15話 ギルドへの報告
「夜なのに賑やかだな」
フランクルエストの街へ入ったドーラは、辺りを見渡し呟いた。
まだ日が沈んでからそれなりに時間が経っているが、街はまだまだ賑わっていた。
数々の屋台が出ていて、食欲をそそる香りがそこかしこから漂ってくる。
門を入ってすぐのこの辺りは、飲食街となっているようだ。
「お腹が空いているところ申し訳ないのですが、まずは冒険者ギルドまで一緒に宜しいですか? 私だけが報告するより、複数の目撃者から報告したほうが信憑性を出せますので」
「あぁ、構わないよ。そのために急いでやってきたんだし」
ドーラとリリリは、その足で冒険者ギルドへ向う。
街の中央へ向けて歩いていくと、賑やかだった飲食街から、他の商業施設が並ぶエリアへと移ってきた。
武器屋、雑貨屋、薬屋などなどだ。
この辺りも日中は賑わっていたと思われるが、今は人通りも殆どない。
その一角に、周りの建物から頭1つ飛び出している大きな建物があった。
「ここがフランクルエストの冒険者ギルドです」
リリリは、開かれている冒険者ギルドの入り口をくぐり、中へと入る。
後へ続くドーラ。
中へ入ると、時間が遅いからか冒険者の姿はまばらだった。
そのまま受付カウンターまで進んでいく。
「あっ。リリリ様、こんばんわ。冒険者ギルドへようこそ。ご要件は何でしょうか」
受付のお姉さんが声をかけてくる。
ここでもリリリの顔は通っているようだ。
「こんばんは。至急ギルド長に会いたいのですが、繋いでもらえないでしょうか。魔族に関する報告と伝えてもらえればと」
それを聞いた受付嬢の顔が驚きに染まる。
「魔族ですね……少しお待ちいただいても?」
「はい。宜しくお願いします」
受付嬢は、急ぎ足で奥へと引っ込んでいった。
暫く待っていると、秘書とともに、スキンヘッドに眼帯を付けた、いかにも山賊ですといった風貌の男と出てくる。
これでシミター(片刃の曲刀)でも持たせたら、完璧な山賊だ。
「おぅ、リリリ。話は奥の応接室で聞くからよ。ちっと来てくれや……ん? そっちのにーちゃんは?」
喋り方まで山賊のようだった。
この男がギルド長ということだろう。
「私が護衛の依頼を受けたドーラさんです。現場に居合わせたので、一緒に来ていただいても構いませんか?」
「んー……まぁ、しゃーねーな。にーちゃん、俺はギルド長のギールだ。宜しくな」
「こちらこそ宜しくお願いします」
ギールからの挨拶に、商人モードで挨拶を返すドーラは、リリリとともにギールについていき応接室へと向う。
応接室へは、すぐに辿り着いた。
中には、向かい合わせで2つのソファーが並べられている。
「リリリとにーちゃんは、そっちに座ってくれや」
そう言うとギールは、ソファーへドカッと腰を下ろした。
一緒についてきた秘書は、ギールが座ったソファーの後ろへ控え立つ。
リリリとドーラもソファーへ腰を下ろした。
「で? 魔族が出たって?」
「はい。ドーラさんと二人で荒野を越えようとしていたところ、フランクルエストから南西に一日程行った辺りで、中級魔族1体と30体程のレッサーデーモンに遭遇しました」
リリリが答えると、ギールの顔が険しくなる。
「おぃおぃ……たった二人っきりで、そんなのに遭遇して生きて帰れたのかよ。流石にしんじがてーぞ……」
そういうとギールは、ドーラの方を見た。
その視線を受けてドーラが口を開く。
「最初は、ギゼと名乗る中級魔族1体が現れました。リリリさんがギゼを倒す間際、ギゼがレッサーデーモンを呼び寄せて……そこからは各個撃破でしたね」
「はい。ギゼが油断してくれていたのが大きかったです。レッサーデーモンと連携されていたら危なかったでしょう」
ドーラとリリリは、事前にすり合わせておいた虚偽の内容を報告する。
戦闘方法については嘘を交えつつも、遭遇した魔族の規模については偽りがない。
「なるほどな……にーちゃんも戦ったのか?」
