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経験値異世界転生  作者: ハイケーグ
第1章 元ゴブリン生息地
20/46

第20話 砂漠化魔法

残酷な描写あり

 翌日の朝、珍しく俺の方がユージより先に目が覚めた。


 なんとなく、情報収集もかねてその辺を散歩する。

 かけ声が聞こえてくる方を見ると、イシカワ達第一小隊が素振りをしていた。

 精が出るなぁ。多分一番厳しく訓練を行ってるのは第一小隊だろう。

 彼らが自由に時間を使ってるのを見たことが無い。


 昨日実践してみて思ったけど、魔法もほとんど使わずに近接戦闘を行って、部隊に被害が出てないのは本当にすごいなぁ。

 たぶんそれは厳しい訓練のたまものなのだろう。

 

 俺はぼんやりと訓練の風景を見ていた。


 ...そうだ、第五小隊は4匹減ったんだから、それに合わせた作戦も考えないと。

 一旦戻るか。


 第五小隊の場所に戻ると、ユージが身支度をしていた。


 「あれ?ホシノ?どうした?」


 「え?」


 「会議があるから、もう向かったんだと思ってた」


 え?会議あるの?いや、そりゃあるか。


 「いや~えーと、忘れ物しちゃってね、ははは」


 なんとなくごまかす。何もない空間に手を入れてごそごそする。


 「はいはい。じゃあ、一緒に行こうぜ」


 ユージは特につっこみもせずに流す。それはそれで悲しい。


 「てゆーかなんでユージには連絡が行って隊長の俺には連絡が来てないんだ?ユージの情報網が広いのが凄いのであって、俺は悪くないぃ」


 「わかったわかった。ホシノはもう出れるの?」


 「はい、出れます...」


 「よし、行こか」


 俺とユージは連れ立って会議の場へと向かった。


 

 「みんな、本当にお疲れ様だった。よくやってくれた。特に、第三小隊と第五小隊はたったの二部隊で良く橋を破壊してくれた」


 オジジ様は再度、隊長達を集めて会議を始め、始めるとまず俺とハシモト、ユージをねぎらった。


 「功労者の二部隊には申し訳ないが、兵士の補充は出来ない」


 そういってオジジ様は俺とハシモトの方に頭を下げる。


 「大丈夫です」


 「うん。さて、ではまずは戦果の報告から。昨日の戦闘で我々はあの町の橋を破壊することに成功した。そして、帝国軍本隊があの町に到着した時に合わせて上流の堤防を破壊。川を氾濫させた。

 それにより、帝国軍は町から奥への移動に手間取った。

 そこへ追撃に来たエルフの軍隊と衝突。終始エルフ側の優勢で事が進み、帝国は防戦一方だった。

 戦闘の終盤になると、川も静まってきたため帝国軍は何とか渡河し、西へと逃げていった。

 エルフ側の大勝利だ。

 そして現在、あの町はエルフが占領している」


 おぉー。死にかけた甲斐があった。

 これで、作戦は完了。あとはエルフがこの地から人間共を排除するのを待ってればいいのか。


 「このままいけば、時間をかけてエルフは帝国軍をこの地から追い出すだろう」


 じゃあ、俺らはまた訓練の日々に戻るかぁ。

 被害者には悪いけど、ゴブリンを増やすことも考えるべきか。

 そうしないと絶滅だ。


 「しかし、みんなには申し訳ないんだが...このままでは我々は勝てない」


 え?


 「元の作戦では、エルフが帝国に勝ち、エルフ軍が兵力を帝国本国との前線にあてている隙にこの地を侵略するという作戦だった。しかし、そううまくは行かない」


 えぇ!?そりゃそんなうまくはいかないと思ってたけども。


 「帝国は海軍力が非常に高い。そのため、エルフは後方に上陸されてもいいように、後方にも予備の兵を置いておくだろう。だから、我々が付け入る隙はそこにはない」


 そ、そんな...じゃあ、俺達は今まで何を...

