05話 スキルとは?
「異世界転生してから、そろそろ一ヶ月かぁ」
この一ヶ月の間、ドーラは森でモンスターを狩り、川で魚を獲り、野草・キノコ・木の実など森の食材も集め、食料の備蓄を増やしていった。
いまや餓死の危機は完全に去り、それなりに豊かな食生活をおくれている。
そのかいあって、異世界転生初日は病的なまでに痩せ細っていたドーラだが、今では細身でスラっとしている程度の体型となっていた。
森の中の原始的な生活により鍛えられ、細マッチョとまでは言わないが、しなやかな筋肉も付きはじめている。
体型だけでなく、身だしなみも多少整っていた。
ぼさぼさだった髪や髭は、着ぐるむために邪魔だったため適度に手入れしているし、体も近くの川で毎日洗っている。
小ざっぱりしたドーラは、顔立ちの良さが強調されていた。
そこまで背が高くないので、イケメンというよりは美少年といった雰囲気だ。
「しかし、異世界転生した時はどうなることかと思ったが、無事生きながらえて良かった。やっぱスキルの恩恵が大きかったなぁ」
生活の安定化とともに、スキルについての理解・検証も進んでいる。
【人形憑依】については自らが試して検証していくしかないようだが、一般的なスキルの概要については(元)ドーラの知識が役立った。
スキルを発現することの難しさや、一般的なスキルの効果・種類、そして【人形憑依】のような特殊なスキルについても、わずかながら知識を得ている。
――― スキルの発現 ―――
まず、スキルは誰にでも発現する可能性がある。
日々剣の腕を磨き続ければ、やがてスキル【剣術】が発現するといった具合だ。
スキルにあった武器で戦うことで、スキルの効果を得られる。
裏を返せば、【剣術】を発現した者が槍で戦う場合は、スキルの効果を得られないということだ。
そうなると数多くのスキルを発現することで応用が効くと考えたくなる。
しかし、スキルを発現させるのはそう簡単ではない。
一般的に、1つのスキルを発現させるには十数年の歳月がかかるからだ。
幼少の頃から日々剣の稽古に打ち込んだとして【剣術】が発現するのは二十歳の頃、といった感じだ。
実際、普通に暮らしている一般人だと、何のスキルも発現せずに一生を終える者も多い。
スキルとは、そのくらい発現しづらいものなのだ。
――― スキルの効果 ―――
例えば【剣術】であれば、剣で戦う際に身体能力(筋力)が大幅に上昇する効果だ。
その効果は、スキルを一つも発現していない者ではほぼ太刀打ちできないほどの力の差となって表れる。
しかし逆に言えば、【剣術】の効果は身体能力が上昇するのみだ。
スキルにより突如剣の腕が上がるわけではないため、同スキル持ち同士であれば純粋な剣での勝負となる。
剣の腕は、あくまで自分で鍛え上げる必要があるのだ。
なお、一般的なスキルであれば、スキルの効果はどれも身体能力が上昇する効果となっている。
――― スキルの種類 ―――
次に、一般的なスキルの種類だ。
現在知られている殆どのスキルは、以下の2パターンに分類される。
■武器系スキル
【剣術】【槍術】【斧術】【弓術】【体術】など。
■魔法系スキル
【水魔法】【火魔法】【風魔法】【土魔法】【聖魔法】【闇魔法】など。
先に言った通り、武器系スキルの効果は、スキルに合った武器で戦う時に限り身体能力(筋力)が大幅に上昇することだ。
一方、魔法系スキルの効果は、スキルに合った魔法を使う時に限り身体能力(魔力)が大幅に上昇することだ。
魔力が上昇することで魔法の効果が高まる。
武器系スキルと魔法系スキル、どちらも身体能力が上昇するという点に変わりはない。
ちなみに【体術】は何かの武器を持つわけではないが、自らの体を武器として戦うと身体能力(筋力)が上昇する点が同じなので、武器系スキルに分類されている。
そして最後に。
武器系スキルにも魔法系スキルにも属さないスキルがもう1パターン存在する。
