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06話 邪神レヴィアタン

「んー。やはり、まずは近くの村を経由するのが良いみたいだ」


 ドーラが街へ引っ越すことを決意した翌早朝。

 街まで一気に移動するのは色々問題ありと判断し、まずは近くの村まで出てみることにしていた。


 【人形憑依】の力を使えば、街まで一気に移動するのは容易いだろう。

 しかし、着ぐるみ状態を人目に晒すことは避けたかったため、まずは村に出て、そこからは通常の手段で移動することにした。


「近くの村といっても、歩いて一日かかるらしい。まぁ、森の中はスキルを使って移動しちゃえばすぐだろう」


 森の中なら、着ぐるみ状態でも姿を見られないだろうという考えだ。


「さて。引っ越し準備もほぼ終わったな」


 昨日のうちに、荷物の整理はほとんど終えていた。

 この小屋に戻るつもりはないらしく、必要な物はすべて持ち出すようだ。

 と言っても、もとから大した物は置いていなかったので、ラシー他いくつかの人形や、自衛のためのナタ、その他の道具が数点、あとはボロ布のような衣類を数着持ち出すくらいだ。


 それでも小屋の外には、大量の荷物が山積みにされている。

 そのほとんどは、この一ヶ月で集めたモンスター素材だ。

 到底人間が持ちきれる量ではない。


「よしっと。あとは俺の嫁達だけだな。それじゃ、さっそく着ぐるんで出発しますか」


 そういうとドーラは、山積みの荷物をそのままに小屋へと入っていった。


 ドーラが小屋に入ってから15分程たった頃、小屋から悪魔のような着ぐるみが出てきた。

 いや、実際に悪魔なのか。


 彼女の頭の右側からは、くるりと巻いた太い角が生えていた。

 左側の角はというと、根元から折れてしまっている。

 髪の色は青と紫の間くらい。

 薄っすら開いている口元からは、短いキバも伸びていた。


 彼女の名は、レヴィアタン。

 人気ラノベ「勇者に討たれたが命を見逃してもらえたので、邪神だけど勇者に恋をした」に登場する。

 人気に火が付きアニメ化も果たしていた。


 レヴィアタンは、真っ青な生地に、金色のドラゴンの刺繍が入ったチャイナドレスを着ていた。

 丈は、太もも程までしかない超ミニ。

 着用者の体型がモロ出る衣装だが、とくに違和感なく女性らしい体型を見せている。


「…………」


 レヴィアタンの手には、ドーラが着ていた衣服が握られていた。

 その衣服をポイっと荷物の山に投げ入れると、もう一度小屋に戻っていく。


 すぐに小屋から出てきたレヴィアタンは、人ひとり入れるほどの木箱を肩に担いでいた。

 この木箱の中には、レヴィアタン以外の着ぐるみ道具一式が収められている。


 レヴィアタンは、先程ドーラの衣服を投げ入れた時とは異なり、大事そうに木箱をそっと下ろす。

 下ろした木箱は、荷物の山の脇に寄せた。


「…………」


 そこまでしたレヴィアタンは、荷物の山から数メートル離れる。

 そして、荷物の山に向けて無言のまま手をかざした。


 ヴゥン……


 レヴィアタンが手をかざした直後、小さな低い振動音とともに、荷物の山の数メートル上空に漆黒の闇が現れた。


「…………」


 レヴィアタンがかざした手をゆっくりおろしていくと、漆黒の闇もあわせておりてくる。

 その漆黒の闇は、荷物の山を飲み込み覆い隠していく。


 闇が全ての荷物を飲み込むと、レヴィアタンは、かざした手のひらを握る。

 すると、漆黒の闇が消え、山のようにあった荷物も跡形もなく消えていた。

 レヴィアタンの収納魔法の効果だ。


 レヴィアタンは、ドーラの嫁たちの中ではかなり使い勝手が良かった。

 というのも、ある程度の魔法であれば無詠唱で(発声を必要とせずに)行使できることが大きい。

 今使った収納魔法もその一つだ。


 無事、荷物を収納できたことを確認したレヴィアタンはコクリと頷く。

 そして上を見上げる。

 小屋のまわりの木々は切り倒されているため、視線の先には、早朝の薄暗くも青い空が見えていた。