 わかりきっていて、無駄なことをしていたのか?


 「だが、打つ手がないわけではない。私はそのための準備をずっと進めてきた」


 そ、そうなの?今までの戦闘が無駄じゃなかったなら嬉しい。

 それにしたって…


 「オ、オジジ様は、元々、この作戦は無理だと思っていたのですか?」


 俺はどうしても聞きたくなり、オジジ様の話をさえぎって質問してしまう。


 「...あぁ、すまない」


 「じゃあ、なんで...」

 

 なんでそもそも、あの会議の時に承認した?


 「敵を騙すには、まずは味方からというのと、...今から話す作戦はきっと、みんなには、特にホシノ君には反対されると思って、言い出せなかった」


 そ、そうなのか...


 正直、かなり不満があった。しかし、オジジ様がゴブリン達の中であまりにも抜きんでて力を持っているため、納得するしかなかった。

 それに、今までオジジ様の作戦通りにやってきて、うまくいっているというのも大きかった。

 きっと今度の作戦も、有効な作戦なんだろう。そんな期待があった。


 「今回の作戦のために、私は、ずっと、とある大魔法の準備を続けてきた。

 それは、とても広範囲に作用する魔法だから、私が唱えるだけでは威力が足りないんだ。

 だから、私はこの作戦を決行するかもしれないと思った時以来、ずっと魔石を配置し続けてきた。かれこれ20年ほど前の事だ」

 

 20年!?そういえば、俺が生まれてすぐの時は、オジジ様はあんまり村にいなかったような...

 まさか、ずっと一人で魔石を配置し続けていたのか?


 「その魔法は、砂漠化の魔法だ。

 私の固有魔法の、生命力を奪って魔力に変えるものと、土魔法を組み合わせた魔法だ。

 使うとその地が砂漠化する」


 すっげー!なんかめっちゃかっこいいな。フィールドを変えるタイプの奥義って感じか?


 「しかし、大量に配置した魔石でも、まだ足りないんだ。魔力が...」


 俺は、そこまで聞いて非常に嫌な予感がした。

 願わくば、ここから先は聞きたくなかった。


 「だから、私の生命力を使う。それでも足りないので、生贄のゴブリンも25匹使用する」


 しかし、俺は続きを聞いてしまった。

 

 「生贄として使うゴブリン達は村に残ってもらっている。生贄じゃない非戦闘ゴブリン達は、この高台に向かってもらっている。彼らは、第八小隊に先導させている」


 いわれて見回すと、確かにチバの姿が会議の場に無かった。


 「それが、この作戦を伝えられなかった原因だ。私がいなくなった後の、次の指導者はホシノ君に任せる」


 お、俺!?なんで俺?

 ...俺が、ビリー様とかいう転生者だからか?


 「ちなみに、作戦自体は単純だ。エルフ軍後方を砂漠化させ通行不能にし、補給を断つ。それだけだ。

 ...何か、質問はあるか?」


 「あります」


 いつものオジジ様の言葉に、俺は力強く答えた。


 「なんで、そんな一か八かな作戦をしなくてはいけないんですか?

 もっと、ゆっくりでも良いと思います。

 わざわざ無茶をしなくても、その辺の村から数人、人をさらってくれば僕らゴブリンは生きながらえるのでは?

 それで、ゆっくり数を増やしていく方法もあると、思います。

 僕らは、もっと、小さな戦果でも良いと思います」


 その方が、身の丈に合ってる。

 俺はそう思う。


 「ホシノ君の意見は尤もだ。実際、我々はこの20年間ずっとそうしてきた。

 そして、数が増えたり減ったりを繰り返してきた」


 じゃあ、それでもいいじゃないか。


 「しかし、もう、それではいけないんだよ。私は、この世界のある秘密を知ってしまった」


 秘密?


 「なんですか?その秘密って」


 「この世界には、なんでも願いを叶える物がある...らしい。

 人間は、それを使って人間以外の種族を全てこの世から消すつもりだ。

 帝国が仕掛けたこの戦争の、真の目的はそれだと、私は情報を得ている」


 なんだよ...それ...


