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09話 街へ行く準備

 翌早朝。

 ドーラは、のっそりとベッドの上に身を起こした。


 昨晩のドーラとザックの飲み会は、リリリとのやり取り後すぐにお開きとなった。

 まだ飲み始めたばかりの二人だったが、ドーラはボロを出す前に一旦リリリと距離を置きたかったし、ザックは放心状態だったしで、そのまま飲み続ける雰囲気ではなくなってしまったためだ。


 リリリとは、出発は翌日の昼過ぎから、待ちあわせはこの場所で、とだけ約束している。

 

 ちなみに、ドーラとリリリは同じ宿屋に泊まっていたので(村に宿屋が一軒しかないから当然だが)、ドーラはなんとなく居心地悪い夜を過ごしたようだ。


「……あふっ。んー、昨日はヒヤヒヤした。リリリとニアミスしていたとはなぁ」


 ドーラは、欠伸を噛み殺しながら昨晩のことを思い返す。


「でもまぁ、本当に出会いそうになるほど接近していたなら、着ぐるみ状態の俺が気付けないわけないか? たまたま、狩りに出た日がずれてたのかもな」


 少しだけ考える素振りをした後、はぁーとため息をつく。


「……考えても仕方ないか。よし、起きよう。今日は午前の内に、ザックのところでグレートボアの毛皮を買い取ってもらわないとだからな」


 ドーラは、大きく伸びをしながらベッドを降る。

 身だしなみを軽く整えると部屋を出て、一階の食堂へと向かった。


 朝早いからか、食堂にリリリは降りてきていないようだ。


「おはよー。朝ごはんは食べる? パンとスープのセットだよ」


「あぁ、いただくよ」

 

「まいどありぃ」


 宿屋の女性店員にお金を渡して、適当な席につく。

 間もなく、固そうなパンと、もうしわけ程度にしか具の入っていないスープが運ばれてきた。


 ドーラは、特に気にすることなくモシャモシャと朝食をたいらげる。


 その後、一旦部屋に戻ったドーラは、身支度を済ませ、背負子に荷物一式を括り付けると、よっこらせっと背におぶり再び一階へと降りる。


 女性店員にチェックアウトする旨を伝え、外に出た。


 村の大通り、といっても人が横に5人も並んで歩けばふさがる程度の道幅だが、砂利で舗装された道を進んでいく。


 朝の時間帯、村は既に動き出していた。


 畑を耕す農夫や、近隣の川から既に魚を仕入れてきたらしき漁師など、皆が皆仕事に精を出している。


 そんな村の光景を眺めながら進んでいくと、やがて、一軒の雑貨屋に辿り着いた。

 店の看板には "ザックの雑貨屋" と書いてある。そのまんまの名前だ。

 外から見た感じ、ちょっとしたお屋敷くらいの広さがあるように見える。


 入口の扉を押し開けて中へ入ると、外から見た広さよりだいぶ狭く、よくあるコンビニ程度の広さだった。

 残りの部分は、居住スペースや在庫を管理する倉庫となっているようだ。


「おぅ、らっしゃい。まってたぜ」


 店内にはザックがいた。

 品出しをしていたところらしく、商品棚に木の皿やコップ等の食器を並べている。


「早速だが買い取りを頼む。昨日言っていたグレートボアの毛皮だ」


 そういうとドーラは、カウンターの上によっこらせと毛皮を置いた。


「こんなに大量の毛皮、備蓄してたのか?」


「いや。つい先日、一頭丸々から取れた分だな」


「一頭丸々!? 猟師仲間とつるんで狩ったんじゃなかったんかよ。そもそも、あんな重いモンスターをどうやって運んだんだ?」


「いや。渓谷を渡ってきたグレートボアが、たまたまうちの小屋周りに巡らせた罠にかかってさ」


 あぁ、なるほどといった顔をするザック。


「危ないところだったが、結果オーライってやつさ。まぁ、寝込んでる最中だったから、肉の方は駄目にしちまったがな」


 ドーラは、事前に考えておいた嘘をつく。

 これなら、他の猟師と話が噛み合わないこともない。


「なるほどなぁ。で、この毛皮なんだが、全部で金貨8枚でどうだ?」


「助かる。それで宜しく頼む」


「わかった。じゃ、ちょっと待ってな」


 そういうとザックは店の奥へ引っ込んだが、さほど時間もかからず戻ってきた。


「ほれ、8枚な。数えてくれ」


 金貨をドーラへ渡すザック。

 ドーラは、金貨の枚数を数えはじめる。


「……なぁ。リリリ様のことなんだけどよ?」


 ザックから声がかかった。


「6……7……8って、突然の様付け!?」


 キッチリ金貨を数え終わってから、突然の様付けにツッコミを入れるドーラ。


「だってよー。フランクル王国騎士団魔道士隊隊長のリリリ様といったら、超がつく有名人だぞ?」


「いやまぁ、魔道士隊の隊長ともなれば有名なのはわかるけど」


「平民出だが、その魔道士の才能をかわれ騎士団入りしたって時点でも凄いが、それで止まらずに数々の武勲を立て続けて、短期間で魔道士隊隊長まで上り詰めたスゲー人なんだぜ?」


