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経験値異世界転生  作者: ハイケーグ
第1章 元ゴブリン生息地
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第12話 ブリーフィング2

 俺は一旦洞窟に帰って、今日の訓練が中止になったことを兄弟達に伝えた。

 兄弟達は始めは筋肉痛に苛まれながら喜んでいたが、すぐに俺に元気がないことを察したようで心配してくれた。


 「ホシノー、どうした?なんかあったかー?」


 「いや、なんでもない」


 心配させまいととっさに否定したが、兄弟達にも戦争が始まりそうだということを伝えておいた方がいいのか?

 いや、でもまだ決まったわけじゃないし、俺が勝手に伝えるのは良くない事かも知れない。やめとくか。


 俺は無理矢理話題を変えようとふざけてその辺の兄弟のわき腹をくすぐる。


 「あひゃひゃ、いてっ、いてー。やめてー」


 兄弟は筋肉痛がひどくて笑うだけでも腹筋が痛いようだ。笑いながら痛がり、勘弁してくれと懇願した。

 よしよし、しっかり訓練したんだな。


 「みんなはとりあえずその筋肉痛を治す事だけ考えてて。俺は用事があるから行ってきます」


 「うぅ、わかったー」


 「「「行ってらっしゃーい」」」


 俺は素直な兄弟達を洞窟に置いて、いつもの小屋へと向かった。



 小屋にはもう11匹みんな集まっていた。


 「すみません、遅くなりました」


 俺は軽く謝罪しながらいつもの場所に座る。


 「いや、大丈夫。ちょうどみんな集まった所だ」


 オジジが俺を許しつつ、いつかのように本腰を入れて俺達に説明を始めた。


 「さて、こうやってみんなで顔を合わせるのも久しぶりだね。皆、私の想定以上によく働いてくれていて私は感激している。

 と、前置きはこの辺にしておこう。今回わざわざ訓練を中止にしてまでみんなに集まってもらったのは感謝するためではないんだ。

 

