結構数が多いよ。数十はいる」
何だ?散策しているエルフ軍?それとも奇襲を仕掛けようとしている帝国軍か?ユージの反応的に、大将レベルの存在はいなさそうだが。
「近い。この向こう」
林から顔を出す。
そこにはゴブリンの村があった。
「いやー、まさか本当に俺たち以外にもゴブリンがいたとは」
「遠路はるばるよく来てくれた。俺も、もうみんな死んじまったと思ってたよ」
みんなを引き連れて村にお邪魔した。なんだか気のいいゴブリン達っぽくて安心した。
みんなを村で休憩させて、俺はユージと村で一番偉いであろうゴブリンに会いに行っていた。
「いったいどうしたんだよ?こんなに大勢で」
「今、そこの町にエルフがいるだろ?あいつらを追ってきたんだ」
そのゴブリンに経緯を説明する。
「へぇ、あんたらあっちから来たのか。俺らも、元はあっちの方に住んでたんだよ」
村のゴブリンは、東を指さす。
「そうなのか?じゃあ、オジジ様って知ってるか?俺達はそのゴブリンに率いられてたんだ」
「いや、知らんなぁ。俺らは元々、とても魔法に長けたゴブリンと一緒に隠れ住んでたんだよ」
「それ!それたぶんオジジ様だよ!なんだ、元は一緒の村出身か」
「お前ら、あの村に残った奴らか!?そうか、あれからもうそんなに経ったのか...」
「なんでこっちに移り住んだんだ?」
てゆうか、オジジ様も知ってたんなら教えてくれたら良いのに。
「それはなぁ、あのクソビリーのせいなんだ」
え?ビリーって、21年前に戦った英雄じゃなかったっけ?
「ビリーって、もう21年前に死んだはずじゃ」
「いんや、生まれたんだよ。8年前にも、前世の記憶を持ったゴブリンがね」
8年前?なんか最近もその単語をどっかで聞いたような...。
「それで、そのビリーがなかなかに人気があったから厄介だったんだ。
ゴブリン達の支持を得て、俺達ゴブリンをそそのかした。いい気になった俺達は、村の長の制止も聞かずに、村の全員で町を襲って帝国の奴らに返り討ち。ビリーはその時死んだ。制止を振り切って村を出た俺らは帰るに帰れず、ここまで流れ着いたって訳」
あ、そうだ、ゴブリンが帝国軍に特攻したって大将が言ってたな。それがこいつらか。
なるほど、だから、俺達の村にはあの時9才以上のゴブリンがいなかったのか。
当時なら5年前だから、3才以下のゴブリン達とオジジ様をみんな置いてってこいつらは村を出たのか。
オジジ様も、こいつらの事は死んだと思っていたから話さなかったのかな。
「なるほど、それはなかなかに壮絶な経験を...」
俺は内心、オジジ様を置いて行ったこいつらが嫌いになっていた。
しかし、その感情をかみ殺して友好的に接した。
「いや、しかしよくあそこから持ち直したな、長...今はオジジ様か?
俺達が村を出た時はまだまだ小さいゴブリン達数十匹だけだったのに。たいしたもんだ」
なんだその言い方。お前らのせいだろ。
「それで、お前らはあの町のエルフ達を倒そうってのかい?」
「いや、俺達はあいつらを追跡して、その先の帝国軍を倒そうと思ってる。
それで、この村のゴブリン達にも力を貸して欲しい」
「帝国軍と!?悪いことは言わない。やめときな。ありゃ勝てる相手じゃない」
「でも、やらないといけないんだ。あいつらは、人間以外をこの世界から消すつもりだ」
「そんなの、他の奴らに任せておけばいい。とにかく、うちの村からは戦力を出さん。そんなこと、8年前の二の舞だ」
なんだこいつ。ひよりやがって。
「そこをなんとか。せめて希望者だけでも」
「無理だ。俺達は今の生活で満足しているんだ」
こりゃ、正攻法は無理か...。
まぁしょうがない。彼らの生活を無理に危険にさらすのは良くないよな。
ここで平和に暮らすのも一つの選択だ。
「...俺達は、エルフ軍がいなくなったらあの町を占領する予定なんだ。
せめてそれだけでも手伝ってもらっていいか?」
「ふむ。それならいいだろう」
「そして出来るだけ子供達を殺さずに捕らえてもらって、その子達を育てて欲しい」
「...は?何言ってんだ?そんなの従うわけないだろ。住民は全員皆殺し。女は捕まえて全員犯す。当たり前だろ?」
「それだと、永遠にゴブリンは嫌われた存在のままじゃないか。俺達ゴブリンは、もっと他の種族に歩み寄るべきだ」
「知らねぇよそんなこと。お前らが勝手にやってろ。俺らは俺らのやりたいようにやる」
...そうか。
「...そうなると、お前らは俺達の計画の邪魔になるなぁ...」
「ホシノ!」
俺が小声で殺意を露にしだすと、横で聞いていたユージにたしなめられる。
