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経験値異世界転生  作者: ハイケーグ
第1章 元ゴブリン生息地
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第13話 前夜

 「ユージ、俺らって武器以外になんか準備あるか?」


 俺とユージは一旦、小屋の外で話し合っていた。


 「そうだね...とりあえず武器だけで大丈夫じゃない?」


 他の部隊、例えばトガワの部隊だと調理器具なども必要になってくるが、俺たちの部隊は主に魔法で戦うだけなので装備は簡単な近接武器だけだった。


 「だよな。よし、じゃあとりあえず今日は当初の予定通り休みにしようか。明後日に備えよう」


 「うん。そうしよう。俺はあっちの洞窟のゴブリンに知らせてくるからホシノはあっちお願い」


 「わかった。終わったら、いつもの場所で会えるか?」


 「いいよ」


 俺達は自分の部隊のゴブリン達に戦争が始まる事を伝えた。

 みんな喜んでいるみたいで明日を待ちわびているようだった。

 とりあえず、士気は問題ないみたいで安心した。

 ま、ゴブリンだし、その点は基本心配無さそうだな。

 俺はみんなに武器の手入れを怠らないように指示し、あとは明後日に備えて休ませておいた。



 「こっちのゴブリン達はみんな戦争に前向きみたいだったよ。そっちはどうだった?」


 「こっちも大丈夫だった。みんなやる気満々だ」


 俺とユージはいつもの場所で落ち合い、とりあえず部隊のみんなの様子を報告しあった。


 「...で、なんでもう一回ここで会ったの?」


 「うーん、なんというか...ユージは、さっき俺が提案した作戦、どう思う?」


 俺は、自分が提示した作戦に穴がたくさんある事を自覚していた。

 それなのに俺の作戦がすぐに通ったことや、結局オジジの作戦を聞けずじまいなことに少し不安を覚えていた。


 「...うーん、そもそもエルフ軍がちゃんと帝国軍を追い払えるかとか、エルフがここらの守りをどの程度放棄して北に注力するのか、とか色々と問題点があるとは思う」


 俺の問いかけに対し、ユージはためらいながらもぽつぽつと問題点を上げていった。


 「そうだよなぁ。相手が都合よく動く前提の作戦過ぎるよなぁ」


 ユージに正論で指摘され、わかっちゃいた事なんだけど少しへこむ。


 「でも、他の案に比べたらましではあると思う。敵とほとんど交戦しなくて良い方法はこの作戦くらいだし。とりあえず決まった作戦を俺は全力で遂行するべきだと思うよ。じゃないと指揮系統も混乱するし」


 「そっか、そうだよな」


 「うん。俺も、もっといい作戦があったらあの場でしっかり発言するから。誰も異論を唱えなかったんだから、自信を持って良いよ」


 「ありがとぅ」


 俺は心が弱っていたこともあり、友人からの励ましに普段以上に感激してしまう。少し声が上ずってたかも。


 「いいよ。てゆーか、ホシノ、やっぱり戦争したくないか?」


 「え?なんで?」


 「見てりゃわかるよ。元気ないじゃん」


 どうやら俺の心の内が外に漏れていたようだった。やばい。戦争が始まる前からどんよりしてる奴とかいたら士気を下げちまう。


 「まじ?バレてた?みんなにもバレてたかな」


 「うーん、俺とヘンミとオジジ様は気づいてたと思うけど他の奴はわからん」


 みんなにバレてた訳じゃないなら少し安心。そこまで大きな影響は無さそう。


 「いや...ごめん。正直、みんなと仲良くなったのもあって、やっぱ死んでほしくない気持ちはある。でも、やらなくちゃいけない戦争だって事もちゃんと理解してるから。だから、大丈夫。心配かけてたんなら、ごめん」


 俺の話を聞いて、ユージは何か言いそうになっていた。しかし、少し考えて言いかけた言葉を飲み込んだようだった。


 「わかった。良いよ。...ただ、変に気負い過ぎるのもやめろよ。多分...いや、絶対に、ホシノがどんだけ頑張っても誰も死なないなんてあり得ないんだからな」


 「うん。大丈夫」


 わかってる。俺はあくまでただの一匹のちっぽけなゴブリンだ。しかも魔法が使えない。

 そもそも、ゴブリンって言う生物が犠牲をものともせずに多数で少数を倒すってのが基本戦術なんだ。仲間の死には、慣れていかないとな。将来的にも。


 俺は決意を新たにする。いかなる犠牲を払おうとも、絶対にくじけないぞ!


 「それとなんだけど、やっぱりエルフとは交渉できないのかなぁ」


 俺が奮起している横で、ユージが何度も喋った文言をまた口にする。


 「またその話?とりあえずはできない前提で話を進めるしかないって結論出たじゃん」


 「まぁそうだけども」


 ユージはどうやらなんとかエルフと交渉したいようで、何回か俺達でどうにか方法がないか話し合っていた。


 「やっぱりさ、拉致してきた人間とは何とか交流が出来たわけじゃん」


 「あのオジジ様が捕まえてきてくれた人間な」


 もう死んでしまったが、彼のおかげで俺達は人間の言語を聞き取れる。


 「でも、それもひどいもんだったじゃん。最初の方はなんとか文字を読んでもらおうと思っても、怯えるだけで全く交流できなかったし。実際に対面して交流を計ろうと思ったら、ゴブリンが地面をいじってる間に魔法を打たれると思って殺されて終わりよ。文字なんて見てもらえないって」


