第10話 将来の夢
小屋からの帰りの道中、ユージ、ヘンミと一緒に連れ立って歩く。ヘンミってのは第六小隊の隊長で、手先が器用なやつだ。俺のために石のナイフを作ってくれたいい奴である。
俺は矢を製造しなければならないのでナイフが必須だった。加えて弓矢を携帯しなければならないので、嵩張るために俺は槍を装備しないことになった。
俺とユージとヘンミは馬がよく合ったので、こうやって訓練が終わった後は3匹で一緒に帰るようになっていた。
「魔石ってのはすげーなぁ。まさかユージよりもでけぇ柱をおっ建てちまうとは」
ヘンミは相当今日のハシモトの魔法が印象深いようだった。
「いやほんと。びっくりしたよ。魔石があれば、魔力限定だけど強さを底上げできるってことだよね」
ユージも魔石の力に興味があるようだった。
「そうだよな。魔石の数にもよるけど、事前に魔力を溜めておけばより強力な魔法が使えて。しかも回数無制限だもんな。ま、さすがにそんなうまい話じゃないだろうけど」
俺も昼に思ったことを話す。
「あ、だったら魔石の保持数とかオジジ様に聞ぃとけばよかったな」
「確かに。明日聞いてみようか」
もし魔石がいっぱいあったら、魔力充填係とかも必要になんのかな。魔法を使うのが下手なやつがやることになりそう。そもそも俺は魔力がないから無理だけど。
「そういば、エルフは風の魔法が得意らしいけどホシノはなんか対策考えてるの?」
ユージが話題を俺に振る。
「あぁそうだった。ホシノはそれオジジ様にも言われてたな」
ヘンミも話題に乗っかる。
「ちょっと考えたけど、塹壕とか穴掘って戦うのがいいんじゃない?風だったら基本的にそれで防げるでしょ。それで近づいて殺す」
「俺もそれは考えたけど、それだと人間に火の魔法を使われたときやばそうなんだよな」
ユージが俺の案の欠点を示す。
確かにそうだ。穴の中に炎をぶちまけられたら逃げ場がない。
「確かに。うーん、だったら、やっぱり基本敵からは逃げ回る。んで、落とし穴でも作っといてそれに引っかかったら反転して攻撃とか?」
「でもそれだと、俺たちが敵に無視された場合に全くの無力になるよ」
「かと言って、正面から相手にぶつかるのは危険だし無謀すぎるよ」
「それは本当にそうなんだけど、なんとか敵を足止めできる手段だけでもないと困らない?」
「困ると思う」
足止めかぁ、できないと困るよなぁ。
俺とユージはいつものように敵との戦い方を考える。
こういう時、ヘンミはたまにしか口を挟まない。基本横で相槌を打っている。
話をしていると、いつもの池のほとりまで来た。
いつもここでこいつらと別れている。
「お前らはいつもそうやって戦争の事ばっか考えてんなぁ。戦争が終わったらなんかしたい事とかねーの?」
しかし、今日はヘンミが立ち止まって話を続ける。まだお喋りしたいのかな?
「戦争が終わったらって、そもそもゴブリンと他種族が争わなくなる日なんて来るかなぁ?ゴブリンって種族の特性上、常に他種族を襲ってないといけないのに」
ユージがヘンミにツッコミを入れる。
冷静に考えて、ゴブリンって野蛮な種族だなぁ。
「まぁそうなんだけど!でも、なんか戦い以外にしたい事とかねーの?たぶんトガワだったら料理人とかだろうよ」
確かにトガワは料理人だろうな。料理するのが好きで食うのも好きなやつだ。
「そういうヘンミはあんのかよ。やりたい事」
「俺?聞いちゃう?」
こいつさてはそれが言いたくて話を振ったな。
俺はヘンミの思う壺に話が進むのが悔しくなり、少し聞いたことを後悔した。
「俺はやっぱりハーレムを作りたいな。男の夢だろ」
「ハーレムって、ゴブリンが?」
多数で一人の女を襲うことに定評のあるゴブリンがねぇ。実際無理では?
「良いだろ!ゴブリンの夢がハーレムでも!」
俺の感情が態度に滲み出ていたようで、ヘンミは少し語気を強くする。
「すまんすまん、いいと思う。ハーレム。それって俺も利用していいの?ヘンミハーレム」
「良いわけねーだろ!俺のハーレムだぞ!でも、ホシノがまだ童貞だったらしょーがねぇから一回だけ利用させてやるよ。俺のやさしさと友情に感謝しろ」
「なんで俺だけ童貞の前提なんだよ!ユージもそうかもだろ」
「ユージはなんだかんだでモテそうだからな」
「俺も正直ホシノが一番モテないと思う」
「よしお前らかかってこい。戦争だよ」
俺は笑う二匹に向かってファイティングポーズをとる。
正直実際に戦ったら俺が一番弱いけど、ここで黙って引き下がるわけにはいかねぇ。
「まぁそう怒んなって。三割冗談だよ」
七割本気かよ。多いな。
「で、ユージにはなんかあんの?やりたい事」
ヘンミがユージに聞く。正直俺も興味があるな。ユージの夢。
「俺は、科学ってやつをやりたいな。結構興味があるんだ、この世界の事とか」
ユージが、科学?
