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経験値異世界転生  作者: ハイケーグ
第1章 元ゴブリン生息地
14/46

第14話 行軍

 「よし、みんなちゃんと武器を持ったな」


 「「はい!」」


 朝、第五小隊の全員で集まって最終確認をする。

 今日の昼、広場に集まって夕方から村へ向かう。今はとりあえず、多くの隊員が住んでいるユージの洞窟の近くで集まっている。

 武器と言ってもごくごく簡単な石槍だけだ。俺だけ弓矢とナイフを持っている。

 しかし、それだけで素手とは全く戦闘力が違うので大事な装備だ。


 「魔力の調子は良いか?」


 「「良好です!」」


 「なら良かった。みんなわかってると思うが、オジジ様から直接師事を受けたゴブリンが2匹もいる第五小隊はごりごりの戦闘部隊だ。それだけ危険も多く伴う。覚悟はできているか?」


 「「はい!」」


 「よし!前線での戦闘というのは戦争の花だ!他のみんながどんだけ頑張っても、俺らがビビってたら戦争には勝てん。敵を片っ端からぶち殺すぞ!」


 「「はい!」」


 よしよし、士気は問題ないようで安心した。


 「よーし、じゃあ昼に集合だから少し休憩したらもう集まろうか。一旦休憩ー」


 さてと、俺もまた矢の本数を数えとくか。

 まぁあれだけ言ったが、今日は村を襲って逃げるだけだからな。あんまりまともな戦闘にはならないと思うけど。


 「良いね。みんなやる気満々だ」


 なんとなく矢を数えていた俺に、さっきまで横で聞いていたユージが話しかける。


 「ホントはこういうのあんまり得意じゃないんだけどなぁ。ユージに鼓舞する役だけやってもらえば良かった」


 一応、俺が隊長だから俺が部隊の指揮をすることになっている。そのため、偉そうにするのも俺の役割だ。


 「ま、そんなこと言われたら副隊長権限で拒否しようかな」


 「ひどい。隊長には優しくしろ」


 ユージも基本は俺の指示に従うことになっている。しかし、俺はユージには独断専行も認めている。

 正直魔法の事はよくわからないし、その点ユージの方が詳しいから基本ユージの提案には乗っかるつもりだ。それに、ユージが俺の命令を無視するほどならきっと俺の命令がおかしいのだろう。