■特殊系スキル
特殊系スキルは、謎な部分が多い。
というのも、他人のスキルは目に見えるものではなく確認がとりづらいためだ。
武器系スキルや魔法系スキルはというと、発現例が多数あり、その存在は確定的なものとして知られている。
しかし特殊系スキルは、発現例自体が非常に少なく、しかも発現者が安易に公言することも少ないため、謎に包まれているというのが実情だ。
スキルの効果も様々なようで、武器系スキルや魔法系スキルのように定まったものがない。
――――――
「……そして【人形憑依】や【体力分配】も特殊系スキルってわけだ」
ドーラは、この一ヶ月で得たスキルの知識を復習しながら、ドーラやラシーのスキルが特殊であることを再認識する。
「ラシーの【体力分配】は、体力を回復できる点が特殊ってことだったな」
【水魔法】や【聖魔法】などの一つに、回復魔法がある。
しかし回復魔法は、怪我を治療できても体力までは回復できず、また、スピリット・ウンディーネのエレメンタル・オーバーヒールの様に病を治すこともできない。
「【体力分配】の使用後は、極度に衰弱する点が使いづらいな。暫くの間は全く身動きがとれなくなるし」
異世界転生した数日後、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、再度ラシーに【体力分配】を使わせてみた。
前回同様バテバテとなったラシーを励ましながら見守っていると、十数分後にはヨロヨロと歩ける程度に回復することを確認している。
「でもって俺の【人形憑依】は、元となった人物や動物、キャラクター等ができることなら基本再現できるのだろう。ただ……」
そう言うとドーラは、壁際に新たに設置した台の方に顔を向ける。
台の上には、ドーラの嫁達が並べられていた。
「そもそもスキルを使ったり、持続させるための条件がシビアすぎるのが使いづらい点だな。というより使い勝手悪すぎだろ……」
ドーラは、【人形憑依】についても色々試してきた。
面だけ被ってスキルを使えるのか?
面と衣装だけではどうか?
面と肌タイだけの、衣装なしではどうか?
衣装が違ったらどうか?
キャラクターがやらない変な動きは許されるのか?
声は出せなくても、筆談ならできるのか?
etc……
他にも色々試してはいたが、今あげたものの中だと筆談はOKで、他は全てNGという結果だ。
衣装なしは裸の描写があるキャラクターならいけるのかもしれないが、ドーラの嫁にそういった類のキャラクターがいないため試すことは叶わなかった。
「あと、気絶しない範囲での連続使用回数にも若干難ありだ。ラシーなら9回、嫁達なら3回がギリギリだしな」
異世界転生初日、スピリット・ウンディーネ3回めで気絶していたが、その前にラシーで1回使っているため、わずかに限界を超えてしまったらしい。
「まぁ、使用回数は半日も寝れば回復するし、【体力分配】のように一発で動けなくなるわけでもないから、その点はせめてもの救いだったか」
この一ヶ月で得た知識を再確認したドーラは、思案顔になる。
「んー。まだまだスキルは奥が深そうだ。スキルの研究家もいるようだし、いずれ会って話を聞きたいな。となると今後は……」
(元)ドーラの知識を吸収しつくし、自らのスキル検証も行き詰まり始めたことで、次の段階へ進むための道を模索し始めていた。
「まずは街へ出てみるか? スキルの知識も得やすいだろうし、溜まりに溜まった希少なモンスター素材も換金したい……それよりなにより、ここには娯楽がなさすぎる!」
異世界に来て暫くは、生きるのに必死でそんなことを思う余裕はなかった。
しかし余裕が生まれ、ここでやれることもやりつくした今、前世の都会での楽しい記憶があるだけに、こう何もないと辛くなってきたようだ。
「よし決めた! 明日行く!」
そう宣言したドーラは、早速引っ越し準備にとりかかるのだった。