 我々がそもそもこうやって訓練していた理由、人間と戦争をする時がついに来た」


 オジジの言葉を聞いて、みんなに緊張が走る。


 みんなはこの言葉を待ちわびていたようだ。緊張しつつも、歓喜の感情を隠し切れていない。

 理由は単純。勝てば良い思いが出来るからだ。

 どうも、ゴブリンは前向きな奴らが多いらしい。


 対して、俺にとってその言葉はショックだった。

 俺は今のこの生活を、割と気に入っていたんだなぁと朝からじわじわと否応なしに実感させられていた。


 戦争になれば絶対に誰かは死ぬ。

 もう、この日常は永遠に帰ってこないんだ。


 そう思うと、とても悲しい気持ちになった。もっともっと色々とやっておけば良かったなぁ。

 どうも、俺は後ろ向きな奴らしい。


 でも、このまま平和に暮らしていてはゴブリンは滅亡するのも事実なんだ。

 気合を入れて、立ちはだかる奴らを全員ぶち殺そう。


 さっきゴブリンは前向きなやつが多いと思ったが、撤回しよう。

 滅亡をただ待つだけの時が終わり、ついに未来を自らの手で勝ち取ろうとしているんだ。

 むしろ、興奮するほうが自然だな。俺の考え方が悪かった。


 俺は戦争をしたくないという気持ちと、戦争をしなくちゃいけないという使命感の間で揺れる心をなんとか鼓舞してオジジの話を聞く姿勢をとった。


 「なぜ今動くのかと言うと、エルフ軍が大規模攻勢の準備をしていたからだ。近々大きな戦闘になるだろう。

 見たところ、戦力では帝国側が優勢だ。

 エルフ軍も無策では無いだろうが、ここでエルフが帝国に負けられると我々の戦略上非常に困る。

 そのため、とりあえず我々は帝国の後方拠点を襲撃し、帝国へ打撃を与えようと思う。


 帝国もエルフの動きを察知して大規模戦闘の準備を始めている。

 おそらく後方はいつもよりも兵が少ないはずだ。そこを叩く。


 細かい作戦の話に移る前に、何か質問はあるか?」


 「なんでそもそもエルフと人間は戦争してるんですか?」


 イシカワが質問する。そういえば、まだみんなはそれを知らないんだっけ。


 「帝国内でエルフが大量のゴブリンを匿っているという噂があった。

 そのことの調査を帝国がエルフ国に要請したが、エルフ国が帝国軍がエルフ国内に入ることを嫌い、それを拒んだことが原因という事になっている。

 そして、交渉決裂により帝国がエルフの国へ宣戦布告して今に至る。

 しかし、実際は人間が我々の土地を占有するにあたり、エルフの国があると飛び地となって管理が面倒だからという説が一般的だな。

 また、元々タカ派の帝国はエルフ国と戦争するつもりで、理由はなんでも良かったとも言われている」


 オジジは何度かの偵察によって情報を仕入れてきてくれていた。

 俺は帰ってきたオジジに偵察の成果を聞くのがなんとなく日課となっていたから、今の話も知っていた。


 「他には?」 


 オジジは回答が終わり、俺たちの顔を見ながら聞く。


 「オジジ様の作戦を言える範囲でいいので教えてください」


 俺はずっと知りたかった事をオジジに質問する。

 前に聞いた時は話せないと言われたが、今なら少しは状況が変わっているかもしれない。


 「ふむ...では、みんなはこの地の地理を知らないだろうから簡単に説明しよう」


 すると、オジジは簡単な図を描きだした。


 「この地域は、東西に細長い地形となっている。

 北側には山脈があり、南は海だ。そして東側にエルフの国がある。

 前にも言った通りこの地域一帯は元々ゴブリンが多数生息していたが、今では帝国が占領している。

 人間が元から多く住んでいた地域、つまり帝国の本拠地はエルフ国の北にある。

 そのため現在、帝国軍のこの地への補給は海路しかない。

 おそらくエルフ軍も帝国軍も北側が本隊でこちら側は二次的なものだろう。


 我々の住んでいる場所はこの地のエルフ国境に近い東の方だ。

 エルフ国境から一日の半分の半分ほど歩いて山に入っていくと我々の住む洞窟にたどり着く」


 なるほど、それなら確かにうまいことやれば人間をここから追い出すのは成功するかもしれない。


 俺はオジジの話を聞いて自分なりに考える。


 「そして、今の話を聞いて、ホシノ君。君ならどう動く?」


 俺はオジジに急に話を振られて俺は戸惑う。


 「えっと...少し、考えさせてください」


 まず、ゴブリンがまともに戦って勝てる相手なんていないんだから、他国から攻撃されない事しか生き残る道はない。

 と、すると、帝国軍にとりあえず戦闘に勝ってもらってもっと東の方へ前線を上げさせる。

 そしたら迅速にゴブリン軍が展開、この地域一帯を占拠してエルフ軍とゴブリン軍で帝国軍を挟み撃ちにするのが良いか?


 いや、そもそもどうやって俺達はこの地域一帯を占拠するんだ?

 帝国軍の後方部隊になら、俺達でも勝てるのか?

 それに、エルフはゴブリンを見るなり殺してくる相手だったよな。

 挟み撃ちに成功した後、エルフ軍と接した後まともに交渉も戦闘もできるとは思えない。

 恐らくそのまま蹂躙されるだろう。


 だったら...


 「とりあえず、エルフ軍を大勝利させてこの地から帝国軍がいなくなればエルフも北側戦線に集中すると思うんです。

 その隙にこの地域一帯をいっきに占領する。というのはどうです?」


 それなら、わざわざ貧弱なゴブリンのために軍隊を移動させることもしないだろうし、見逃される可能性も上がるんじゃないか?


 「ふむ、我々があまり戦わないで済む良い作戦だな。

 私の作戦もあまり大差無い。よし、それではみんな、この作戦で動いてくれ」


 「あっ、ありがとうございます」


 俺の立案した作戦が通って、つい感謝する。


 ...あれ?結局、オジジの作戦って何だったんだ?この作戦と大差ないらしいけど...。

 な、なんだかうまいことはぐらかされたような気がするけど、とりあえず作戦が決まって良かった。...のか?


 「では、まずこの地の帝国軍を弱らせるために帝国軍に対し襲撃を行う事にする。


 今回の襲撃の作戦目的はこの地にゴブリンが住んでいることを帝国軍に知らせて戦力を少しでもエルフ軍との戦場から後方へ割かせることだ。

 そうすることにより、エルフ軍に勝ってもらう確率を上げる。

 また、副次的目標として我々が敵を殺すことによる戦力の増強。敵の兵站の略奪及び破壊がある。


 今回の作戦はまともに敵と交戦しないことが最も重要となる。

 なぜなら、今の我々は全く敵を殺しておらず非常に弱い状況だからだ。

 元々数が少ないのに加えて個々の戦闘力も低い。

 敵と交戦するときは常に10倍の戦力で挑みたい。

 そのため、第二、第八、第九部隊には周辺偵察を行ってもらい、敵戦闘部隊が見えたら即退散する。

 襲撃は残りの部隊で行う。


 襲撃は明後日の夜としよう。何か質問などはあるか?」


 俺は頭の中で作戦の一連の流れを考える。とりあえず、ひとまずは何とかなるか?


 「...よし、では明後日の昼に準備を整えて部隊を率いてここへ集まってくれ。

 この襲撃で、人間にこの地域にゴブリンが隠れ住んでいる事を明かすことになる。

 もう後戻りはできない。各自、気合を入れて臨んでくれ。解散!」

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