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俺の婚約者 R15版

燃え上がるような鮮やかな赤にウィーラーは衝撃を受けた。

ゆるいウェーブの豊かな髪を揺らし、アスタルノア王国の姫が姿を現す。

彼女の纏う熱い空気に、ウィーラーの心臓がドクドクと脈打った。


彼女は薄いワンピース一枚で、体の柔らかな線が遠目でもよくわかる。

ストール程度でその艶かしさを隠せるわけがなかった。


(これが、女というものか······)


頬に熱い風を受けながら近付くと、ワインレッドの瞳が強い光を放って自分を見ていた。

ややつりがちの意志の強そうな瞳、ふっくらとした赤い唇、なめらかな絹のような頬、間近で見るレオノーラの美しさに、ウィーラーは心を奪われた。



「アスタルノア王国第一王女レオノーラ·ラー·アスタルノアと申します。」


優雅な礼をとったレオノーラは、声まで艶やかだった。


(女とはこんなにも美しいのか、それとも、彼女が特別なのか)


レオノーラが深く腰を落としているため、背の高いウィーラーからは胸元の豊かさがよく見える。思わず目が釘付けになった。


(柔らかそうだ······あれをこの手で)


そこまで考えて、ウィーラーはあらぬところに熱が集まりそうになりはっとする。


(何を考えているんだ俺は!)


腹にぐっと力を入れ、必死に邪念を追い払う。

しかし、考えないようにすればするほどそのことを意識してしまうのが人の常だ。

ウィーラーの目はすぐにレオノーラの体をなぞっていく。


(いい匂いまでしてきやがった。これ以上ここにいたら駄目だ!)


ウィーラーは出発を告げてレオノーラを馬車に戻した。

その後ろ姿を、今度はじっくりと眺める。


折れそうなほど細いレオノーラのウエストと、そこから続く柔らかな尻に、ウィーラーははっきりと劣情を覚えた。

歩くたび腰が揺れ、ウィーラーを誘っているようだった。

もちろん、レオノーラが自分を誘うわけがない。頭ではわかっている。自分が勝手に誘われているだけだ。

それにしても、なんて、なんて、


「なんてケツしてやがる······」


心の声が口に出ていたなんて、ウィーラーは全く気付かなかった。

それよりも、レオノーラの美しい後ろ姿を目に焼き付けることに必死だった。



レオノーラが馬車に乗り込むと、ウィーラーは後ろに控えていた側近のブライアンを呼んだ。


「魔術書簡を出してくれ。」

「皇帝陛下にですか?」

「そうだ。」


魔術書簡とは、緊急連絡用で、魔術で瞬時に届けることができる手紙である。

今回は、レオノーラを狙った襲撃にそなえて準備していた。


「何と報せますか?」

「最短日数で婚姻すると。」

「ほう······なるほど。」


ブライアンはニヤリと笑い、すぐに魔術書簡を送った。


ウィーラーとブライアンは乳兄弟で、ブライアンの父ジョン·ハワードはエスクレド帝国の宰相をつとめている。

ブライアンはウィーラーの一つ年上だが非常に優秀で頭が切れる。

将来宰相になって、皇帝となったウィーラーを支えることになる貴重な人物であると同時に、ウィーラーにとっては何でも話せる兄のような親友のような存在だった。


「ブライアン、女とは、皆あんなに美しいのか?それとも、レオノーラ姫が特別なのか?」

「確かに妖艶な美女でしたね。28歳で、コルセットもなくあのスタイルは素晴らしい。」

「コルセット?」

「ええ。ドレスのとき、女性は皆コルセットというものでウエストをきつく締め上げて、胸を盛り上げるんです。なのでコルセットを外すと寸胴で胸もぺたんとなる女性がいるんですよね。」

「······お前、あんなに距離がありながら姫の一体何を見ていた······」

「ですからスタイルですよ。」


あっけらかんと答えるブライアンに、ウィーラーは奇妙な苛立ちを覚えた。

自分がレオノーラで様々な妄想をしていただけに、ブライアンも同じことを考えたのかと思うとたまらなく気分が悪かったのだ。


「誤解しないでくださいよ。僕には愛しい妻がいるんです。殿下のような目では見ていません。」

「俺のような?」

「はい。情熱的な熱い瞳です。仕方ないですけどね、初めて間近に見る女性が、あんなにセクシーだったら。」


自分は初対面の婚約者にそんな目を向けていたのかと、ウィーラーは驚いた。側近のブライアンだから気付いたという可能性もあるが、それにしても態度に出ていたのは問題だ。


「不快に思われただろうか。」

「姫は気付いていないでしょう。でも、じろじろ体を見るのはマナー違反ですよ。」

「気を付ける。」


とはいっても、レオノーラ姫を見るとどうしても体の線を辿ってしまう。よこしまな妄想をしてしまう。


(おい見るな!今すぐ目をそらせ!)

(甘い香りだ。それに柔らかそうな······)

(だめだ!冷静になれ)


二十日間の旅は、ウィーラーにとって理性との戦いだった。

なるべくレオノーラを見ないように努めたが、それでも少し視界に入るだけで体が熱く反応する。

ウィーラーは夜毎自分を慰めた。


(俺はこんなに自制のきかない男だったのか)


吐き出しても吐き出しても、ウィーラーの抑圧された情熱はつのっていくばかりだった。


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