 「それもそうなんよねぇ。...じゃあ、文字を書いた木の板を持ちながら相手に近づいたらいいんじゃね?」


 「それも、その辺で拾った板をゴブリンが盾として使ってるとしか思わんでしょ。文字の内容を認識する前に殺されるような気がするなぁ」


 ユージの思い付きの提案に指摘を入れる。

 殺したゴブリンが『友達になろう!』って書かれてる看板を持ってたら、その看板を持っていた人物をゴブリンが殺して看板の意味もわからず持ってるだけみたいだなぁ。胸糞展開不可避だなぁ。


 「そっかぁ。...そうよなぁ」


 うーん。言い過ぎたかな。俺としても、エルフと交流できたら良いとは思ってるしな。


 「まぁでも、エルフと交渉できたら良いのは本当だから。俺もなんかいい案がないか考えとくよ」


 「ホシノ~、ありがとう~。やっぱ友人って大切だわ」


 「わかったわかった。そういや、友人と言えばヘンミって今暇かな」


 最近会えてなかったからな。会えるなら会いたい。


 「どうだろね。多分よっぽど準備が必要な部隊以外は俺らと同じく今日明日は休みにしてると思うけど。...行ってみる?」


 「久々に3匹で遊ぶか!」


 「ヘンミの部隊が休みにしてたらな」


 そうして、俺とユージはヘンミのいる洞窟へと向かった。



 「ただいま~」


 「「「おかえりー」」」


 夜、ヘンミの洞窟から帰った俺はいつも通りにみんなで飯を食って、いつも通りにみんなで寝た。

 昼間にめいいっぱい3匹で遊んだから、そこそこ疲れていた。


 「ホシノ、ちょっといいか?」


 「うん?」


 寝ようとしてると、兄ちゃんに呼ばれた。

 

 「少し、話せるか?」


 「うん。大丈夫」


 俺と兄ちゃんはみんなが寝てるので起こさないようにそーっと洞窟から出て、歩きながら話した。


 「今日、第二小隊のロクダさんが来て明後日から戦争が始まるって言いに来てくれたよ」


 「うん」


 そういえば、帰ってからまったく戦争の話が無かったな。みんな俺が嫌がると思って控えてたのかな。


 「今朝はホシノ、元気無かったらしいな。みんな心配してたよ。...やっぱり、戦争、嫌か?」


 兄ちゃんは俺に向き直って立ち止まり言った。

 そんな風に気を使わなくてもいいのにな。だって俺は戦争のための訓練をずっと続けてきたんだから。

 でも、気を遣わせちゃったのは俺がそういう態度を取ったせいだよなぁ。みんなに心配をかけて申し訳ない。


 「そんなことないよ。ゴブリンの未来のために、全身全霊で敵を殺すつもりだし、やる気満々だよ」


 ユージには本音も語ったが、兄ちゃんには少しも心配をかけたくなかったから嫌な気持ちもある事は言わなかった。


 「そうなのか?昔にも言ったように、ホシノがそう望むなら、兄ちゃんはお前が村を出る選択を応援するぞ」


 「本当に大丈夫。心配かけてごめんね。朝は少し寝違えてて首が痛かっただけだよ」


 「そうか...」


 寝違えたなんて全く持って嘘だし、たぶん兄ちゃんも嘘と気が付いているだろう。

 しかし、嘘をついてまで平然を装ってると兄ちゃんに伝わればそれで良かった。

 それで俺の意思は固いと伝わるから。


 「...寝違えてたんならしょうがないな。もう、大丈夫なのか?」


 少し長めの沈黙の後、兄ちゃんは俺が寝違えていたていで話を進めてくれた。


 「うん。もう大丈夫。すっかり治った」


 「なら良かった」


 兄ちゃんは、安心したように少し微笑んだ。

 そして、俺たちはまた歩き出した。


 俺たちは会話を交わすことなくただ歩いていた。


 俺は兄ちゃんに本音を語るべきなのかとか、もっと兄ちゃんや兄弟達を安心させるにはどう言ったらいいんだろうと考えていた。

 兄ちゃんも何か考えているようだった。


 俺たちはなんとなく洞窟に一番近い池の畔まで来た。

 兄ちゃんは石を投げながら俺に語りだした。


 「ごめんな、兄ちゃんは戦争に行かないのにこんなことを言うのはずるいかもしれない。だけど、どうか、みんなを頼む」

 

 「うん」


 俺も、何となく石を投げながら聞いていた。


 「絶望的な状況でもホシノが諦めないでいてくれたらそれでいいから。それだけで、みんな力が湧いてくるから」


 「うん」


 「あと、一旦引いてもいいからな。またここに帰ってきて、また、新しい作戦を考えよう。追手が来るようなら、もっと山奥に逃げ込もう。なんというか...とにかく、生きて帰ってきてくれ」


 「うん」


 「生きてれば、いくらでもやり直せるから」


 「うん、わかった。這いつくばってでも、絶対に帰って来る」


 俺は石を投げるのをやめて、兄ちゃんの方を向いてしっかりと言った。

 兄ちゃんも石を持ったまま、俺の目を見ていた。


 「よし!ごめんな、兄ちゃんのわがままでこんな夜遅くにつきあわせて。帰ろっか」


 兄ちゃんは声色を変えて、石をその辺にほかってから洞窟に歩き出した。


 「全然いいよ。むしろ、心配かけてごめん」


 「いいんだよ。勝手に心配してるだけだから。それより、明日は何か用事とかあるのか?」


 「ないよ。明後日に備えて、お休みの予定」


 「なら、第二小隊もお休みらしいから、明日は久々にみんなでまったりしようか」


 「うん!じゃあ、鳥を調達してこようかな」


 「それなら、兄ちゃんも普段より張り切って料理つくるか~」


 明日は、俺の方から兄弟達に戦争の話を振ろう。

 戦争楽しみだな、頑張ろうなって。そしたら、きっとみんなも遠慮や心配せずにいてくれるかな。

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