「科学ってなに?」
「科学は、この世界の原理を知る事らしい。前に、まだホシノと会ったばかりの頃、ちょうどここで科学について少し教えてもらったんだ」
そういえばそうだったな。たしかに言われてみればあの時のユージは目をキラキラさせてた気がする。
「いいね。科学。多分だけどユージは科学者に向いてるよ」
「そう?ありがとう」
「俺も、魔法に結構興味あるんだよね。今日オジジ様が言ってたじゃん、魔法を他人から教えてもらうこともできなくはないって。だから、俺がユージに前の世界の知ってる科学の事教えるから、ユージは俺に魔法の事教えてよ」
「良いよ。でもそれだと、土魔法しか教えられないかもだけど大丈夫?」
「じゃあ、一緒に世界を旅しながら他種族に魔法を教えてもらうか」
「いいね。楽しそう」
「おい!お前ら二人だけでそんなのずるいぞ。俺も旅の一員に入れろよ」
ヘンミが口を挟む。
「でもお前、ヘンミハーレムの管理しなきゃだろ」
「いいんだよ。どうせヘンミハーレムに入れる女を探さないとだからな。ハーレムに入れる女性は適当にその辺で拾った女じゃ駄目なんだよ」
「じゃ、結局この3匹で旅することになるのか」
ユージは呆れつつも嬉しそうに言った。
「ま、そうなるな。しょーがねー、俺が料理を覚えてやるよ。その方が女にもモテそうだからな」
こいつ、女にモテると言えば何でも習得するんじゃないか?
だとしたら、面倒な雑用はヘンミに押し付けれそうだな。
「おい、ホシノお前なんかよからぬことを考えてるだろ」
ヘンミに詰められる。
「いやいや、全然。全くこれっぽっちも」
やばいやばい。顔に出てた。
「ま、そんじゃそろそろ遅いし、帰るか」
ユージが言う。気が付くと、もう辺りはすっかり暗くなっていた。
「おー、じゃまた明日ー」
「また明日なー」
俺たちはそれぞれ帰路へついた。
「ホシノーおかえりー!今日は肉持ってるー!?」
洞窟に着くと、兄弟たちに盛大な出迎えをされた。
俺は日によっては鳥を捕らえてくることがあったから、こうやって肉をせがまれるようになっていた。
「ごめん、今日は持ってない」
「そっかー、じゃ、飯にしよー」
「待っててくれたの?ごめんな遅くなって」
「いや、良いんだよ。村のために頑張ってるホシノをみんなが待ちたかっただけだから」
兄ちゃんが飯を運びながら答える。
「肉あったら、飯の内容変わるしなー。あと、ホシノつえーから先に飯食ってて怒らせたらやばい」
「そんなことで怒んねーよ」
俺がツッコミを入れると兄弟たちはキャーキャー言いながら俺から逃げ回る。
「こらー、飯蹴とばしたら兄ちゃんもホシノも怒るぞー」
兄ちゃんが兄弟たちに注意する。
「そんなんで怒んな...たしかにそれはちょっと怒るわ」
兄弟たちは注意され、はしゃぐのをやめておとなしくなる。
「...よし、それじゃ、飯にするか!」
「「「はーい」」」
兄ちゃんの号令でみんなで飯を食い始める。
兄弟たちも最近ではもう遊ぶのをやめて村のために働いていた。
みんな魔法を使っての畑仕事や、木の伐採に果実の採集などの仕事をしていた。
別に俺だけが村のために頑張ってるわけじゃないのに、みんな俺にもやさしい。
前に俺が転生者だから、みんなやさしいのかなって思って兄ちゃんに聞いてみたことがある。
でも、兄ちゃんは「別にホシノがビリー様だからとか関係ないよ。俺たちが家族で、ホシノが頑張ってるって知ってる。だからみんなホシノにやさしいし、尊敬もしてるんだと思うよ」と言っていた。
兄弟達は「オジジ様のとこでいっつも訓練してて、魔法使えないのにめっちゃつえーからそんけーしてる」と言っていた。ま、そんなもんか。
俺たちは飯を食い終わり、そのままみんなで就寝した。
また明日もきつい訓練だろう。早く眠ろう。