「おぉ……」


 基本、森に引きこもって生活していたドーラは、そういった時事ネタに弱いところがある。


 しかし、どれだけの才能があれば、そんなに出世するのだろうか。

 もしかすると、ドーラのような特殊系スキル持ちなのかもしれない。


「本来なら、俺らなんかが口を聞けるような方じゃねーんだ。それなのに突如騎士団を抜けて、今は冒険者だもんな」


「そうそう。気になってたんだが、なんで騎士団を抜けたんだ?」


「そこはイマイチわからねーんだよなぁ。世間では様々な噂が飛び交っちゃいるが……例えば、スピード出世を嫉妬した他の魔道士に失脚させられたとかな」


「ありそうな話だな」


「まぁ、なんにしろだ。リリリ様との二人旅なんてシチュエーションは普通じゃねーからな。色々気をつけろって言っとくわ」


「気をつけろったって何を……まぁ、そうだな。とりあえず粗相のないようにしとく」


「あぁ。リリリ様と一緒となれば、モンスターの心配より、そういうとこを気をつけた方がいいやな。さてっと。旅に必要なもんも見繕っていくんだろ? それが一段落したら、一旦、茶でもしばこうぜ」


「あぁ、ありがとう」


 ドーラは旅に必要な物を集めてザックから購入すると、空いた背負子に括り付けていく。

 それが終わると、ドーラとザックは、昨晩語れなかった分を補うかのように多くの言葉ををかわし続けた。

 リリリのことや、これからの旅のことは勿論、他愛もない雑談まで、色々なことを話した。


 ザックは楽しそうに笑いながら話しているが、ドーラは時折、笑顔に影がさす。

 だがそれも一瞬のことで、ザックは特に気づいていないようだ。



  ◆◆◆



「おっとと、つい長居しちまったか。そろそろ行くか。じゃーな、ザック……元気でな」


「おぅ。またな」


 ドーラは、ザックに別れを告げて店を出た。

 王都へ引っ越す予定だということは、結局言い出せなかった。

 今後、ザックとはもう会うことがないかもしれない。

 (元ドーラ)の記憶ではあるが、同じ記憶を共有しているドーラとしては、ザックは唯一無二の親友だと感じているのだろう。

 別れ際の言葉に、そんな複雑な心境が滲み出ていたようにも思える。


 その後ドーラは、適当にぶらぶらと村を回りながら宿屋へと戻っていく。

 途中すれ違う顔見知りと軽く雑談などしながらなので、小さい村とはいえ、それなりに時間がかかる。

 宿屋へ戻った時には、既にお昼前といった頃合いだった。


 カランカラン


 宿屋の入り口をくぐると、食堂ではリリリが食事をとっているところだった。

 ドーラに気付いたリリリが声をかけてくる。


「おかえりなさい」


「あっ、どうも……リリリ様。本日は宜しくお願い致します」


「かしこまらなくても大丈夫と言いましたのに。雇い主なんですから、堂々としていてください。私のことはリリリと呼んでくれて良いですよ」


 頭をポリポリかきながらドーラが答える。


「そ、そう? じゃ、そうさせてもらうよリリリ。今日は宜しく」


「はい、宜しくお願いしますドーラさん。お昼を食べてしまいますので、出発まで少々お待ちを」


 そう言うとリリリは、昼食を再開した。


「俺もここで昼食を取るんで、ゆっくりどうぞ」


 ドーラは、女性店員へ軽食を頼むと、リリリの席へとやってきた。

 食事が運ばれてきたので、リリリと一緒に食事をとる。


 お互い、暫し無言で食事を続ける。

 二人が食事を終えたところで、リリリが口を開いた。


「さて。それでは出発しましょうか。フランクルエストまでは、順調に進めば徒歩で4日程でしょう」


「了解。改めて宜しく」


 こうしてドーラとリリリは、どことなく他人行儀なぎこちなさを残したまま、一路フランクルエストへ向けて歩を進めることとなったのだった。

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