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精神疾患はだれにある?

「なあヘータ、おまえ、気持ち悪いんだよ」


 コーニは俺について語っていた。


「いっつも俺の顔を見たり、かと思ったらジッと水道の水ばっかり眺めてたり」


 おおむね正しいので、反論をすることも出来ない。

 俺が黙ってしまっているのを、コーニはなにやら悦に入ったように眺めてきていた。


「なんだよ? 「魔法使い」がそんなに珍しいのか?」


 言葉の登場に俺はどきりと身を硬直させる。

 あからさまに動揺している俺のことを見て、コーニは面白そうに口元を歪ませていた。


「そりゃあそうだよな。魔法使いなんて、ヘタしたらこの学校にいられないくらいには異常で、病気だもんな」


 この世界において魔法使いとは、一度「その状態」になってしまえば二度と元に戻ることは出来ない、一種の症例のようなものである。


「もしかして、そのうわさ話のせいで……」


 俺は耳にした内容についてを会話文として用意している。


 反応を受け取った。

 コーニはたっぷりの自虐を込めた笑みをさらに深く、にじませている。


「俺の両親が魔法使いだから、だから……魔法使いの子どもは同じ魔法使いになるんじゃないかって」


「そんな馬鹿な」


 否定をしようとして、しかし俺はすぐに言葉を濁してしまう。

 いったいどうして? 俺なんかがそんな否定文を発する権利があるというのだろう?


「もしかすると、本当にそうなるかもしれないんだよな」


 俺が口籠っているのを、コーニは諦観をたっぷり込めた視線で見つめていた。


「方法ならもう用意できるんだ」


 それは、どういうことなのだろう?


「じゃあな、元気で。明日は「ハレの日」だろ? せいぜい楽しめよ」


 コーニは俺と視線を合わせることなく、この場面から立ち去ってしまっていた。


 …………。


 「ハレの日」。文字通り土地に晴れ間がのぞく時間帯のことを指す。

 基本的に曇り空であるこの国では、青空は特権階級にしか許されない嗜好品なのである。


 校内には誰もいない。

 みんな、まさしくみんな。俺を含めた一年生から三年生、校長先生ですら今日は校庭に出て青空を楽しもうとしている。


 そんな中、俺はまたみてしまっていた。

 青空ではない、そんなものを有難がる気概は持ち合わせていない。


 俺が見つけたのはコーニと、そしてアサノの姿であった。


 いつもならばアサノが先導して歩くはずの道を、今日はコーニが先を急ぐようにしている。


 何をするつもりなのだろうか?

 無視をすることだって出来たはず、なのに俺は彼らから目が離せなかった。


 みんなががやがやと集まっている校庭。

 あたたかい群れの中から離れていく、遠くにかすむ姿から二人の足音が聞こえる。


 ざっざっざっざっざっざっざ。

 ざっざっざっざっざっざっざ。


 足音を聞いている、音が重なるほどに不安感が募っていく。


 ついに耐えきれなくなった俺は、ポケットに道具を忍ばせてあることを確認。

 物体の微かな重みを右側のポケットに、こっそりと「彼ら」の後を追いかけることにした。


 ひゅうひゅう、と風が鳴る。

 少しだけ湿っている、今日は微かに太陽の気配をにじませた空気が、俺の伸び気味のうなじの髪の毛を撫でていた。


 …………。

 

 現場には早く着いた。

 着いてしまった、というべきなのだろう、少なくともこの場合においては。


「これ、だぁーれのだ?」


 コーニに向けて問いかけているのはアサノの口元だった。

 クラスメイト……否敵性と毒性の強い、たまたま同じ肺呼吸を行っているに過ぎない生き物の一人が発しているであろう音声を確認した。

 兎に類した魔物族、獣人族の(さが)、といえばあまりにも聞こえが良すぎている。

 ただ単におびえていた、アサノの声はあまりにも敵意、害意、悪意に満ちあふれていた。


 廊下の曲がり角、彼らの視界に入らないように身をひそめる。

 隠れなくてはならないとは思いながら、しかし本音では今すぐにでもこの場から脱兎のごとく逃げたい! と強く、強く望んでいる。


 しかし意識が、憎らしいまでに理性的な探究心が新しい状況を求め続けていた。


 家政婦よろしく身を屈め、潜め、壁の陰に隠れながら彼らの姿を見る。


 以外にもヒトの数は少なかった。

 二人しかいない。


 意外に思う、のはアサノの周りにはいつも取り巻きと呼ぶべき他の奴らがまとわりついている、ような気がするからだ。

 アサノは基本ひとりで行動しない。

 というか、この「学校」という環境には少なくとも二つ以上個体をくっ付けて行動しなくては、そうしなくては「ぼっち」という烙印を頂戴する気配がある。


 さておきアサノは珍しくひとりで行動していた。


「……それ、俺の……」


 コーニの声が聞こえる。

 アサノとコーニが二人っきりでいる。

 何も起きないなんて、そんなことオプチミスティックですらない、ただの浅ましい現実逃避だ。


 壁から少し顔をのぞかせて彼らの行動を覗き見る。


 見る。

 コーニがアサノの手から「それ」を取り戻そうとしていた。


 「それ」は一冊のスケッチブックだった。

 文房具店に行けば簡単に手に入るだろう、俺にとっても見覚えのある。


 アサノはコーニが伸ばした手からヒラリと身をかわす。

 

 そして。

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