「いや。私はただの商人なので。リリリさんの魔法で守ってもらって、陰から戦闘を眺めていただけですよ」
「ふぅーん……」
ギールは、値踏みするような視線をドーラに投げかけてくるも、暫くすると視線を外し、リリリの方へと視線を向けた。
「でだ。討伐部位はあるのか?」
「はい。と言っても、レッサーデーモンを呼び寄せられてしまった直後にギゼを消し飛ばしてしまったので、レッサーデーモンのものだけですが」
そう言うとリリリは、荷物の中からレッサーデーモンの小さな角約30本を取り出した。
「確かに……これだけの数のレッサーデーモンが自然に集まるわきゃねーし、中級魔族が呼び寄せたっつーのも頷ける。しかし、中級魔族を消し飛ばしたって、そりゃまた大技をぶっぱなしたみてーだな」
「中級魔族ですからね……生半可な攻撃は効きませんし、私も必死でしたよ」
「そりゃまぁそーか。しかし、中級魔族1体にレッサーデーモン30体か……すげぇ規模だな。魔族が何か企んでると思うか?」
「はい。十中八九は」
「だよな……」
その後も、細かなところの報告が続く。
基本、リリリとギールがやり取りし、たまにドーラが補足する形だ。
報告は1時間にも及んだが、ようやく終わりが見えてくる。
「大体わかった。後のことは、こっちでやっとくからよ。討伐ごくろうさん。明日にでも報奨を受け取りに来てくれや」
「わかりました。ありがとうございます」
「あぁ、それから……にーちゃんよぉ? この事は他言無用で頼むぜ?」
ギールがドーラに睨みを効かせ凄んでくる。
「ひぃっ!?」
あまりの恐ろしさに、思わず悲鳴が漏れるドーラ。
「ギールさん、顔が怖いですよ」
「ん? んははっ! わりぃーわりぃー。 いや、でもマジで頼むぜ? 魔族が出たなんて噂が街で広まっちまうと、色々と面倒だからよぉ」
ドーラは、全力でコクコクと頷いた。
「じゃっ、俺は行くぜ。速攻で調査クエストを発行しねーとだからな。おい、後は任せた」
そう言いながら、ギールは応接室を出ていった。
ギールの言葉を継いで、控えていた秘書が口を開く。
「お疲れさまでした。ギルド長が言っていたとおり報奨を用意しますので、明日、ギルドの受付までいらしてください。それでは、こちらへどうぞ」
秘書についていき、ギルドの入り口まで戻ってきた。
報告の間にだいぶ遅い時間帯となったこともあり、まばらにいた冒険者達は誰もいなくなっていた。
秘書に別れを告げると、ドーラとリリリはギルドをあとにした。
人通りが完全に途絶えた街の通りを歩きながら、商人モードを解除したドーラが口を開く。
「しかし、ギルド長のギールは、もの凄い圧だったな」
「怖いですよね。今は一線を退いていますが、昔は名のしれた冒険者だったらしいですよ?」
「なるほど……まっ、とりあえず上に報告もできたし、やっと一段落だな」
ドーラは、街の通りの端に背負子を下ろし、ゴソゴソと中を漁ると妖精の羽10枚を取り出した。
「はいこれ。護衛料ね」
「10枚!? 5枚のはずじゃ……」
「リリリは、5枚程度の価値じゃ雇えないんでしょ? それに、特殊系スキルのことを教えてもらったし、俺のせいで妖精を狩れなかったみたいだしさ」
そう言ってドーラは、リリリの手に妖精の羽10枚を押し付ける。
「よしっ、これで精算も済んだと。じゃ、ここでお別れだな……あ、そうそう。レヴィアタンを返してもらわないとだった」
リリリに向かって、返してと手を出すドーラ。
しかし、なにやら急にウジウジしはじめるリリリ。
「…………」
「どーかしたか?」
「……いやです」
「ん? 何が?」
リリリは、レヴィアタンの入った荷物袋を抱きしめて離そうとしない。
「レヴィアタンちゃんの魔法の秘密がわかるまで、お別れは嫌です!」
ドーラが別れを切り出した瞬間、突如、キリリッとしたモードから魔法オタクモードへと切り替わってしまうリリリ。
その様子に、あからさまに面倒くさそうな顔をするドーラだった。