 「だから、我々は、帝国に勝利しなければいけない」


 そういえば、ここは異世界だったな。なんか、そういうアイテムがあってもおかしくはない...のか?

 最悪だ...


 「...ホシノ君、これで、納得してくれただろうか?」


 「...わかりました、ありがとうございます」


 俺は、その場でこれといって反論が思いつかなかったため、了承するしかなかった。


 「それじゃあ、今日の会議はこれで終わりにしよう。

 村に向かうのはホシノ君とユージ君だけにして、早速出発しよう。それ以外の者は待機」


 「は、早すぎませんか?もう少しだけでも、ゆっくり...」


 ニイジマがオジジ様を引き留める。

 きっと、みんなももう少しだけでもオジジ様と一緒にいたいのだろう。


 「すまない、もう私の寿命も近いんだ。これ以上時間を無駄にしたくない。

 下手をすると、もう1、2匹生贄のゴブリンを増やさないといけなくなる」


 「!...わかりました、すみません」


 「いや、いいんだ。それじゃあ行こうか」


 そして、俺とユージはそのままオジジ様について村まで帰還した。




 道中、ずっとこの方法以外に良い方法が無いか考えていた。


 でも、俺はかなりレベルが上がっていて、すぐに村まで帰れてしまった。



 

 そして、俺は何日かぶりに村へと帰って来た。

 村の様子は特に変わって無くて、ただ、ゴブリンの姿は全く見当たらなかった。

 オジジ様について行くと、非戦闘員のゴブリンが大勢、村の中央に集まっていた。

 数を数えると、25匹ぴったりだった。

 その中に兄ちゃんがいなくて安堵した。そんな自分が嫌になった。

 

 「みんな、すまない。今日は私と一緒に死んでくれ」


 オジジ様が開口一番、彼らに死を懇願する。


 「おうよ!みんなの役に立つなら、良いってもんよ!」


 「オジジ様と一緒に逝くなんて、豪華なもんだな!」


 これから死ぬゴブリン達は、死を恐れていないようだった。

 そういえば、ゴブリンってあまり死を恐れない種族だったような気もする。


 オジジ様も、死を恐れてはいないのだろうか。


 「ユージ君、君は、私が合図を出したら私を殺してくれ。

 私は強い。私を殺したら、君はきっともっと強くなれる」


 「っ!ぅ...わかり...ました」


 ユージはずっと泣いていた。


 「つらい役割を任せてしまって、すまない」


 「最後に、いいですか?オジジ様」


 俺はオジジ様に最後に質問をしたくなった。


 「いいよ。ホシノ君、なんだい?」


 「人間が、その願いを叶える奴を使うのには、たぶんエルフに勝たないといけないと思うんです」


 「あぁ、そうだろうね。例え勝たなくても、きっとこの戦争には意味がある事なのだろう」


 「だったら、このままエルフの支援をしつつ、人間をさらっていればいいんじゃないですか?

 やっぱり、わざわざ俺達が勝者にはならなくても良いと思います」


 「いい質問だね。

 でも、今度はエルフがその願いを叶える権利を握ってしまうかもしれない。

 我々は、勝者になれる可能性が少しでもあるのなら、勝者になるべく行動すべきだ」


 それは...確かにそうかもしれない。

 こんなこと、やめさせたいのに、俺は反論ができない。


 「ユージは、このままで良いのか?」


 俺は苛立ちつつ、ユージの意見を求める。


 「俺は、オジシ様がそう望むのなら、その方法が良いんだと思う」


 ユージはきっぱりと断言する。

 そりゃそうかもだけど…


 「...オジジ様、僕たちは、何を願えばいいんですか?」


 ユージが泣きながら質問する。


 「ゴブリンの、メスを。頼む」


 あぁ、そうだな。ゴブリンにもメスが生まれてくるようになれば、わざわざ他種族を襲う必要もない。

 他種族を襲わなければ、きっといつかはゴブリンにだって友好な関係も築けるだろう。


 「...オジジ様、オジジ様は、そんな生き方で、良かったんですか?

