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経験値異世界転生  作者: ハイケーグ
第1章 元ゴブリン生息地
23/46

第23話 侵攻

残酷な描写あり

 とりあえず、エルフ軍が町を出るまでは俺達もする事ないんだよな。

 まぁ、今日中にもうあの町は出発すると思ってるんだけど。

 時間が味方してくれるのは帝国軍だからな。


 「ユージ、ユージはなんか準備とかあったりするか?」


 会議の終わった後、ユージに声をかける。


 「いや、特にこれといってないよ」


 「なら、第八と一緒にエルフ軍の偵察に行ってもらっていいか?

 そんで、町の占領の時には第五小隊に帰ってきてくれ」


 「わかった。いいよ。なんか知りたい事とかある?」


 「一番知りたいのは、エルフ軍の今後の動向だな。

 恐らく、一番近い港を目指すと思うんだけど、それがどれぐらいの距離にあるのか知りたい。

 ただ、エルフ軍に俺達の存在が気づかれないようにやってくれ」


 「わかった。...けど、橋を破壊した時、何匹か死んだよね?それに土魔法もたくさん使ってるし。もうエルフはこの辺にゴブリンがいるって気が付いているんじゃない?」


 「確かに。...でも、やっぱり気づかれないようにはしといたほうが良いと思う」


 「ま、それはそうだな。エルフ軍の目標地点ね。行ってくる」


 「うん。いってらー」


 俺はユージを見送る。

 さて、じゃあ俺は小隊のみんなの様子を見ないと。昨日は隊員が死んだばかりなのに、放置しちゃったからな。小隊長としてダメダメだな。


 「ホシノー、まだいるかー」


 俺が席を立とうとした時、一度どっかに行ってたヘンミが会議の場に帰って来た。


 「いるよー。どしたん?」


 「これ、お頭就任おめでとう」


 そう言って、ヘンミは弓を差し出した。

 ヘンミは少し照れ臭そうだった。


 「え!?くれんの!?」


 「うん、あげる。俺は弓使えないし」


 それはヘンミの手作りの弓だろう。こいつは手先が器用だからな。俺が作る物よりも、丈夫でしっかりしていた。...これ、何日で作ったんだ?こいつ工作の才能があるな。


 「くそ嬉しいし、助かるよ。今ちょうど弓が無かったんだ。ありがとう!」


 「そりゃ良かった。大事にしろよ」


 「するする!でも、戦場で邪魔になったらまた捨てるかも!ごめん!」


 俺は冗談めかして言ってるが、半分本気だった。


 「っておい!...まぁしゃーねぇわ。そしたら、また作ってやんよ」


 なんだこいつ。いい奴すぎだろ。


 「ヘンミ...もし、誰もヘンミハーレムに来てくれなかったら、俺がいるからな」


 「いらねぇよ!ゴブリンなんて!キモイ事言うな!」


 「ひどい!いつか絶対に認めさせてやるんだから...!」


 「変な決意を抱くな...。

 ま、ホシノが元気そうで良かった。

 ユージはどうだ?オジジ様に止め刺したんだろ。大丈夫なのか?」


 「割と大丈夫じゃなかったけど、夢の事を思い出したら勝手に元気になったよ」


 「夢って、科学ってやつか?」


 「そうそれ。全く、すげーよあいつは。勝手に自分で立ち直っちまうんだから」


 「そっか...。なら良かった。ホシノも、ユージに頼ってばっかじゃなくて、ちゃんと自分で起きろよ」


 「自分で起きとるわ!」


 ヘンミはケタケタ笑いつつ踵を返した。


 「じゃあ俺、そろそろ行くわ」


 「あぁ、弓、マジでありがとう。

 ...あ、ごめん!それと、縄を作っといてくれ。占領で必要になる」


 「おう!了解。沢山作っとくー」


 ヘンミは手をひらひらさせて返事する。

 助かるなぁ。


 

