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君の見る目の無さを憎みたまえ

 そしてアサノはなんの了承も得ることなくスケッチブック、紙の束の扉を開け放っていた。

 秘められていた内部。

 少なくとも「この場合」いおいては秘されるべき内容があらわになる。


 とはいえこの場面には三人しかいない。

 俺とコーニとアサノの三人、ましては俺はこの場面においてほとんど無色透明、以内にも等しい小賢しいだけの傍観者にすぎない。


 実質一対一の対戦を繰り広げている。

 そしてコーニの方があまりにも分が悪すぎている。

 なんといっても弱点がよりによってもこの世界で一番わたって欲しくない相手に保有されてしまっているのである。


「どうして……?」


 コーニは右の腰の辺りに手を添えながらアサノに問いかけている。


「ロッカーから取ったんだ」


 アサノはあまりにもあっさりと答えている。

 盗みをしたことについて悪びれることも無く、アサノはスケッチブックの中身についての感想を述べていた。


「つーかなにこれ? 女の裸ばっかりかいてんの?」


 アサノは弱点ここに極まれりとでも言わんばかりに、コーニに向けてスケッチブックに描かれている色々についてを示している。


 とても分かりやすく見せつけてきている。

 だから俺の視力でもぎりぎり、どうにか内容を確認することが出来た。いや、出来てしまえたと言った方が正しいか。


 そうでなければ、俺はアサノの感想の余りにもな浅ましさに失望を覚えずに済んだ。


 スケッチブックの中身、そこには実に素晴らしい人体のスケッチが羅列していた。


 残念ながらこちとら苦手分野ゆえ、正当な強化をこの場でくだすことは出来ない。

 そもそも俺は透明でいないも同然の状態なのだが……。

 それはそれとして、コーニが作り上げた品々の数々はざっくばらんに拝見したとしても素晴らしいとしか言いようのないクオリティだった。


 なんというべきか……肉と骨の重さを眼球の奥、鼻の奥の粘膜から脳みその一番柔らかいところにビリビリと電流となって伝わってくる。

 そんなリアリティがある。


 感動を覚えていた。

 俺は今すぐにでもコーニのもとに駆け寄り、作品の数々に関してのこころを尽くしに尽くしまくった感想文を送りたい、という欲求に駆られている。


 実際に足は一歩前に進んでいた。

 ほとんど無意識に近しい行動だった。


 しかし俺の歩みは場面の展開に阻害されてしまう。


「マジキモいんだけど」


 あろうことかアサノは作品の数々に見当違いも甚だしい品評をぬかしていた。


「女子の裸ばっかかいてるとかキモすぎ!」


 馬鹿野郎、人体のスケッチはあらゆる絵において基本のキもいい所、大切な過程のひとつだというのに。


 なのに、アサノにはコーニが作り上げた作品の数々の素晴らしさなどまるで届いてい無いようだった。

 

「なに? 女子の着替えとか覗いてこういうのシコシコかいてんの?」


 どう見ても、どう考えても違う。

 まさか分からないのだろうか? こんな学校にいる女子と素体のレベルが違い過ぎるという事に。


「キモすぎ、これって犯罪じゃん」


 なんと、どうやらアサノは気づいてい無いようだった。

 見識の浅さについて、俺はすでに相手に対して憐みのようなものを抱きつつある。


 だがどうやら作者、つまりコーニは俺とまったく違うことを考えているようだった。


「返して……」


 コーニは手を伸ばして自分自身の作品を返却してもらうことを相手に望んでいる。

 だがやはり愚かしい彼には、作品の作者の正当な意見は届かないようだった。


「先生にチクッちゃおうかなー? 女子の裸を勝手にのぞく覗き魔がいますって!」


 愚かなアサノは見当違いどころではない、まったくもって正当性のない脅しを相手にひらけかしている。


「あ……あ……」


 コーニは悲しいまでに分かりやすく動揺してしまっている。

 聞くべきではい、今すぐに無視しろ!


 そう叫びたくなる。

 実際に叫んでもいいと思う、思い始めている。


 ただ、まだ決意を抱けない。


 俺がうだうだとしている、そのあいだに先にコーニが再びアサノに向けて手を伸ばしていた。


「返して」


 アサノが答え、コーニとのやり取りが繰り広げられる。


「没収に決まってんだろ犯罪者」「ちがう……それは……」「なんだよ? 何か言ってみろよ変態」「返して……」「返してください、って言えば?」「返してください!」


 最終的に声は叫び声になっていたが、しかし感情の変化にアサノは気づきもしなかった。


「変態がえらそーにしてんじゃねえよ」


 コーニが伸ばした手を交わし、そのままアサノはスケッチブックを床に落としていた。


 叩き付ける、と思ったのは俺の怒りがあまりにも昂ぶりすぎていたからなのか、正確なところは分からない。


 すでに体は透明であること、隠れることをやめていた。

 

 飛びだした体、しっかりと視界に写る光景。

 刃のきらめきが見えた、それはコーニの右手に握りしめられていた。


 やはりコーニはしっかりと敵意に気付いていたようだった。

 敵が自分のことを害しようとしている。

 攻撃に向けて自分もしかるべき準備を整えなくてはならない。


 行動の結果が彼の右手にきらめいている。

 刃渡り二十センチの包丁だった、これなら簡単に愚か者を殺すことが出来るだろう。

 

 考えるよりも先に体は動いていた。

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