 オジジ様自身は、他になにかやりたい事とか、無かったんですか?」


 俺は、感情が高ぶって、すべきではない質問までオジジ様にしてしまう。

 これじゃあ駄々をこねるこどもだ。 


 「私は、みんなの思いに取りつかれているんだよ。もう私は私のためだけの行動なんてできない」


 しかし、そんな俺にオジジ様は優しく答えてくれた。

 答えてくれたオジジ様は、なんだかとても悲しそうな顔をしていた。


 みんなって、20年前のみんなの事か?


 「恐らく、ホシノ君にもわかるんじゃないか?」


 言われて、俺は死んでいった4匹の事と、昨晩のハシモトとの会話を思い出した。

 どうなんだろうか。死んでいったみんなも、俺に取りついているのだろうか。


 「それじゃあ、これより魔法を使う」


 オジジ様は、俺達と会話しながらも、ずっと何か作業をしていた。


 もう駄目だ。俺では、止められない。


 「これは、魔法陣ですか?」


 「そういえば、魔法陣の説明をしていなかったね。

 よし、これが最後の授業だ。帰ったら、みんなにも教えてあげて欲しい。

 

 こうやって、魔法を使う際に魔法陣を描いておくと魔法の威力が少し上がる。

 少しだけだから普段は描いてもあまり変わらない。けど、こういう大きな魔法を使うときはその効力もばかにならないから、描いておくといい」


 魔法陣には、何か文字のようなものも書かれていた。

 初めて見る文字だった。人間のとも、エルフの文字とも違った。


 「それじゃあ、改めて、みんな、準備はいいかい?」


 「おう!」


 「いつでもいいよ!」


 生贄のみんながこの中で一番元気だった。


 「ユージ君も、大丈夫かい?」


 「うぅ...はい、大丈夫です」


 比べて、生き残る俺とユージはどっちも涙でぐちゃぐちゃだった。


 「じゃあ...ホシノ君、後の事を頼む」


 そう言うと、オジジ様は呪文を詠唱しだした。

 その呪文は、なんだかとても禍々しいもののように思えた。

 そして、魔法陣の上に立っていたゴブリン達が一匹、また一匹と倒れていく。


 俺は、ユージにナイフを手渡した。

 きっと、これで一思いに殺せるだろう。


 生贄が全員倒れると、魔法陣が光りだした。同時に、オジジ様が苦しそうにしだす。

 しかし、オジジ様の表情は、いつになく晴れやかだった。


 俺はその顔を見て思った。

 きっと、さっきの話は嘘だ。

 オジジ様にみんなの思いが取り付いているんじゃない。

 その逆だ。

 オジジ様がみんなの思いに___生き残った者が死んでいった者の思いに___縋り付いているんだ。

 

 たぶん、苦しくてさみしいから。そうすることで、苦しさやさみしさを紛らわしてきたんだろう。

 いままで、それを生きる理由としてきたのだろう。

 俺は、オジジ様の表情を見て、そう思った。


 オジジ様が詠唱を終える。同時に、目の前の草も木も急激に枯れていき、地面が乾いていく。

 まるで何かの早送りでも見ているかのように、土地が砂漠となっていく。

 それは連鎖的に起こっていった。地中の魔石が光ると、その場が砂漠と化していく。

 瞬く間に、あたり一面が砂漠と化す。

 まだまだ数え切れないほどの魔石が反応して、土地を砂漠へと変えていっていた。


 俺はすさまじい光景に、その場にへたり込む。


 「ユージ君!」


 そして、オジジ様が最期の力を振り絞って叫んだ。

 その叫びに合わせて、ユージがオジジ様の首を落とす。

 

 オジジ様の死に顔は安らかだった。


 眼前には、広大な砂漠が広がっていた。

 ふと空を見上げると、昼なのにぼんやりと月が見えた。

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