 昼前、俺は第五小隊のみんなのところで、前回の課題だった近接戦闘の訓練をしていた。

 すると、ユージが高台に帰って来た。


 「エルフ軍が町を出た。第八はそのまま、エルフ軍について行ってる」


 やっぱりかなり早いな。残りの備蓄はどれぐらいなんだろうか。


 「ありがとう。じゃあ、俺らは深夜にあの町を奇襲しよう」


 「了解。エルフの目的地はわからなかったけど、魔力探知で凄い強い奴が敵軍に一人いることがわかった」


 「敵の強さまでわかるのか。便利だな、魔力探知」


 「まぁな。恐らく、あいつは帝国の大将と同格に強い」


 めっちゃ強いな。そいつ。あの化け物と同レベルの奴がエルフ軍にもいるのか...。

 まぁ、そうでもないとエルフも帝国と戦争なんて出来ないか。


 「強さがわかるなら、エルフ軍の雑兵とうちのゴブリン達の強さの比較とかもできるのか?」


 「すまん、ちょっとそこまで細かいところはわからん。あいつは、他の兵と比べて明らかに魔力が強かったからわかっただけなんだ。大将どうこうは、俺の勘だ」


 「わかった。ありがとう。みんなにも、今夜決行という事を伝えてくれ。日が落ちたら集合しよう」


 「了解。俺ももっといろんな事が出来るように、魔力探知の訓練しとくよ」


 「無理はすんなよ。今夜戦闘するんだから」


 「わかってる」


 そうして俺はユージを見送った後、第五小隊の訓練を見つつ、矢と縄の制作に取り掛かった。



 

 そして、俺達は早めに晩飯を食い終わり、日が暮れるとともに集合していた。

 とりあえず、小隊長だけを集めて簡単に作戦の説明をする。


 「侵攻経路は最初にあの町を襲撃した時と同じにしよう。一番遠い俺達第四、第五、第六小隊が先に攻撃を仕掛ける。適当な建物に火をつけるから、それを合図に他の部隊も侵攻してくれ。

 今回は占領に当たって火を使っていいけど、あんまり燃やしすぎないでくれ。住む家が無くなると困る。

 女子供は出来るだけ殺すな。男は皆殺しにしろ。


 それと...第二小隊は、エルフを追ってる第八小隊に合流して情報をもらってきてくれ。

 第二小隊が足が速いからその任務に適している。作戦は以上」


 「「了解!」」


 俺は小隊長のみんながそれぞれの部隊へ戻っていくのを見送る。


 「ホシノ、今、第二を行かせるべきだったか?第一と第三は強いから二部隊でも問題ないとは思うけど...」

 

 ユージは、第二を伝令に出すことに納得が行ってないようだった。

 俺だって、ユージの立場だったらそう思うだろう。

 この判断は、俺のエゴだった。


 「ごめん、ユージ。本音を言うと...兄弟達には非戦闘員の住民を殺してほしくなかったんだ」


 せめて兄弟達には、そんな残虐なことを経験してほしくなかった。

 そんな俺のわがままが今の命令には反映されていた。


 「ホシノ...」


 「自分勝手な奴だって、嫌われてもかまわない」


 「...いや、いいよ。俺は、ホシノの行動を許すよ。伝令だって、大事だ。情報は戦況を左右するからな」


 「うぅ...ありがとうユージ」


 優しすぎだろ、こいつ。こいつはいつか、悪い女に引っかかるかもな。

 第二小隊はもう出発していて、姿が見えなかった。


 俺は出撃前に、町を占領するみんなの士気を高めるため、演説をする。


 「ついに今から、あの町を俺達が占領する。

 ...あの家も、あの畑も、あの家畜も、あの川も、あの漁場も、全部全部俺達のものだ。

 全部奪ってやれ!遠慮はいらねぇ!今まで我慢してきた分、今度は俺達の番だ!

