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08話 フランクル王国騎士団

 宿屋兼酒場の入り口に現れた魔道士風な女性は、店内を軽く見渡すと、ドーラ達が座るカウンターからは離れた奥の方にある席へと移動した。

 女性店員さんに何かを注文した後は、席に座ると、難しい顔をして目を閉じている。


「ザック。あちらさんはどちらさん?」


「あぁ。さっき言ってた、先日帰った商隊の護衛の内の一人だったと思うが……そういやぁ、商隊と一緒に帰るのかと思いきや村に残ったなぁ?」


 魔道士風な女性に聞こえないよう、小声で会話するドーラとザック。


「あの姿からすると魔道士の冒険者かな? 次の商隊待ちに時間がかかるなら、あの人を雇えないかな」


「んー。でもなぁ……多分あれ、凄腕だから依頼料が高くつくぞ? あの装備見てみろよ。例えばあの肩当て、ブラックドラゴンの皮から作った特注品じゃねーか?」


「ブラックドラゴン!?」


「おいっ、声がでけぇーって」


「あ、すまん……」


 ザックに咎められ、声のトーンを落とすドーラ。

 魔道士風な女性はというと、先程と変わらず目を閉じたままだ。


「とはいえ、次の商隊も待ってられんし、駄目元で声をかけてみるかな」


「おぅ。ナンパしてこい。駄目だろーがな」


「そんなんじゃないっての」


 ザックの軽口を受け流すと、ドーラは席を立ち、魔道士風な女性の方へと近寄っていく。

 あと数歩まで近づいたところで、魔道士風な女性は閉じていた目をゆっくりと開き、ドーラを睨みつけてきた。


「そこの貴方。それ以上近寄らないでもらえます? 近づいたら魔法を打ちますよ?」


 物騒な警告が飛び出す。

 ただ、今時の声優さんのような声が可愛くて、チグハグな感じに思えた。


「わっ、わかったって。で、あのー、冒険者の方? 街までの護衛を探してるんだけど……」


「無理ですね」


 速攻で突っぱねられる。

 カウンターの方からは、ザックが吹き出す声が聞こえた。

 しかし、諦めずに食い下がるドーラ。


「あー……えと。どういう条件なら?」


「どんな条件でもです。私、この辺りに用事があってここにいるので。用事が済まない限り、ここを動く気はありません」


「用事……差し支えなければ、その用事というのは……」


「差し支えます」


「あっ、ハイ」


 見事に撃沈して、トボトボとザックのところへ戻っていくドーラ。


「……っぷ! ぶははははっ! 見事に振られたなドーラ!」


 カウンターをバンバン叩いて笑い転げるザック!


「うるせぇ! むー、そうなるとやはり次の商隊を待つしかないか……」


「そうだなっ! いやー、おもろかった!」


「まったく……じゃあさ、商隊に同行させてもらうための金を作りたい。ザック、グレートボアの毛皮は買い取ってもらえるか?」


 ザックに妖精の羽を買い取ってもらうのは無理だと見越したうえで、グレートボアの毛皮も背負ってきていたようだ。

 わざわざ重たい荷物を背負ってきた理由はここにあった。


「あぁ、それは勿論。流石に妖精の羽は無理だが、グレートボアの毛皮なら買い取らせてくれ」


 ガタンッ!