 レヴィアタンが空に向かって軽くトーンとジャンプすると、そのまま地面に落ちることなく、ふわりと宙に浮かぶ。

 収納魔法同様、無詠唱で行使できる飛行魔法だ。


 レヴィアタンは、木々の合間に見えていた青空へ向かってゆっくりと上昇していく。

 木々の高さの倍ほどまで上昇すると一旦停止し、村の方角へと向き直る。


 そして若干前傾姿勢となり、猛スピードで飛び始めた。


「!?」


 いや。すぐにそのスピードを落とした。


 レヴィアタンはというと、自らの両肩を抱きしめ縮こまった態勢で飛行している。

 それなりのスピードは出ているが、出だしよりはだいぶ遅い。

 どうやら、まだ夜もあけきらない早朝なので気温が低く、猛スピードで飛ぶには寒かったようだ。

 服が薄手のチャイナドレス一枚であることもわざわいしたらしい。

 全身がタイツで包まれているため、一見すると温かいようにも見えるが、伸縮する薄手の生地なので防寒効果はほぼない。


 レヴィアタンは、震えながらも可能な限り先を急ぐのだった。



   ◆◆◆



 飛行スピードは落ちたものの、それでも歩くよりは大分早いスピードで距離を稼ぎ、朝のうちには森を抜ける辺りまで来ていた。

 森を抜けた後は平野が続く。

 平野に出てから村までは、残り数キロといったところだ。


 森を抜ける手前で、レヴィアタンは森の中へと降り立った。


「…………」


 前方へ向かって手をかざすと、ヴゥンという音とともに再び漆黒の闇が現れた。


 闇の中に手を入れ、なにやら探す素振りを見せた後、いくつかの荷物を取り出した。


 先日狩ったグレートボアの毛皮丸々一頭分。

 綺麗な虹色をした羽が10枚ほど。

 木箱。

 革袋でできた水筒。

 ドーラが着ていた服。

 ロープ。

 木の枝で作った背負子と呼ばれる道具。

 などなどだ。


 荷物を出し終わると、闇は消滅する。

 そこまですると、レヴィアタンの面を外すドーラ。

 同時に、白いモヤが霧散した。


「さむすぎるわっ! このチャイナドレスじゃないと【人形憑依】が使えないとかなんなんだよっ! ったく……ほぼ裸だし……寒い、はよ着替えよ」


 【人形憑依】は、元となったアニメキャラを忠実に再現する必要がある。

 衣装にしてもそうで、元となったアニメキャラが着ていない衣装を着てもスキルを発動できないのだ。


 ガチガチ奥歯を鳴らしながら、いそいそと着ぐるみを脱いで、元着ていた服に着替える。


「うぅ〜さぶ。鼻水垂れなくて良かった……」


 服を着たドーラは、レヴィアタンの面内部に溜まった湿気を拭き取ったり、結髪の乱れを軽く直したりと、簡単に着ぐるみをメンテナンスする。

 衣装や肌タイも、きれいに畳んでまとめた。


「そしたら、木箱にレヴィアタン一式をしまってと」


 木箱の中にレヴィアタン一式をしまうと、背負子の一番下にロープで括り付ける。


「おっけ。そしたら、他の出した物も背負子に括り付けてっと」


 全ての荷物を背負子に括り付け終わると、よっこらせと背負子を背負う。


「おもっ! さてと。流石にレヴィアタンのまま村へは入れないから、ここからは徒歩だ。このスキルは暫くは隠しておきたいしなぁ」

 

 【人形憑依】は、いくつか判明している他の特殊系スキルと比べても、かなり特殊なスキルのように思える。

 使い勝手はともかくとして、その効果はチートクラスだ。

 効果が知れ渡ると色々面倒が増えそうなので、暫くの間は隠しておきたいドーラだった。


「それじゃあ頑張って歩いていきますか」


 ドーラは、テクテクと森の中を歩いていく。

 しかし、ものの数分もしない内に息が上がり始めた。


「はぁ……はぁ……たった一ヶ月じゃ……(元)ドーラ程の体力には戻らなかったか……はぁ……はぁ……」


 まだ森を抜ける前だというのに、既に疲労困憊な様子だ。


「はぁ……はぁ……頑張れ俺!」


 そんなこんなで、ドーラが村に到着する頃には、すっかり日が傾いていたのだった。

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