 総員、出撃!」


 「「「うおおおおおおお‼」」」


 全部隊、所定の位置に向けて出撃していく。

 第五小隊も、第四第六と共に、町の西側へと回り込んでいく。




 ゴブリンは人間に比べて夜目が効く。3日前と同じ町の西の林から、町の入口を見る。

 もうやぐらは無くなっていて、町の入口に配置されている人もわずかに二人だけだった。

 二人とも、眠そうにしている。

 

 俺が右側の兵士に矢を放つ。矢が頭に直撃した兵士はそのまま倒れる。


 「て、敵襲ー!敵襲...」

 

 左の兵士が気づき、敵襲を告げる。すぐさま殺したが、寝静まっていた町は蜂の巣をつついたように騒がしくなった。

 俺達は騒がしくなった町へ侵入していく。

 きっとすぐに敵が現れるだろう。俺は急いで指示を出す。

 

 「そこの小屋、燃やしてくれ。他の建物に延焼しないよう、気を付けて」


 「了解」


 ヘンミが火打石で建物に火をつける。

 建物はよく燃えて、もうもうと煙を上げる。これで、他の部隊に伝わるだろう。


 「今回は最初から別行動しよう。第四は海側、第五はこのまままっすぐ、第六は山側に侵攻しよう。しらみつぶしに民家を調べてくれ」


 「「了解」」


 第四、第六は早速侵攻していく。


 「ユージは単独行動。第五だけでユージを使うのはもったいないからだ。自由に町で暴れまわってくれ。とくに、魔力探知を使って隠れてる者や逃げる者の対処頼む」


 「了解」


 ユージは屋根伝いに町の中央へと消えていった。


 「じゃあ、俺達も行こうか」


 「「了解」」


 そして、俺達第五小隊も町へと侵攻していく。

 


 片っ端から民家を調べて、男がいたら殺して、女、子供は捕らえて町の広場に集めていく。

 エルフ軍と帝国軍の戦闘は相当激しかったのだろう。ところどころに戦闘の痕跡があった。

 住民たちが農具を持って立ち向かってくるが、さすがに相手にならない。

 度重なる襲撃と徴発により、もう町にまともな戦力は残っていなかった。

 戦闘は一方的なものとなった。

 逃げ惑う人々を片っ端から殺して回る。

 俺達は、侵略者となった。


 