 とその時、突如あの魔道士風な女性が椅子を蹴倒して立ち上がった。


「今なんて言いました!?」


 声を張り上げつつ、今度は魔道士風な女性がザックの元へとやってくる。

 その剣幕に気圧され、たじろぎながら謝るザック。


「わっ、わるかったって! 笑ったりしちまって……」


「そうではなく、モンスター素材買い取りの話です!」


 魔道士風な女性に怒られると思いきや、よくわからない質問をされてキョトンとなるザック。


「え……グレートボアの毛皮を買い取り?」


「その前です!」


「えと……妖精の羽は無理だが……」


「それですっ! あるのですか!? 妖精の羽!」


「あーっと……あるのです?」


 ザックは、助けを求めるようにドーラの方を見て質問する。

 仕方なく答えるドーラ。


「あるけど。もしかして、そちらさんの用事というのは、妖精の羽が目的で?」


「そう! 妖精の羽があるなら買い取らせてもらえませんか!?」


 まさか、こんな形で妖精の羽の売買が成立しかけることになるとは夢にも思わなかったドーラ。

 ドーラ本来の目的は、妖精の羽を換金することではなく街へ出ることだ。

 ここで妖精の羽を換金してハイ終わりとはならない。

 寧ろ、街へ出るためのネタとして妖精の羽を使っていただけなので、妖精の羽だけ買っていかれると困る。


 理由もなく今の職業を捨てて街へ出るなんて言い出せば、きっとザックに止められてしまう。

 この世界での再就職は、そんなに甘くない。

 多くの人は、親の代から仕事を受け継いでいく。それが一般的な世界だからだ。


「えーっと……何枚ほど?」


「4枚……いや、5枚あれば十分です!」


 ドーラは、少しホッとした顔になる。

 妖精の羽が数十枚ほど手に入ったとザックに言ってしまった手前、全てを買われてしまっては街に出る口実がなくなってしまう。

 しかし、5枚程度であれば、残りを売りに街へ出るという口実を押し通せそうだ。


「なるほど……実は俺にもちょっとした用事があってね。単純には売ることができないんだ」


 それを聞いてガーンという顔になる魔道士風な女性。


「うぅっ……先程のお返しですか……」


 先程までの威勢の良さからうってかわって、その声と容姿に相応しい、可愛らしい反応を見せる。


「いや、俺のはそこまでの用事じゃないかも? 妖精の羽の在庫がもう少しあるのと、他のモンスター素材もあるから街へ売りに出たいんだ。だけど、俺一人だと荒野を抜けられないので困っているってわけ」


「なるほど……つまり、私に護衛を依頼したいと言っているわけですね?」


「話が早くて助かるよ」


 それを聞いて魔道士風な女性は思案顔になる。

 暫くすると口を開いた。


「どこの街までの護衛ですか?」


「ここから一番近いフランクルエストの街まで行きたいんだ。あそこなら妖精の羽も捌けるだろうから」


 フランクルエストは、この一帯を収めるフランクル王国の東に位置する大都市だ。

 王都フランクルを目指そうと考えているドーラだが、まずは近場のフランクルエストへ向うらしい。

 フランクルエストまで出れば護衛を雇い入れやすいし、お金はかかるが乗り合い馬車などもあるので、移動しやすくなるからだ。


「そうですか。本来なら私の護衛料は妖精の羽4、5枚程度ではまかなえませんが、良いでしょう。私の行きたい方向とも一緒ですし、相場価格で護衛の依頼を引き受けます」


 妖精の羽の買い取りを持ちかけられた時とは一転し、ドーラの望む方向へと話が転がりだす。

 ただ、なにやらオーバースペック気味な護衛を引き当ててしまった感がある。


「よ、妖精の羽でまかなえないとは、また大きく出たな。もしかして高名な方だったり……失礼がありましたら申し訳ありません」


 なんだか大物感のする物言いに、今更ながらドーラの口調がかしこまったものになる。


「今はただの冒険者です。かしこまる必要はありませよ? 私の名前はリリリ。フランクル王国騎士団魔道士隊隊長のリリリと言ったらわかりますか? と言っても、元隊長ですけども」


 それを聞いたドーラとザックは、あんぐりと口を開けたまま固まってしまった。


 フランクル王国騎士団魔道士隊。

 それは、フランクル王国が抱える、世界最高峰の魔道士の集まりだ。

 リリリは、その元隊長だという。

 ドーラ達からしたら雲の上の存在だ。


「しかし良かったです。私ともあろうものが、なぜか妖精を発見できずに困っていました」


「んんっ?」


 なにやら怪しげな会話の流れを感じ取り、ドーラがわずかに反応する。


「先程まで、この村の向こうに広がる大森林の奥、渓谷を渡った先にある妖精群生地帯に足を運んでいたのですが……」


「えっ」


 その大森林とは、先日までドーラが暮らしていた猟師小屋のあった森のことだ。

 リリリとニアミスしていたらしき事実に、背中を冷や汗が伝うドーラ。


「なぜか妖精の気配が全く無くて。誰かが乱獲でもしたのでしょうか……でも、妖精を乱獲ともなると私でも骨が折れますし……」


「ほ、ほぉーう。妖精を乱獲とか……あぁ、だから取りこぼしの羽が落ちてたのかなぁ〜ラッキー、あはは……」


「そうかもしれませんね。なにはともあれ、5枚も羽があれば錬金術用の粉をだいぶ作れるので、暫くは大丈夫です」


「そぉーですか、それなら良かった。はははっ」


「護衛は引き受けますので、妖精の羽の件は宜しくお願いします」


「こちらこそ! じゃ、交渉成立ってことで! あっ、もうこんな時間か! そろそろ部屋に戻って寝ようかな!」


 余計なボロを出す前に、強引に話を切り上げようとするドーラ。

 その横で、ザックはいまだ固まり続けるのだった。

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