第16話 ブリーフィング3
ある程度休憩した後、俺たち第五小隊は事前に言われていた集合場所、あの高台へと向かって歩き出した。
夜の山をみんなで黙々と歩く。別に喋ってもいいが、みんな疲れからか口数も少なかった。
集合場所は町を挟んで反対側なので、山伝いに行こうとすると大回りになり結構な距離になる。
正直言って疲れているのでそんなに歩きたくはない。
一応、朝までその辺で野宿するという選択肢もなくはなかった。しかし、万が一にも今人間に見つかってしまっては一巻のおわりだ。なので夜の内に移動してしまうことにした。
移動しながらも隊員達を気にかける。
どうやら、俺も敵を殺して確かにレベルが上がったようだった。かなりの疲労のはずなのに移動があまり苦ではない。恐らく基本的な身体能力が上昇しているのだろう。
しかし、第五小隊の戦い方ではどうしてもとどめを刺す役割の俺とユージに多く経験値が流れる仕組みになっている。
そのため隊員のみんなはほぼ、いや全く経験値が入っていないかもしれない。だから、移動速度は彼らに合わせる必要があった。
きっとオジジも、ずっと俺たちを気にかけながら移動してたんだなと思う。わかっちゃいたが、改めて実感した。
それにしても、俺は今回の戦闘でそれなりの敵を殺したはずだ。それでも直前まで全くオジジの接近に気が付かなかった。
一体、オジジはどんだけ人を殺してきたんだ...?
夜の山は蛙や虫の鳴き声でうるさかった。
その後、しばしば休息を取りつつ高台へと向かって歩いた。
深夜、高台にたどり着くとそこではみんなが野宿していた。
見張りをしていた第一小隊のイシカワに声をかける。
「第五小隊、全員到着しました。状況は?」
「おう、お疲れ様。とりあえず、オジジ様の指示で朝までここで野宿することになっている。見張りは第一小隊がやっておくから、第五小隊も休んでくれ」
「了解、見張りありがとう」
俺は部隊のみんなにイシカワに言われた事を伝えた。第五小隊のみんなと少し会話を交わし、解散する。
やっと休める。そそくさとその辺に寝っ転がる。
今日は疲れた。興奮でなかなか休めないかもしれないとも思ったが、それ以上に体は疲労していたようだった。
目を閉じるとすぐに泥のように眠ってしまった。
「ホシノ、起きろ。朝だぞ」
「ん...ユージか?」
ユージに体を揺すられて目が覚める。すでに日が昇っていた。
「誰かに起こされるなんて久々だなぁ...」
俺はあくびまじりに返事をする。
「寝ぼけてる場合じゃない。隊長達での会議がもうすぐ始まる。しっかりしてくれ」
「うーん、そっかー」
俺は起き上がり、伸びをする。ここは山の上だから、空気が澄んでいて気持ちがいい。
「ユージ、魔力の調子はどう?」
隣にいるユージに聞く。
「うん、だいぶ良いよ」
ユージも伸びをしながら答える。
「よかったー。今日も戦うのかなー」
「さぁね。昨日の襲撃で、エルフが人間に勝ってくれればそれで良いんだけどね」
あー、そういえばそういう作戦だったな。
「...ねー。じゃ、そろそろ会議の場所に行くか」
「今、なんか間があった気がしたんだけど」
「気のせい気のせい。ほら、遅れるから早く行こ」
俺はそそくさと会議が開かれるという少し奥の場所に向かう。
ユージはやれやれみたいな反応をしながらその後を付いてきた。
ユージに言われた場所に行くと、それなりの人数が集まっていた。しかし、少し足りなかった。
「やぁ、みんな朝からありがとう。それじゃ、とりあえず始めようか」
オジジが口を開く。
「あれ、まだ全員そろって無くないですか?」
「今、ここにいないのは第四、第六部隊だ。彼らはまだここに到着していない」
まじかよ。
背中に嫌な汗をかく。
「ただ、彼らの安全は確認してある。朝になってから移動をすると言っていたので、もう少ししたら到着するだろう」
「あ、あぁ。そうだったんですか。良かったです」
安堵から気が抜けたような声を出してしまった。なんだ、びっくりした。
てゆうかみんなはそれを知ってたのか。みんなは俺が起きる前に話してたな。
「それじゃ、改めて少し少ないが、始めようか。とりあえず、昨日はお疲れ様。
みんな初陣で良く頑張ってくれた。聞いている限り、戦果は上々だ。
まずは状況の確認からしようか。どうも、我々の拠点はここから東に行った所にあるらしい。
というわけで、町の東側から攻め込んだ第一、第二、第三小隊の戦果を教えてくれ」
イシカワとロクダ、ハシモトが顔を合わせて、ハシモトが声を上げた。
「じゃ、俺が」
「東側から攻め込んだ俺達は、最初はオジジ様と一緒に攻め込んだから、片っ端から敵を倒して奥に進んでいった」
おい、マジかよ。オジジと一緒とかずるいぞ。
「そんで、大きめの建物の中に武器庫らしきものがあったから持てる分だけ槍を持って、残りは土に埋めてここまで戻ってきた」
おぉー。しっかり仕事してるなぁ。質の良い武器は戦力を増強してくれそうだ。
「ありがとう。じゃあ、次は北から進んだ第七、第九、第十部隊の状況を教えてくれ」
「僕たちは、少し進んだ所に畑があったから、とりあえず畑を荒らして回ってました。
そんで、暗くなってきたときにオジジ様が来て、敵の部隊が来たから撤退しろと言われ、撤退しました」
ヌマダが答える。畑を荒らすなんて食べ物が勿体ない気もするが、これも立派な戦術か。腹が減っては戦は出来ぬというやつだな。
「ありがとう。じゃ、西から回り込んだ第四、第五、第六部隊だけど、やはり回り込むのは大変で移動に結構時間が掛かるようだ。そのため第四と第六部隊は遅れている。というわけで第五のホシノ君、報告を頼む」
「はい、西から攻め込んだ俺たちは少し進んだ所で敵が集結してたから、別行動をとりました。
第五小隊は敵を撃退し、オジジ様が撤退と知らせてくれたので撤退しました」
「うん。ありがとう。みんなよく頑張ったね。
では、私からの報告だが、東側の子達と一緒に攻めた後、街道の監視をしていた第八部隊と合流した。
その後、敵の増援を確認したので敵の足止めをしながらみんなに撤退を知らせた。以上だ」
なるほど、オジジ様が足止めしててくれたのか。
「よし、報告は以上かな?
