表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

エスコート R15版

氷の軍帝自らが護衛する馬車を襲撃する愚か者がいるはずもなく、旅は順調に進み、予定通りエスクレド帝国に到着した。


大陸中に今回の婚姻は周知されており、通過する他国も好意的に道を譲ってくれたし、宿泊する時はまるごと宿を貸し切るので、国民も歓迎ムードで迎えてくれた。


ウィーラーとレオノーラが共にいると、混じりあった魔力が心地よい風をつくり、護衛の騎士たちにとっても快適な旅になった。


レオノーラの護衛は女性騎士が20名、遠巻きに男性騎士が10名。

ウィーラーの隊は男性騎士20名であった。


レオノーラは厳重に守られ、一つとして問題もなく、エスクレド皇帝との謁見に望むことができた。


ただ、胸の痛みはおさまることはなかった。


ウィーラーは常に馬車の一番近くにいたが、レオノーラには危険だから馬車から出るなといい、宿について挨拶をしても目をそらしているようだった。


(視界に入れたくないほど私が嫌いなのだわ······)


それでもレオノーラは笑顔を崩さず、いつも最上級の礼をとり、これ以上ウィーラーの不興を買わないようつとめた。


若い男性にとって、28歳の自分など不快でしかないのだ。

最初に感じた屈辱は、深い悲しみに変わっていった。

自分が18歳だったら、もっと華奢な頃だったら、あんな言葉も聞かずにすんだのにと。

夜、一人になると、どうしようもないほどの寂しさを覚えて涙が出ることもあった。


(こんなことではいけない。私は子どもを産みさえすればいいんだから。こんな感情に振り回されてはだめよ。)


泣いた後は必死に自分を立て直し、なるべくウィーラーの視界に入らないよう過ごした。


だから、謁見の際にウィーラーがエスコートに現れたことにとても驚いた。

ウィーラーは皇帝の隣に座り、共に自分を迎えるのだと思っていたのだ。

ウィーラーは前髪を後ろに流し、やや長めの襟足は逞しい首にそわせ、黒の軍服を着こんでいた。白い肌と輝く銀髪が黒によく映えて美しく、エスコートのために準備をしてくれたのだとわかる。


とはいえ、腕を組むわけでもなく、手をとられることもなく、ウィーラーはただレオノーラの隣に立っているだけだったが、それでも心強かった。


相手は大国の皇帝である。ウィーラーは皇太子だが、二十日間の旅は、それでも彼を身近に感じさせてくれていた。


(それに、今日は目をそらさなかったわ!)


ウィーラーはいつも冷たく眉根を寄せて視線をそらすのだが、今日は少しだけ目が合った。


(やっぱりこのドレスにして良かった)


レオノーラは謁見のために、侍女のセアラが息切れするほどコルセットを締めた。

モスグリーンの落ち着いた色あいのドレスは鎖骨まで隠れるデザインで、胸の膨らみも押さえている。

腰まである真っ赤な髪は、ウェーブを生かしてふんわりと結い上げ、なるべく清楚に、できれば可愛らしく見えるようにしてもらった。

きつく見られがちなワインレッドの瞳も、目尻に柔らかくラインを入れるとだいぶ印象が変わる。


ウィーラーのちょっとした変化に自信をつけたレオノーラは、皇帝の前で優雅に礼をとった。


「レオノーラ姫、楽にしてくれ。おお、これは美しいな。」


ゆっくりと顔を上げたレオノーラを見て、ウィーラーの父、皇帝フェルミン·アーサー·エスクレドは感嘆の声をあげた。


「これほど美しい姫だったとは。このような事情もなければウィーラーが娶ることなど出来なかったな。」

「アスタルノア王国第一王女レオノーラ·ラー·アスタルノアでございます。皇帝陛下の心優しいお言葉に感謝いたします。」


フェルミンはまだ38歳の若き皇帝だ。

幼い頃から神童と呼ばれ、その政治手腕と先見の明はやはり魔女の血かと、羨望と妬みをこめて囁かれていた。

くすんだ銀髪と金の瞳、さすがウィーラーの父という美丈夫だった。


「一週間後には義父になる。そう堅くならずに。」


その言葉にレオノーラは内心動揺した。

一週間?!

予定では、一ヶ月後のはずだった。


「ちょっと事情があってな。もうこちらで準備を進めているから、レオノーラ姫も一週間後の式に合わせてくれ。」

「かしこまりました。」


どんな事情があったのかはわからないが、皇帝が説明しないということはレオノーラが口を挟むことではないということだ。

レオノーラは素直に従い、謁見は無事に終わった。


これから一週間、レオノーラはドレスの調整と、自身の体を磨くことに専念しなければならない。


(若さも体型も仕方ないけど、少しでも、マシに見えるように······)


ウィーラーのエスコートに礼を言うと、レオノーラはさっそくドレスの調整のため部屋に下がった。


優雅な足取りで去るレオノーラのその後ろ姿を、ウィーラーはじっと見つめていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