続きがみられるなら何でもするよ
作品の続きが読める、見れる、楽しめる。ときたらどんな条件だって飲める。
公衆の面前で裸を曝せと言われたら、是非とも喜んで! と思っていた。
だけど、コーニくんの要求はまだ続きがあるようだった。
「友だちになるとして、まだ解決しなくちゃいけない問題がある」
コーニくんはまどろっこしそうにぼくの手をむんずと掴んでいた。
「あっ」
予期していなかった接触にぼくはドッキリとしてしまう。
おもわず生娘のような声を発している。
そんなぼくのことをコーニくんは少し横に潰れた形の瞳孔にて、心底気持ち悪そうに見ていた。
「オレだって、お前みたいなしょーもないヤツと友だちになんてなりたかねえ」
「や、やっぱり……」
自分の想定が現実に合致したことにぼくは安心感をおぼえる。
「だけど、目的のためには何だって利用するつもりだ」
しかしコーニくんは僕の手を離さなかった。
握りしめてくる、彼の手はマシュマロのようにふわふわとした質感を持っていた。
「お前さ、アニメを作りたいんだろ?」
ぼくの願い事、こころの奥に秘めている願望を言葉にされた。
暴かれた。
叶えたい夢は言葉にするとあまりにも小さくて、簡単に握りつぶせてしまいそうなほどに弱々しかった。
「どうして……それを?」
ぼくがこころの底からびっくりしているのを、コーニくんはむしろ自分が呆気にとられた様子で見てきている。
「オレの絵を見て、即座にあんな品評をするのが「普通」のヤツじゃないことぐらい分かるだろ」
自分が自然と行ったことを、コーニくんはちゃんと見逃さなかったようだ。
ぼくは感心と、そして彼に観念する。
「そうだよ、ぼくはいつか自分の手でアニメを作りたいんだ」
やはり願い事は、言葉にするとどうにもチープでしょうも無いもののように思われて仕方がない。
「それで? いままで一個作品を作ったことはあるのか?」
「無いです……」
コーニくんはまるで狙い澄ましたかのようにぼくの痛いところをブスブスと、ローストチキンのための鶏肉にフォークで穴を空けるような気軽さで刺してくる。
ここまで観察眼があるのならば、どうして学校で友だちがひとりも出来なかったのだろうか?
おなじボッチ同士、彼の有能さ具合に不可解さを抱かざるを得ない。
「だったら」
コーニくんは僕の手を掴んだまま離さない。
「オレと協力して、オリジナルアニメでこの世界の馬鹿どもをアッと驚かせてやろうぜ」
コーニくんは自分の夢をぼくの夢に縫い合わせてきた。
まるでいきなり世界征服の提案をされてきたかのような、そんな頓狂さにぼくは圧倒されてしまう。
「悪くない提案だろ?」
ぼくの手を優しく握る。
ふわふわの質感。
心地よさの根元、彼は笑っていた。
栄光の笑顔だった。
それは自らの願望にちかづくための一歩を踏み出す、道の世界へと進む冒険家の勇気の輝きだった。
輝いている、としか言いようがない。
だけどそれだけの言葉で片付けてしまうのがどうにも、どうしてももったいなくて、ぼくは頭のなかで一生懸命に言葉を探そうとする。
記憶の中、埃を被って眠っていた引き出しの内側に指をすべりこませて、光景をいくつも拾い集める。
キラキラしたもの。
ブリリアントカットのダイアモンドのきらめきは、清純でありながらやがて熟れる美少女の蠱惑的な腹部のよう。
輝いているもの。
夏の太陽、照りつける熱さのしたに揺れる海原はディープキスの秘めた内側にヌルヌルと蠢く舌のような湿度。
燃えているもの。
闇の中に燦々と輝く篝火は、熱と明度によってヒトビトのこころに勇気と戦闘意欲を灯した。
そう、戦いたい、戦わずにはいられない。
戦わなくては! でなければ。
「熟れたリンゴは手に入らない、か」
「なに、その言い回し」
「おじいちゃんの真似」
「ふうん」
ラクはニヤニヤと笑うままである。
「なかなか、かっこいいじゃん」
何はともあれ、ここに契約は成立した。
してしまったのだ。
Doの世界に足を踏み入れてしまったのだ、もう後戻りはできない。
「キモ」
ああほら、なんて都合が良い、目の前に美味しい獲物が現れた。
……などと、比喩的表現に酔いしれている場合では無いようだった。
「あ、アサノくん」
ぼくはコーニくんと手を握り合ったままで、廊下に登場してきている彼の方を見る。
彼がここに入る理由は何となく分かる。
今回のすったもんだの、言うならば一応の被害者ということになる。
「えーっと」
しかしどうしようか、被害者に話しかけるべき言葉をぼくは知らない。
「元気ですか?」
ぼくが質問をする。
それを聞いたアサノくんは、なんともまあ……ものすごく怒った。
とても分かりやすい感情表現だった。
静かなはずだった、穏やかな雨の音色に彼の耳障りな怒気が異物のように混入する。
喉は大丈夫なのだろうか?
と不安になるほど叫んだ中で、とりわけ多く登場したのは「魔法使い」というワードだった。
「パパにいってやる」
アサノくんはなぜか僕のことを睨んでいた。
たぶんコーニくんのことが怖いのだろう。
そりゃそうだ、また怪獣に変身したら今度こそ切り殺されるかもしれないのだ。