…それでは、これからの事だが、恐らくかなり早くにエルフ軍はここまで侵攻してくるだろう」
「なぜですか?」
イシカワが質問する。
「昨日増援として来た帝国の部隊は、敵の大将だ。恐らく、町の全方向から襲撃をかけた事で、こちらの数を見誤った事が原因と思われる。そのため、帝国は必要以上の戦力をこの町の防衛に充ててしまっている」
なるほど、たしかに町を包囲するように攻め込まれたら指揮系統は混乱するし、こちらの戦力も強大に見えたのかもな。
「その好機をエルフ軍が逃すはずもない。私の予想では今日中に前線で大規模な戦闘が起こるだろう」
「なるほど。つまり、我々はもう作戦完了という事ですか?」
確かに。当初の作戦ではエルフ軍を勝たせるための襲撃だったな。
「いや、まだもっと帝国軍を消耗させたい。いまからそのための作戦を説明する。水攻めをしよう。
この町には大きな川が中央に流れているね。
渡河するのはとても体力を消耗する。かといって、山の方まで回り込むのも巨大な軍隊では大変なんだ。
だから、前線で敗走した帝国軍はこの町まで逃げてきて、この町の川沿いに軍を展開して守りを固める可能性がある。そんなことをされてはエルフ軍が困る。そして我々も困る」
エルフ軍の介護をしなくちゃいけないなんて、難儀だなぁ。
「そのため、それを我々が帝国軍に対して行う。
しかし、帝国軍はあまりに強大で、我々は矮小だ。川を挟んだとはいえ、正面からの戦闘はできない」
確かに、昨日の戦闘もそこそこの歯ごたえだったが、あれは後方の拠点にいる予備の予備みたいな兵士なんだもんな。
本隊とぶつかったら一瞬で全滅して終了か。
「そこで、川を有効に使う。
まず、二手に分かれよう。一方は町へ行き、橋を全て落とす。そして、川の西側に布陣してくれ。
エルフ軍と帝国軍の前線は東にあるから、川を挟んで帝国軍を迎え撃つ形になる。
もう一方は川の上流に向かい、土魔法で壁を作り川をせき止める。
帝国軍が川を渡ろうとするところに川を解放して、濁流をぶつける。作戦は以上だ。
それ以上の戦闘は我々が無駄に消耗するだけなので、素早く撤退しよう。
上流に向かう部隊は第八に任せる。残りの部隊は町へ向かって、町のそばで待機していてくれ。
私は、まず第八と共に行動し、後から町へ向かう。私が合流するまで、町へは攻め込まずにいてくれ。
なにか、質問はあるか?」
「今、町は敵の大将が防衛してるのでは?町へ攻め込むのは危険ではないでしょうか」
ハシモトが意見する。
「帝国軍も無能ではない。負け戦になるとわかっていて、大将がこのまま後方にいるとは考えにくい。そこで、大将がこの町を出てから半刻後に侵攻を開始する。私は敵の大将へ足止めをする。
もしも大将がこの町を出発しなかったならば仕方がない。作戦は失敗だ」
うーん。かなり、相手の出方が肝になる作戦だなぁ。と、大枠の作戦はもっと相手次第な作戦だった。
「他に質問は?」
みんなで顔を見合わせる。しかし、誰も何も発言しなかった。
「よし、それじゃあ作戦は以上だ。第四、第六部隊と合流し、諸々の準備が済んだら出発してくれ。第八は私と行こう」
「了解」
そうして、オジジとチバは早速行ってしまった。
「じゃ、まぁ俺達も準備するか。昨日の戦利品の武器がこっちにあるから、まずは見てってくれ」
残った面子の中で、ハシモトが音頭を取る。
「そうだね、皆にも渡したかったし。結構持って来れたんだ」
それにイシカワが同意して、俺達はぞろぞろとハシモト達に着いていった。