ユージはもう少し対話をするべきだと思っているようだ。
「ホシノ?あのビリーも、確か名前を持っていたな。
...お前、もしかしてビリーか?」
「あぁ、そうだよ」
しかし、その言葉によって俺がビリーであることが村の長に伝わってしまう。
ユージはバツが悪そうな顔をしていた。
仕方ない。いつかはバレてた事だ。
「なるほどなぁ。通りでおかしなことばかり言いやがると思ってたんだ。
お前ら!こいつの言う事は聞かないほうが良いぞ!こいつらビリーは破滅をもたらす!」
それを聞いて、ユージの機嫌が明らかに悪くなる。
そっちでも喧嘩するとややこしいことになるからやめてくれ。
「お前、黙って聞いていれ...」
「わかったわかった!お前、この村で一番強くて偉い奴か?」
ユージを手で制して、最後に確認する。
「あぁ、そうだよ。俺がみんなを守ってんだ」
「わかった」
俺は村の長の顔を見て、はっきりと告げる。
「お前はただの臆病者だ。間違ったことをした後に、自分の非を認められず、謝る事も出来ない。何かのせいにしていないと、自分が悪いことになるから、常に何かを攻撃している。ただの意気地なしだよ」
俺が言い終わるや否や、拳がさっきまで俺の顔が合った場所をかすめる。
いきなり殴りかかって来るなよ。
「言うじゃねぇか!クソビリー!おめぇらの事は気に入らねぇ!ぶっ殺してやる!」
「いいぜ、表出ろよ。そこで殺ろう」
そう言って、村長を先に広場に向かわせる。
「ユージ、これを村の指導者を決める決闘ってことにして、この村のみんなに知らせてくれ」
「全く...お前は血の気が多いな」
「俺が言わなかったらユージが言ってただろ」
「まぁね」
観客が集まる時間を稼ぐため、できるだけゆっくり村の広場へと歩んでいく。
その時間に決闘の話はユージが広めてくれていて、広場には観客が大勢集まっていた。
「クソビリー!おせぇぞ!ビビったか?土下座すんなら見逃してやってもいいぜ?」
「ビビったのはお前だろ。『やっぱりあなたの言うとおり私は臆病者でした』って言えるなら見逃してやってもいい」
「てめぇ!」
「待った待った、先に規則を確認してからだ」
いつの間にかハシモトがレフェリーをしていた。なんでこいつこんなにノリノリなんだよ。
「喋ってねぇでさっさとやれ!」「ビリーをぶっ殺せ!」「ホシノ!負けんなー!」
観客は待ちきれないようで、俺達を煽る。
「俺達のホシノとこの村の村長!どちらか勝った方がここにいるゴブリン達全員の王だ!それでいいな?」
「あぁ、俺はそれでいいぜ。お前は?ビビったか?」
「っ!俺もそれでいい!」
「武器、魔法の使用。卑怯な手段。何でもあり!
ただ、みんなが見てる前でだせぇマネはすんなよ?決着はどちらかが死ぬまで!
それじゃあ、お互い見合って...用意...始め!」
開始の合図とともに、俺は一定の距離を取って相手を観察する。
村長は棍棒を手に持っていた。どこまでもステレオタイプな奴め。
何やらぶつぶつ言っていた村長が一気に距離を詰めて、俺目掛けて棍棒を振り下ろす。と、同時に足で魔法を作動させたようだ。俺の足元がへこんで俺はバランスを崩す。
手を使わずに魔法を使用するとは。さすがに、そこそこの実力はあるな。
俺はバランスを崩した勢いで体をかがめて攻撃を避ける。追撃の、顎を狙った盛り上がる土の柱を飛び越えて、そのまま敵にタックルして組み付く。
俺はマウントポジションのまま村長の顔面をぼこぼこに殴りまくる。
抵抗が弱くなってきた辺りで、腰からナイフを取り出して村長の首を切り裂く。
ひとしきり血が流れた後、村長は一切動かなくなる。
「他に、俺がお前らの指導者で文句ある奴」
俺は観客に向けて言い放つ。
名乗りを上げる者は誰もいなかった。
「勝者、ホシノー!村のゴブリン達を仲間に引き入れた!」
ハシモトが宣言した時、エルフ軍が町を出発したとチバ イオリが報告に来た。
夜、町を占領した。村のゴブリン達にもしっかり働いてもらった。
もちろん、女、子供は生かしておいた。
今夜は俺もヘンミ、ユージと一緒に、捕らえた人達の見張りをしていた。
「にしても『他に、俺がお前らの指導者で文句ある奴』ねぇ...格好いい~!ついつい俺が対抗して名乗りを上げたくなっちまったよ」
ユージに昼間の事をからかわれる。
「もうやめてくれ~。ユージが名乗り上げたら俺がすぐさま降参する。それで許してぇ」
「いやいや、マジで格好よかったって、ホシノ。...ヘンミハーレム、来るか?」
「行かねーよ!」
当分、このことをみんなにからかわれそうだ。
やっぱり、短気は損気だったなぁ...。