 「これで全員か?」


 俺達は粗方殺し終わったので、町の広場に集合していた。

 ゴブリン達はみんな、エサを前にした獣のように俺の言葉を待っている。

 それを尻目に、俺は捕まえた人々の数をユージに確認する。


 「うん。探知したけど、隠れてる人ももういないよ」


 「そか、思ったより少ないな」


 捕まった人々は数十人しかいなかった。


 「まぁ、ここの人らはゴブリンに狙われてるって知ってたわけだしねぇ。

 ここにいるのは、何らかの理由でこの町を捨てなかった人達なんじゃないの?」


 確かにそうか。他にも、出稼ぎに軍隊に付いて行った人々も多いのだろうか。


 「あと、やっぱりゴブリンが攻めて来て戦える人がほとんど死んだぐらいで、諦めて自殺した人も多かった」


 「そうか...」


 キツイな...。


 俺は捕まって泣き叫ぶ女を見て、この世界の母の事を思い出していた。

 弟達を出産した夜、頭を何度も壁に打ち付けて自殺した母。

 ここにいる女たちも最期はそうなって死んでいくのだろうか。


 俺は逃げる人を殺しているとき、自分の精神が摩耗していくのを感じていた。

 俺の中の人の部分がどんどん無くなっていく。


 俺はゴブリン達に指示を出す。


 「子ども達には、母が必要だ。女は全員は犯すな。反抗的でない何人かは、世話係として残して置け。

 25匹では管理しきれないと思った時は、仕方がないから適当に間引いて構わん。

 自分たちの命を最優先に考えて行動してくれ。

 残す人々には、無理かもしれんが、なるべくゴブリンが嫌われないように接してくれ。

 とりあえず、ひどいことをするときは場所を移してくれ。

 後は好きにしろ」


 俺の言葉に、広場ではゴブリン達の下卑た笑い声が響いて、ゴブリン達が捕まえた人たちへと向かって行った。

 俺は、一人で広場を後にした。



 高台に残ってるみんなに、町を占領したからこっちに来てもらわないと。

 俺は町を出て、高台へと向かっていた。


 「ホシノ、俺も一緒に良いか?」


 半分ほど進んだ所で、ユージが後から追い付いてきた。


 「ユージ。お前はいいのか?まぁ、その、あれ」


 「いいよ。俺も、ああいうのはあんまり好かない」


 「ゴブリンのくせに、変な奴」


 「そうかも。でも、ホシノだって今はゴブリンだろ」


 「そうだった」


 「それに、ヘンミとかの何匹かのゴブリンも混ざってなかったよ、あとトガワも」


 「トガワは色気より食い気だからなぁ...ぶれない奴」


 「怒ってたよ、町に全然食料が残ってないって」


 「ま、そりゃそうだろう」


 それも、町に人が少なかった原因だろうな。


 「ヘンミは何してんの?」


 「文字を書いて、意思疎通しようとしてた。でも、怯えちゃって全然うまく行ってなかったな」


 「とりあえず、今日は無理かもな。住民たちをぶっ殺して回った後だし」


 「そうだね。戦わないゴブリン達の中に、文字を書けるゴブリンいたっけ?」


 「たしか、何匹かいたはず。あと、兄ちゃんには俺が簡単な文字は教えてある」


 「そっか...。なぁ、ホシノはゴブリンが嫌いになった?」


 「そんなこと、ないよ」


 別に人間だって、戦争で勝ったら負けた方の人たちにひどいことするのはよくある話だ。

 実際にそれを目の当たりにして、しかも自分がそれを主導するとなると、精神的にくるものがあるけど。


 「...そっか。ホシノが許可するまでは誰も、女に襲い掛からなかったんだ。それは凄いことなんだ、わかって欲しい」


 「大丈夫。俺はゴブリンの味方だから」


 俺には、大切な仲間がいるから。俺はみんなを守るよ。


 「そっか。ごめんな、変な気使って」


 「いや、ありがとう。一人でいるより気が晴れたよ」


 ユージと話していたら、高台に到着した。


 「みんな!町の占領に成功した!これからは、あの町が俺達の拠点だ!みんなも、町に移動してくれ!」


 高台で待っていたゴブリン達に説明する。


 「重い荷物は俺が運ぶぞ~言ってくれ~」


 ユージは荷物を持ちに行ってしまった。


 「ホシノ!無事か?怪我してないか?」


 兄ちゃんが飛んで来る。


 「怪我なんてしてないよ。もう町では宴が始まってる。兄ちゃんも、荷物をまとめて。早く町に行こう」


 「そうか、良かった。兄ちゃん、釣り竿いっぱい作ったから。魚たくさん釣って来るから、待ってろよ!」


 「いや、いいよ。たぶん、明日の朝には俺達も出発しないとだから」


 「そうか...」

 

 兄ちゃんは、目に見えてしゅんとしてしまう。


 「...ありがとうな、ホシノ」


 「なにが?」


 「最近、みんな活気づいてるんだ。あの村にいた時とは違う。みんな希望を持ってる。それはたぶん、ホシノが頑張ってるからだと思う」


 「違うよ。俺じゃなくて、オジジ様の努力の賜物なんだ」


 俺は砂漠の方向を見る。


 「それでも、ホシノも頑張ってるよ」


 「そう?まぁ、ありがとう」


 「なんかして欲しいこととかないのか?」


 「ん~、特にないかな」


 こうやって、喋ってるだけで俺は十分やる気が湧いてくる。


 「そっか...」


 兄ちゃんはしゅんとしてしまった。

 ...なんか頼んだ方が良いのかな?


 「あ~、それじゃあさ」


 「なに?」


 兄ちゃんは、俺からお願いが聞けそうで声を弾ませる。


 「人間達に、出来るだけやさしくしてあげて欲しい」

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