 俺はユージのことを信頼しているし、ユージもきっと俺のことを信頼してくれているだろうからこそ、俺はユージに独断を認めている。

 まぁ、今回のはめんどくさい役を押し付けあっただけなんだが。


 「ユージの調子はどう?」


 「大丈夫。いつも通りだよ」


 「そんなら良かった」


 少し、沈黙が訪れる。お互いに緊張しているのだろうか。


 「ホシノって、魚好きだよね」


 「うん?好きだよ」


 魚なんて、洞窟の周りには川が無いからほとんど食べれてない。

 たまーにオジジ様が偵察ついでに魚をとってきてくれることがあり、小屋のみんなで食べたりもした。


 「人間の村を襲うんだから、魚もいっぱいあるんじゃないかな」


 「そりゃあるだろうよ」


 「楽しみだな」


 「めちゃくちゃ楽しみだね」


 俺とユージはお互いに笑いあう。ゴブリンの未来のために俺たちは戦争するけれど、それはそれとして上手い飯が食えるのは楽しみだ。


 「たぶん、人間だったら農業もしてるんじゃないかな。野菜や穀物もめっちゃ食えるぞ」


 「へぇ~、そういえば元人間だったっけ」


 そういえばって...ま、そんだけゴブリンに慣れたってことか。


 太陽の方向を見ると、もうそろそろいい時間だった。

 休憩しているゴブリンを数える。よし、全員いるな。


 「じゃあ、そろそろ集合して広場に行こうか。点呼!」



 広場に向かうと、もうすでにぽつぽつといくらかの部隊が集まっていた。

 残りの部隊もすぐに集まり、昼前にはもう全部隊集合していた。

 しかし、実際にこうやってみんなで集まって整列してみると壮観だな。

 この小さな村にこんなにいっぱいゴブリンが住んでたんだな。


 隊長達はオジジのいる小屋に集まった。もちろんユージも一緒だ。

 みんな、良い顔をしている。


 「やぁ、みんな早いね。まだ昼前なのに全員集まったね」


 オジジは卓に座ったみんなの顔を見回す。


 「本来は、装備の確認やちょっとした演説でもしようと思ってたんだ。けどもうみんなやる気満々ですでに済ましちゃったようだね」


 確かに、他の部隊の面々もなんだかやる気に満ち溢れてたな。

 なんというか、広場は熱気であふれていた。


 「特にやることが無いなら、もう出発しましょうよ。みんなもう今か今かと待っているんです」


 ロクダがオジジに提案する。

 確かに、昨日は兄弟達も今日の戦争が待ちきれないようでずっと興奮してたもんなぁ。


 他のみんなも、ロクダの意見に賛成のようだった。

 いつもならここでロクダに否定的な意見を投げる、命令は絶対に厳守するイシカワとヌマダも今回ばかりはロクダの意見に無言の賛同をしていた。


 「そうだね、少し予定を早めてもう出発しようか。何か困る者はいるかな?」


 みんなも、早く出発したいというのがひしひしと伝わってきた。

 きっとここで俺が手を上げようものなら、どこからともなくため息でも聞こえてくるだろう。


 「...それじゃあもう出発しよう。途中までは第一小隊から順番についてきて。ある地点まで来たら、そこで細かい作戦の指示をしよう」 


 そのまま、特に反論も上がらなかったので早速出発することになった。

 きっとオジジは、もうすでにみんな士気が高いからこのまま作戦を行動に移したかったのだろう。



 約100匹のゴブリンがぞろぞろと山道を登る。

 俺達第五小隊はニイジマ率いる第四小隊の後ろをついて行く。

 大体3年前と同じ獣道を行く。俺達はあのころとは違って体力がかなりついた。なのでこのくらいは何とも無かった。

 3年前はついて行くだけでいっぱいいっぱいだったのが懐かしい。


 それにしても、なんかもう後戻りできないんだな。

 なんだか、今から敵の村に行って敵を殺す、ちょうどその移動中だなんて信じられなかった。

 全く現実感が無い。このまま、山の頂上まで行ってみんなで景色を楽しんだ後、ゴブリンの村に引き返してもおかしくない気分だった。

 それにしてはゴブリンの数が多いし、なんかみんな武器を持っているなぁ。そっかこれって今から戦争か。

 

 俺はなんだかふわふわした気持ちでただただ歩いていた。



 それなりに歩いた後、3年前とは違う道に入っていった。

 今回の目的地はあの村ではないのだろう。

 

 そのまましばらく歩いていくと、みんな一か所に集まって休憩していた。

 まだ山の中だけど、ここが作戦を伝えられる地点かな?

 隊長達が集まっているらしき場所まで行くと、その場所は非常に視界が開けていた。


 その場所では、眼下の平野を一望できた。

 平野は真ん中あたりに大きな川が流れていて、その川を中心に町が形成されていた。

 平野は海に面していて、三方を山に囲まれていた。

 ここから海は右側に見える。

 そういえば、転生してきてから海を見るのはこれが初めてだった。


 「ここから、このあたりの平野を一望できる」


 気が付くと、もう全部隊集結して後ろで待機していた。

 なので、オジジが隊長達に作戦の説明を始めていた。


 「見てもらったらわかるように、川に沿って町がある。

 今回の我々の目標はここら一帯の町にできるだけ損害を与えることだ。

 さて、なぜ損害を与えるのかな?イシカワ君」


 「はい、帝国軍の部隊をこちらに割かせて、エルフ軍が勝利しやすくするためです」


 あてられたイシカワが難なく答える。


 「うん、よくわかってるね。

 そのため、できるだけ広範囲に、そして我々がどこからやってきたかわからないようにする必要がある。

 襲撃する町の範囲が広がれば広がるだけ、帝国はより多くの兵を守りに割かなくてはならない。

 また、我々がどこから来たかわからなければ全方角に兵を配置する必要がある。

 さすがに100匹程度ではこの町を破壊し尽くせないから、それぞれが持ち場付近を襲撃することにしよう。


 破壊目標は敵の兵站だ。基本的に食料を破壊して、馬がいたら逃がしておいてくれ。

 また、できるだけ住民は殺せ。少しでも相手の戦力を削ぐんだ。我々の強化にもつながる。


 我々がどこから来たか悟られないよう、三方から同時に攻める。

 ちょうどこの平野は山に囲まれているから、それぞれ持ち場に着いたら合図を待ってくれ。


 第一、第二、第三部隊はここからもう少し海側に行ってから、襲撃を始めてくれ。


 第四、第五、第六部隊は、反対側の山まで隠れて回り込んでくれ。

 ホシノ君は準備が済んだら、こちらへ矢を放ってくれ。それを合図としよう。


 第七、第九、第十部隊は海の正面の山から襲撃を始めてくれ。


 そして、第八部隊は私と共に来てくれ。

 ここから海の方を向いて、右側に行くとエルフの国がある。つまり、こちらの山側だ。そっちの方向に帝国軍も集結している。

 だから、この町を守りに部隊が来るならそちらから来る可能性が高い。

 なので第八部隊と私は増援が来るであろう街道の監視、増援部隊の足止め、そして逃げる合図を出すことが役割だ。その時の合図は、撤退と大きな声でただ叫んでくれ。


 撤退の合図が聞こえたら、他の部隊も撤退と叫んでくれ。

 そして、みんなもう一度ここに集まってくれ。ここに集まるのが難しそうなら、この付近に集合場所を書いておく。各自確認してくれ。


 注意事項だが、火は絶対に使うな。

 人間は火魔法が得意だ。自分で点けた火を敵に操られるぞ。


 作戦は以上だ。それでは各隊、幸運を祈る」


 

 俺達第五小隊は、第四、第六と共に先刻の場所の反対側の山まで来ていた。

 途中までは海の正面の山の部隊と一緒に山を伝ってぐるっと回ってきたが、彼らと別れてからもう半分を歩いてきた。

 かなり時間がかかってしまった。もうすでに空はかなり赤みがかっていて、もうすぐ日が暮れるだろう。

 オジジの説明だと、こっち側はエルフの戦場と反対側だから帝国軍は来ないらしい。でもまぁ一応こちら側にも街道はあるし、警戒はしておくか。


 さっきは勢いでなんか納得したけど、そういえば俺あそこまで矢を飛ばせなくない?

 まあ、合図だからオジジが見つけてくれたらそれで良しとしよう。


 「みんな、準備は良いな?」


 俺はこっち側のゴブリン達に最後の確認をする。

 それを聞いた30匹のゴブリン達は全員静かに頷いた。よし!


 俺はさっき平野を一望した山めがけて全力で矢を放つ。

 やっぱり全然届いていないが、しっかり空に注目していたらそこそこ目立っただろう。

 作戦開始だ。

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